75.みんなで作る、パンとイチゴジャム(1)
作物所へ小麦を納品しに来た。
「コルクさーん、いるー?」
お店の中に入り、コルクさんを呼んだ。しばらくすると、コルクさんが店の奥から現れた。
「おう、来たな。クレハとイリス、久しぶりだな」
「久しぶりー」
「お久しぶりです」
「魔物討伐はどうだ、順調か?」
「もちろん、順調なんだぞ!」
「大分慣れてきたので、順調に魔物を討伐出来てますよ」
「そうか、それは良かった。それじゃあ、今日の分の小麦をよろしく頼む」
私は魔動力を使って小麦の袋を浮かせると、店のカウンターに置いた。それをコルクさんが受け取って、一つずつ重さを測っていく。
「よし、今日も同じ量だな。しっかし、農家の人がいなくなったから作業が遅れると思ったんだが、意外と早かったな」
「二人は魔物討伐で体を鍛えていたから、小麦の収穫作業は以前よりも早くなったんだよ」
「ウチの脱穀姿を見せてあげたいくらいだぞ!」
「私も以前より速く動くことが出来るようになりました」
「へー、そうなのか。頼もしい二人がいてくれて本当に助かったぞ。なんとか、農家の人たちの小麦の収穫まで小麦がもつ」
うんうん、二人がいるお陰だよね。私もなんとか村に小麦粉が行き渡ることが出来て、本当に安心した。
「じゃあ、一週間小麦の納品よろしく頼むな。それだけ納品して貰えれば、間に合うだろう」
「分かった。三人で一週間頑張るよ」
「そういえば、木のほうが大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫。しばらく小麦の収穫で忙しいことを伝えたら、私の仕事は問題ないからそっちに集中してくれって言われた」
木を抜く作業はこの一週間お休みになる。まぁ、私の作業はかなり進んでいるから、少し休むくらいが丁度いい。
「木のお仕事ってあとどれくらいなんですか?」
「そうだなー、数日あれば終わるくらいには進んでいるよ」
「あと、もうちょっとじゃないか! ノアが一人で森を更地にしたとか、凄いんだぞ」
「だよなー。俺もその魔法を使ってみたいぜ」
魔動力、本当に便利。次に覚える魔法も便利だといいなー。あ、忘れるところだった。
「コルクさん、イチゴの種ってある?」
「もちろんあるぞ。ノアが植物魔法を使えるって知った時から、色んな種を取り揃えてあるんだ。今、取ってくるな」
コルクさんは一度店の奥に行った。しばらく待っていると、袋を持ったコルクさんが現れた。
「ほら、イチゴの種だ。今度は何を作るんだ?」
「ジャムを作ろうと思って」
「あー、ジャムか。砂糖も手に入っているし、作れるな」
「コルクさんはジャムを知っているんですか?」
「ウチらは知らないんだぞ。それって美味しいのか?」
「あー、甘くて美味いぞ。一度食べたら病みつきになること間違いなしだ」
二人はジャム初体験だし、ここは頑張って美味しいジャムを作らなくちゃね。種を受け取り、代金を支払い、小麦の清算をした。
「これで今日の仕事は終わりだな、お疲れさん」
「うん、コルクさんもお疲れ様」
「おう。美味しいジャム作ってあげろよ」
「うん、任せて」
私たちはコルクさんにお別れを言い、外へと出てきた。
「じゃあ、帰りますか?」
「雑貨屋に寄っていってもいい? ジャムを入れておく瓶を買っておきたいの」
「へー、ジャムって瓶に保存するんだな。じゃあ、行こう!」
荷車を魔動力で動かして、雑貨を目指した。
◇
雑貨屋に行き必要な瓶を買うと家へと戻ってきた。
「じゃあ、まずはイチゴの収穫からやり始めようか」
「イチゴってどんな食べ物なんだ? 野イチゴとは違うのか?」
「野イチゴよりも大きくて、甘酸っぱくて美味しいよ」
「小さなころは野イチゴ沢山採って食べてましたね。あれと似たような食べ物なんですね」
「そうだよ。多分、こっちのほうが瑞々しくて美味しいと思うよ」
種と大きな木の器を持って外に出ると、畑に近づいていく。その畑の前にしゃがみ、指で土にくぼみを作って中に種を入れる。
「じゃあ、イチゴを育てるよ。植物魔法!」
植物魔法を発動させると、種から芽が出て、茎が生えて葉っぱが生える。小さな花が咲いたと思ったら、それは大きな赤い実になった。
「へー、これがイチゴか。野イチゴよりも大きくて、食べ応えがありそうなんだぞ」
「いくつか食べてみようよ」
「そうですね、味が気になります」
それぞれがイチゴを茎から取ると、口の中に入れる。噛むとイチゴの風味と一緒に甘酸っぱい果汁が溢れだした。
「うーん、美味しい」
「すっごく瑞々しいな!」
「甘くて、でもちょっとだけ酸っぱくて、美味しいです」
「もうちょっと食べてもいいか?」
