戦場での同僚は"残念聖女"と呼ばれていた追放令嬢でした。何処が駄目なのか分かりませんが、今日も精一杯一緒にお仕事に取り組みます。噂?何のことですか?
誤字を教えていただきありがとうございます
残念聖女に統一するつもりが、駄目聖女のままになっていました。すみません
ーー更に激化していく戦場、増える怪我人
「リリアン!!こっち、早く!」
「今行きます!」
私の声に、同僚であり親友であるリリアンは即座に反応する。
私目の前には負傷した兵士がいる。その傷は肩から腹にかけての大きなもので、目も当てられないような傷である。私には治せない。でも、リリアンなら…
「シオン!この人?」
「ええ、私では無理だったの。お願い出来るかしら?」
リリアンは、私の急なお願いにも嫌な顔一つせず強く頷いて治癒魔法を展開する。
彼女が胸の前で手を組むと、私の魔法の倍ありそうな眩い光が兵士を包む。
「………凄い」
何度見ても、奇跡の様な光景である。
でも、こんな凄い人が
ーー"残念聖女"と呼ばれているだなんて
私は、没落寸前の伯爵家の三女としてこの世界に生を受けた。
貧乏ながらも家族仲はすこぶる良く、私達をとても愛してくれている父に時には厳格だけどどんな時でも味方でいてくれる母。二人の姉様は私をとても可愛がってくれた。
そんな家族に愛されながら生きていた。
そのうち、一番上の姉様は内面の美しさに惚れた侯爵の次男と結婚し、二番目の姉様は学校で公爵家の長男と恋に落ちた末結婚した。両親は流行病の影響もあり早くに旅立ってしまったが、姉達のお陰で伯爵家は力を取り戻し、婿入りした義兄の腕の良さによって更に向上した。
そんな姉様達が私の憧れだった。
しかし、突如先代の王が病の悪化により亡くなってしまう。
その為、王の引き継ぎなどで王宮や貴族達は混乱。それを見計らった隣国が戦争を仕掛けて来た。
戦争が激化する中、貴族の家に通達が届く。
"ひと家族一人、出兵させる事"
平民を守るのが貴族の役目。この国では先ずは貴族から兵の補充がなされる。
「私が行こう…」
「そんな、貴方…!貴方がいなければこの伯爵家はどうするのです!」
普通、爵位を継がない次男や三男が抜擢されるのだが、我が家には男が爵位を持ったものしかいない。結果、現伯爵は困り果て、自分が行くと言い出した。今日も、夜中に二人で言い合っている。
正直、私も見ていられない。二人は愛し合っていた。そんな二人を引き裂くなんて、嫌だ。
「わ、私がいきます!!」
そう言って、ドアを思いっきり開ける。最初はポカンとして私を見つめていた姉夫婦も、我に返って私を止め出した。
「だ、駄目よ…!シオンの身に何かあったら、私…」
「そうだ、シオンには危険過ぎる」
そう言う二人に高級な紙で出来た手紙を手渡す。
「これに書いてあった。治癒魔法を持っている女のみ特例として許可するって」
二人はその手紙を読んで神妙な面持ちをする。
「回復班なら危険は少ない。お願い、私は二人の幸せを守りたい。今まで、沢山愛してくれた恩を返したい…!」
「…シ、オン」
私の言葉に姉様が膝から崩れた。私も姉も、目には目一杯の涙が溜まってしまう。
「愛なんて、返さなくてもいいのよ。私は、貴方に幸せな人生を送って欲しいの」
「嬉しい。姉様がそう言ってくれてとても嬉しい。でも、ここで姉様の幸せを崩したら私は幸せになれないよ」
そう、私は後悔したく無い。姉様が悲しむ様を見たく無い。
「行かせて、姉様。これが私のお願いなの」
私は、膝をついて姉の手を握った。
それから数日、伯爵が手配してくれたお陰で私が戦場に出る事になった。
もうすぐしたら迎えの馬車が来る。
二番目の姉様も、私の出兵を聞きつけて見送りに来てくれた。
「無事でいてね」
「絶対帰って来なさいよ」
姉様は泣くまいと必死に涙を堪えながら私に声をかけてくれた。
「うん、大丈夫。絶対帰ってくるから」
迎えの馬車が見えて来た。
私は支給された回復班用の軍服を翻して馬車の方へ向かった。後ろから姉様達の泣き声が聞こえて来る。
絶対に振り向かない。決めたんだ、自分で。
「怖くなんか、無い」
自分を奮い立たせる様に呟いた。
ーーそれから1年。
回復班としての仕事は完全に慣れ、今日も懸命に怪我人の治癒に専念している。
「怪我レベルSS!!」
その声にハッとしてさっきまで治癒していた患者の元を立つ。
「ありがとな、嬢ちゃん。これで子供達を置いて死なずに済んだ」
「いえいえ、次は怪我無しで顔を見せてくださいね」
そう言うと騎士のおっちゃんはニカッと笑って親指を立てた。
