30.相談
私は男爵様に向かって話し始めた。
「今、畑仕事は三人で行っています。ですが、それだけじゃ自分たちの生活が豊かにならないので、ここにいるクレハとイリスは魔物討伐に行こうと考えています」
「二人が魔物討伐を? 子供のお前たちが、危ない魔物討伐をするとは感心しないな」
「でも、魔物討伐も必要なことですよね?」
「確かにそうだが。そちらも人手が足りないのも事実だ。そちらもやってくれるのは嬉しいが、無理はしていないよな」
「はい、前の町の時も魔物討伐をしてました」
男爵様は私たちを心配して、魔物討伐に難色を示した。確かに子供のクレハとイリスが魔物討伐をするのは、危険が付きまとう仕事だからそう思うのも仕方がない。
「もしかして、畑仕事だけでは食べていけないほどに困窮をしているのか? それなら、少なからず援助は出来るぞ」
「いえ、畑仕事だけでも大丈夫です。二人が魔物討伐をして、生活の足しにしたいと言っているんです」
「二人が自ら言ったのか? 本当か?」
「本当だぞ!」
「嘘ではありません」
「そうか、お前たちの意思は固いんだな。安全な畑仕事に従事してもらったほうが、俺としても助かるし安心するんだが。そういうことならば、致し方ないだろう」
私たちの説得で男爵様が折れてくれた。これで二人を魔物討伐に向かわせることが出来るね。
「二人が魔物討伐に出かけると畑仕事は私一人で行わないといけなくなります。一人でできる作業は限られているので、一人で作業をすれば収穫が落ちてしまいます」
「それは一大事だ。今も懸命に畑仕事をして作物を収穫してくれている、それが追いつかなくなると村がまた食糧難になってしまう」
男爵様は親身になってしっかりと話を聞いてくれて、相槌をしてくれる。その優しさに甘えるように、相談を持ち掛ける。
「私一人ではこの村の食糧を賄いきれません。なので、人手を集めて欲しいのです」
「なるほど、俺に相談したいことは畑仕事を手伝ってくれる人を集めて欲しい、ということなのだな」
「はい、そうです」
「そうか」
男爵様は腕を組むと目を閉じて考えた。一体何を考えているのか分からないが、どうかいい結果がでますように。
「やはり、無理をして魔物討伐をしなくてもいいんじゃないか、と思う。畑仕事をして困窮している訳ではないのだろう? だったら、これまで通り三人で畑仕事をすればいいじゃないか」
あぁ、話がぶり返した。男爵様がいうように、畑仕事をしていれば三人の生活は賄えると思う。それだけの作物を収穫しているのだから、収入だってある。
でも、それだと私たちが求める生活はできない。私たちの生活を豊かにするためには、私の新しい魔法が必要だからだ。新しい魔法を習得するためには、クレハとイリスの称号をレベルアップさせないといけない。
「申し訳ないが、俺は男爵だ。村のことを一番に考える立場にある。だから、個人よりも村が豊かになるほうを選んでいる。俺に村のためになることを進言しないと、お前たちの相談には乗れない」
困ったような表情をして男爵様はそう言った。確かにその通りだ、男爵は村の長だから村のことを一番に考えている。今この村で大切なのは食糧難を乗り越えること、そのためには私たちが畑仕事を頑張らないといけない。
私たち個人の豊かさよりも、村の豊かさを優先させている。村の長としてその考え方は正しいが、私たちも自分の生活のためには後に引けない。どうにか説得する言葉を探さないと。
「俺を納得させられる言葉はあるか? もし、あるなら何でも言ってくれ。お前たちの力になりたいと思っている」
ここは正直にいうしかないよね。
「実は魔物討伐に出る二人には特別な称号があるんです」
「称号持ちだったとは知らなかった。どんな称号があるんだ?」
「勇者の卵と聖女の卵です」
「なっ!?」
ガタッとイスから男爵は立ち上がって驚いた。
「二人の称号は魔物討伐に適した称号だと思います。そんな二人が魔物討伐を行えば、開拓は進んでくれると思います」
「そんな貴重な称号持ちがここにいてくれるとは。確かに、この二つの称号は魔物討伐に適している。勇者は魔物を屠り、聖女は怪我を癒す、戦線の要となる存在になるだろう」
イスに座り直した男爵は真剣な表情でそんなことをいった。すごい称号を持っているんだな。私の称号はどれくらい貴重なんだろうか?