「もちろん、いいよー」
一つのイチゴはあっという間に食べ終えて、すぐに次のイチゴへ手を伸ばした。赤く熟れた実は一口食べると果汁が溢れだし、甘味と酸味が絶妙でとても美味しい。
「やっぱり美味しいね。これだったら、このまま食卓に出して食後のデザートにしてもいいかも」
「でも、ジャムが気になります」
「ウチもジャムが気になるんだぞ。どんな食べ物なんだ?」
「ジャムはね、パンにつけて食べるものなんだよ」
「パンにつけるんですか!?」
「ブルーベリーソースをパンにつけて食べていたでしょ。あんな感じでパンにつけて食べると、とっても美味しくなるんだ」
「それを聞くと、ますます気になるんだぞ」
パンと聞くとイリスが食い気味になるのが面白い。クレハはあの味を思い出して、ちょっとよだれを垂らしていた。
「じゃあ、イチゴを収穫したらこの木の器に入れてね」
「分かりました」
「分かったぞ」
イチゴを堪能した後は収穫だ。イチゴを潰さないように茎から外して、木の器に入れていく。黙々と作業を続けていたら、木の器の中がイチゴでいっぱいになった。
「よし、全部採れたね。あ、イチゴの苗を抜いてくれない?」
「ほい、抜いたぞ」
「じゃあ、それを家の傍にある穴に入れて。後で燃やして処分するから」
「分かったぞ」
立ち上がると家に向かって歩いていく。その途中、クレハは穴にイチゴの苗を放り込んだ。それから、家の中に入るとキッチンカウンターのところに木の器を置く。
「さて、まずはパン作りから始めようか」
「ジャム作りからじゃないんですか?」
「フワフワのパンを作るには発酵時間っていう時間が必要なの。手間はそんなにかからないけれど、置いておく時間が必要だから先に作っておくんだ」
「そうなんだ。初めてのパン作り、ドキドキするんだぞ」
「まず、二人の手に洗浄魔法をかけるね」
二人が手を出してくると、私はその手に洗浄魔法をかける。次にキッチンカウンターの下の棚から大きな木の器を取り出す。
「じゃあ、この中に小麦粉を入れるよ」
「私が入れてみたいです」
「分かった」
小麦粉が入っている紙袋を取り出してイリスに渡す。イリスは紙袋を開けて、中に入っている匙を手に取って木の器に小麦粉を入れ始めた。
「えーっと、どれくらいでしょうか?」
「木の器のこれくらいになるように入れて」
「分かりました」
「ウチ、ウチもやるんだぞ!」
「クレハは塩と砂糖を入れてもらおうかな」
「分かった!」
イリスは慎重に小麦粉を木の器に入れる。そして、私が言った通りの量を入れることが出来た。次は塩と砂糖だ。
「はい、クレハ。こっちが塩でこっちが砂糖ね」
「分かったぞ。どれくらい入れればいいんだ?」
「塩は一杯、砂糖は二杯入れて」
「分かったんだぞ」
クレハに塩と砂糖の入った瓶を手渡した。クレハは慎重に瓶から塩を取り出して一杯入れる。次に砂糖の瓶から二杯取り出して入れる。
「これで残りは天然酵母と水だね。これは私がやるね」
冷蔵庫の中から天然酵母を取り出して、中の液体を木の器に入れる。その天然酵母をまた冷蔵庫の中に入れると、最後に必要なのは水だ。毎日作っているパンだから、既定の量を出せるほどの器用さを手に入れた。すぐに必要な分の水を水魔法で出すと、木の器に入れる。
「じゃあ、今度は混ぜて捏ねる作業だよ」
「私が先でいいですか?」
「じゃあ、次はウチだな」
イリスが木の器の前に立つと、恐る恐る手を入れてかき混ぜ始める。粉と水がどんどん合わさっていき、まとまり出した。
「混ぜるだけなのに、結構力がいりますね」
「まとまるまでが大変だからね。混ぜ終わって生地がまとまり出したら、今度は手のひらで押すように捏ねるんだよ」
「捏ねるのはウチがやるぞ!」
「じゃあ、私は混ぜてまとめる担当ですね」
イリスは懸命に材料を混ぜて一つの塊にした。ここで選手の交代だ、クレハが木の器の前に立った。
「じゃあ、捏ねるんだぞー!」
「イリス手を出して、洗浄魔法かけるから」
「ありがとうございます」
気合を入れてクレハが捏ね始めた。
「うわ、なんだこれ! すっごく柔らかいんだぞ」
「そうですよね、ずっと触っていたいくらいの柔らかさでした」
「面白いんだぞ。これがウチらが食べているパンの生地なんだなー」
「これが膨らんであのパンになるなんて信じられません」
「それが、発酵させて焼けばなるんだよね。まぁ、楽しみにしてて」
パンを捏ねているだけなのに、楽し気な雰囲気は続いていった。いつもは一人でやる作業だけど、みんなが一緒にいるととても楽しい。たまにはこういう時間もいいよね。
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