この仕事は思いの外責任と達成感があって、やり甲斐のある良い仕事だ。身の危険さえ無ければの話だが。
駆けつけたSSレベル患者はかなり酷い。少しでも治そうと治癒魔法をかける回復班の人間の中に参加する。
でも、これじゃ、駄目だ。
「リリアン!!こっち、早く!」
「今行きます!」
私の声に、同僚であり親友であるリリアンは即座に反応する。
私の目の前には負傷した兵士がいる。その傷は肩から腹にかけての大きなもので、目も当てられないような傷である。私には治せない。でも、リリアンなら…
「シオン!この人?」
「ええ、私では無理だったの。お願い出来る?」
リリアンは、私の急なお願いにも嫌な顔一つせず強く頷いて治癒魔法を展開する。
彼女が胸の前で手を組むと、私の魔法の倍ありそうな眩い光が兵士を包む。
「………凄い」
いつ見ても、奇跡の様な光景である。
光が収まった頃完全に治癒が完了したようで、リリアンがため息と共に額の汗を拭う。さっきまで浅い息を繰り返していた患者は落ち着いた呼吸に戻っている。
「リリアン、凄いな!」
「君の魔法はいつ見ても美しいよ」
そう言って次々と周りで見守っていた人間がリリアンに賛辞を贈りはじめた。
しかし、今ではこうして皆がリリアンにいい印象を持って接しているが、初めは違っていた。
リリアンは、周りに比べて一際強い治癒魔法を使える。しかし、田舎貴族の私は知らなかったが彼女は"残念聖女"と呼ばれていたらしい。
実は、この話はリリアンからしてくれたものなのだ。
出兵の為の貴族が集まったばかりの頃、どんなに人がいてもいつでもリリアンの周りだけ異様に空気が違っていた。しかし、社交界も碌に出ていない私には全く以て何があったのかは理解出来ない。それどころか見ていてリリアンが可哀想としか思えなかった。
少ない女子の内の一人という事もあり、風呂上がりの脱衣所で意を決して話しかけてみたのだ。その時のリリアンはとても嬉しそうに顔を綻ばせていて、とてもじゃないが悪いようには思わなかった。しかも、話すととても良い子でしかなかった。
そうして次第に打ち解けていったある日、何故周りの人があのような態度を取っていたのかを聞いた。
"残念聖女"
それがリリアンに貼られたレッテルだった。
原因はこの国の王からの婚約破棄の内容による根拠の無い噂。
「幼少期まで遡るのだけど、私は幼い頃から治癒魔法がずば抜けていた。その才能と公爵令嬢という立場によって勝手に聖女にさせられ、当時王子だった現国王の婚約者となったの。でもね、私は現公爵の不義の子だったから扱いはかなり酷いものだった。公爵家でも、神殿でも」
彼女自身は治癒魔法があるため、何があっても体に傷は残らないように出来る。しかし、心の傷は消えない。彼女は真っ白な綺麗な手とは裏腹に、心はズタボロになっていたのか。そう思うと胸がズキっと痛んだ。
「丁度1年前くらいかな…突然、王城に呼ばれ、そこで現王に婚約破棄を言い渡されたわ。彼の隣には私の妹がいてね、彼女と婚約するのに私が邪魔だったのよ。そうして、私に被せられた罪は治癒魔法の詐欺。『聖女リリアンの魔法の威力は微々たるものであり、王の婚約者になりたいが為に神殿を偽っていた』って理由らしい。私が夢見続けてきた王は救世主なんかでは一つも無かったわ。…そうしてここに飛ばされたって訳。残念聖女っていうのは国民の間で勝手に流行った婚約破棄騒動の噂から来たものなの。(頭が)残念な聖女ってね」
ヘラっとリリアンは笑う。そんなリリアンを見た私は彼女の胸の痛みが少しでも和らぐようにと彼女を抱きしめた。
「…ありがとう、私にそんな話をしてくれて」
「シオンはこんな私に声をかけてくれた私の味方だもん。それに、私、ここが一番自分でいられるんだ。公爵も神官も王もいないからかもだけど」
それから、彼女は戦場でメキメキと力を発揮させて今に至るというわけだ。
最初の周りの嫉妬からの嫌がらせとかは正直イライラしたけど、次第に手のひらを返し始めたのはもっとイライラしたのをよく覚えている。今更感が拭いきれなかったのだ。
そして今では国の生存がかかっている戦いでの功績はもちろん国中に広がっていくので、残念聖女のリリアンは戦場での功績が輝くにつれて次第に国中の彼女の認識は残念ではない聖女となっていった。
そうなると困るのはもちろん王様含め神官や公爵。まぁ、市民に王の怠惰さと傲慢さが少しずつバレて支持率は下がっているというのに、そこに戦場で輝く聖女を能力がないなどという理由で婚約破棄したという内容があれば、更に支持率は酷く落ちるに決まっていた。