「その二人が魔物討伐で活躍してくれるのなら、開拓は進むであろうな」
「ちなみに私も称号持ちです」
「ほう、どんな称号を持っている?」
「賢者の卵です」
「なんだとっ!? それもまた貴重な称号、めったにお目にかかれない称号みたいだ。確率は貴重過ぎて分からんくらいだ」
そっか、賢者の卵も貴重な称号だったんだ。なんか、二人よりも貴重な感じみたいで驚いた。
「それで、賢者の卵とやらはどんな力があるんだ?」
「詳しくはまだ分かりませんが、魔法を覚えるみたいです」
「魔法か……もしかして、賢者の卵も魔物討伐に向いているんじゃないか?」
色んな魔法が使えるようになったから、魔物討伐に生かす手もあるだろう。だけど、私たちは他のことで魔法を生かしたいと思っている。
「魔物討伐に向いているかもしれませんが、魔物討伐に向かない魔法も覚えます。それが植物魔法です」
「なるほど、賢者の卵の称号を手に入れたから植物魔法を使えるようになったと。それならば、賢者の卵の魔法が一律魔物討伐に向いているとは思えないな。もしかしたら、村のためになる魔法を覚えるかもしれない」
そうなのだ、魔物討伐に向いている魔法もあれば向いていない魔法もある。だから、今後覚える魔法はどちらかの特性がある魔法だと思う。
「多分ですが、賢者の卵という称号がレベルアップすれば新しい魔法を覚える可能性があります。賢者の卵になったことで、色んな魔法を覚えました」
「なるほど、称号のレベルアップか。して、新しい魔法を覚えるためには賢者の卵をレベルアップさせる必要がある。どのようにレベルアップするのだ?」
「賢者の卵の称号が生えてきた原因が勇者と聖女を育てたから、というものでした。だから、勇者と聖女の称号をレベルアップさせるとおのずと賢者の卵もレベルアップしていくんだと思います」
まだ憶測の範囲だが、二つの称号に関連しているのは確かなことだ。もしかしたら、賢者の卵のレベルアップは賢者の魔法を使うことかもしれないが、今まで使ってきてその気配がない。ということは、賢者の卵のレベルアップは特殊なことが必要になりそうだ。
「賢者の卵をレベルアップさせるためには、勇者と聖女の称号のレベルアップが必要。そして、その勇者と聖女のレベルアップには魔物討伐が必要だということです」
「なるほど、始めに戻ってきたな。だから、二人を魔物討伐に向かわせるんだな」
「はい。とにかく二人を魔物と戦わせたり、聖魔法を使わせたりしないとレベルアップしないんです。だから、畑仕事を止める必要があります」
自分たちのことは全て話したと思う、あとは男爵様がどう考えてくれるかが問題だ。
「正直言って魔物討伐はそれほど進んではいない。この村に来てくれる冒険者が少ないせいでもあるが、魔物の数が多いのも原因の一つだ。だから、村の開拓を進めるためには魔物討伐は大切なんだ」
「開拓というと、木を切って土地を広げることですよね」
「あぁ、そうだ。その木を使って建物を作ったりもしなくてはいけない。だから木を切る時に邪魔となる魔物の排除が必要なんだ」
生活圏を広げていくのは、とても労力がかかることだ。魔物がいればそう簡単には進まないだろう。もし、二人が魔物討伐に加わって凄い成果を上げれば開拓も進む。
「正直言って、称号持ちの二人は魔物討伐をして欲しくなった。本当なら子供を理由に辞めさせようと思っていたところだ」
「それじゃあ!」
「あぁ、二人の代わりになる畑の働き手を探すことにしよう」
「やったぁ!」
「やりましたね!」
今まで黙って聞いていた二人も思わず声をあげるくらい、嬉しい言葉だ。
「俺が責任をもって、農家と話をつけてこよう。そうしたら、農家の人たちも協力してくれることになると思う」
「はい、ありがとうございます!」
「魔物討伐と畑仕事、両方とも村にとって大切なものだからな。頼ってくれてありがとな」
お手伝いに農家の人が来てくれるのなら百人力だ、安心して収穫を任せられる。これで二人が魔物討伐に出て、称号のレベルアップをする道筋ができたね。
「二人とも頑張って魔物討伐をしてくれ。そして称号をレベルアップさせて、ノアに新しい魔法を覚えさせて欲しい。ノアの新しい魔法が村の開拓を進める力になることを期待しているぞ」
「はい!」
これで私も新しい魔法を覚えることができそうだ。次はどんな魔法を覚えるのか、楽しみだ。