そんな状況を打破する為か現在、王は戦場に来ている。
建前は、上に立つ者として自身の目で見る事が大切だというらしい。しかし、その実リリアンとのよりを戻そうというものなのだろう。あまりにもわかりやすい。
戦場にいる人間よりも今更な王を見ると何とも滑稽である。
◇
「かんぱーい!!」
その掛け声と共にビールを煽る。
今日も、あのSSレベル患者を合わせて約30人に魔法を施した私の疲れた体を癒す為に回復班の人間とビールで乾杯する。戦場の飯なので別に美味しくはないが、ビールが加わるとその日の疲れが癒される程になる。
「いやー、今日も疲れたなぁ…」
「本当にお疲れだよ」
回復班の人間でお互いを労い合う。これも回復班で夕食を食べる時の恒例行事だ。
「あれ、リリアンは?」
私の隣に座っていた同僚が声をあげる。そういえば、今日の仕事終わりから見ていない。
「シオンが知ってるんじゃないの?いつも一緒にいるんだし」
「いや、知らない。今日は私に用事があって、仕事終わりに別れていたんだ」
「それは心配だなぁ。こんなとこで女の子一人だったら何があるか分かったもんじゃ無い」
「そうっすね!それに、今は王もここに来てますしね」
場が一気に心配ムードになる。
回復班は満場一致でリリアンを探す事に賛成し、バラバラに分かれて手分けして探す事になった。
「リリアンがいそうな場所…何処だろう」
「お前は分からないのか?普段一緒にいるのに」
私の横でそう挑発口調で私を煽ってくるのは、分かれる時に「女の子一人は危ないから」と勝手にくっつけられた相手、ディアン。彼はリリアンのお目付役としてこの戦場に来た野郎である。最初はリリアンを嫌っていたが、次第に彼女の人柄に惹かれて彼女を守ろうと考えるようになったらしい。
しかし、今ではリリアンを変な輩から守ったり、少し抜けている彼女のお世話をする保護者の様になっている。
お目付役では無くてお世話係の方が天職かもしれないぞ。
「一緒にいるからこそ分からないんだよ」
「ふぅん、そんなものなんだ」
「そういうディアンは何で今日に限って彼女を知らないんだ?」
「ここに来ている王に呼ばれていた」
「こういう時に役に立たなんだな、お前」
私は「やり返してやった!」とばかりに胸を張る。
何かと『やられたらやり返せ』はスッキリするから重宝する。言われた当人である彼は、バツが悪そうに顔を背けた。
「ふん、それにしても本当にリリアンは何処にいるんだろう?それでさえ、王がいるから単独行動はしないって言っていたのに」
「それは同感だ。一つ、最悪な想定をするとすれば王に捕まったくらいじゃないか?」
「まさか、あのみんなの憧れの的のリリアンなんだからそんな事になってたら誰かが騒いでるわよ」
リリアンは公爵の血を引いているだけあって綺麗な美貌を持ってるし、優しいし有能なので戦場の野郎の高嶺の花なのだ。
「そうか、あの目障りなリリアン親衛隊とやらもいるな」
「そうそう、だから大丈夫とは思うけどね」
そうは話してから15分が経ったが、リリアンは一向に見つからない。
誰もリリアンを見ていないと言うのだ。
「そういえば、王の一行を見なくないか」
「確かにそうね」
いつもは王の権威を利用して偉そうにしている奴らが見えない。
「まさか……!」
「ディアン、あんた王と会ってたんでしょ。何か言ってなかったの?」
「いや、王の使者と会ってたんだ。王は知らない」
「もし、それがリリアンを攫って王都に帰る作戦の一部だったら…」
あまりにも偶然が過ぎる。
急遽上に呼ばれた私に王の使者に呼ばれたディアン。さっき会った親衛隊も各々仕事やら用事が入ってリリアンを見れなかったと言っていた。
ディアンも理解したようで、焦り始めた。
「急ぐぞ、シオン!!」
「ああ」
私達は馬に乗って王の一行の後を追った。
◇
15分くらいすると王の一行の馬車が見えた。近場で馬から降りて近くの木に手綱を括る。
「俺は、周りの護衛を引きつける。その内にお前は馬車に潜入してリリアンを助けろ」
「分かった。ていうか、あんた一人で大丈夫なの?」
「あんなひ弱な奴に戦場に派遣された俺が負ける訳ないだろ。というか、お前の方が心配だわ」
そう言ってそいつは私の頭をポンと叩いた。子供扱いかよ。
「はんっ、分かったよ。私だって出来るし」
「じゃあ、3、2、1で行くぞ」
「分かった」
王の一行の前に飛び出したディアンが護衛を軽くあしらって注目を引いている間に、王が乗ってるとディアンから教えてもらった前から2番目の馬車に近づく。
窓から中を覗くと、青い顔をしたリリアンがいた。リリアン見つけた!
リリアンの前には顔を歪めた王がリリアンに何か言っている。
様子を探る為に聞き耳を立てる
『お前を妃にしてやると言っているのだ!!大人しく従え』
『嫌です…!!それに、妹がいたのではないですか?』
『あいつは愛人にする』
『あ、愛人…!?そんな愚行が許されるはずがありません』
聞こえて来る会話だけで分かるクズさに呆れる。
『第一、こうなっているのも貴方の自業自得です!私は貴方の妃になるくらいなら、戦場の仲間と共にいたいです!!』
『ちっ、好き勝手言いやがって…!!お前を娶ってやると言っているのに!!!』
自分勝手な理由でキレた王がいい事を思いついたように口角を上げ、リリアンを押し倒した。
『既成事実をつくればいいのだ!』
『ヒッ……や、やめて!!』
その様子を見た私は護衛に構わず瞬時に勢いよくドアを開けた。多分、今の私の顔は般若並だろう。
「な、お前は誰だ!」
「シ、シオン!!」
私は素早く二人を引き剥がし、リリアンをこちらに引き寄せ王を睨んだ。凄く物申したいが、王の護衛が近づいて来る音が聞こえるので急いで此処を離れる。
馬を置いた場所に戻ると、ディアンが既に帰る用意をしてくれていた。
「成功だ。じゃあ、さっそくで悪いけど急いで帰るぞ。捕まったらどうしようもないからな」
「分かった」
私達は急ぎで馬に乗って戦場へと帰った。
戻ると回復班の面々が待っていてくれ、「安心した」と次々に泣き始めた。リリアンに次いで急にいなくなった私達を心配して探そうとしてくれていたらしい。
その後、リリアンは妃にされる事は無く今回の事の顛末が世に知られるのを恐れた王はそれ以降私達に手を出さなかった。
しかし、リリアンが大好きな人間が占める戦場ではあっという間にリリアンが攫われた事の顛末は一瞬にして広まり、『聖女誘拐事件』と安直な名前がつけられ、戦争の最中に語り継がれたらしい。
そんな事件の後、リリアンに求婚や告白をする人間が増えた。口説き台詞は全員「次は俺が守る」だ。しかし、リリアンは男慣れしていないせいか優しすぎるせいか、告ってくる相手をよく見ずに速攻でOKサインを出そうとするのだ。
そんな変な輩とのお付き合いを私とディアンが許すはずがない。
「この公爵子息がリリアンに相応しいね。見目良し、器量良し、身分良しだ!!」
「はぁ??お前、見る目がねぇなぁ…絶対こっちの伯爵子息だ!相手を気遣う能力が飛び抜けて良い!」
「いや、そんな野郎じゃ絶対浮気する!!却下」
「二人共落ち着いて……ね」
そう言って私達を宥めるリリアンを見た後、ディアンを見る。やはり気が合わない。
「「……ふん」」
「息ぴったりじゃない」
このように、リリアンの許可を取ってそんな野郎共を私とディアンで選別し見定めするようになった挙句、意見の違いで言い合いが増えたのはまた別のお話。
隣国は未だに攻めてきているので戦場からは帰れないけれど、今日もリリアンと回復班のメンバーと一緒にお仕事に精一杯取り組みます。
お読みいただきありがとうございます!!
テンプレ感のある内容でしたが、楽しんでいただければ幸いです。
続きも書く予定なので、また見ていただけると嬉しいです