280.料理披露会(2)
「ミレ姉が持ってきたシチュー、いつもよりも美味しく感じるぞ!」
「ですね。あー、このシチューにパンを付けて食べたいです」
「いつもよりも美味しいね。この時の為に、何か特別な事をしたの?」
「ふっふっふっ、それは秘密よ。でも、いつもより美味しく感じてくれて安心したわ。これだと、他の人たちにも喜んでもらえそうね」
ミレお姉さんから貰ったシチューを食べた私たち。いつもより美味しくてビックリしちゃった。やっぱり、こういう会だから普段できない調理法で作ってきたのかなー? うーん、作り方が気になる。
「どっちが多く票を集められるか勝負よ、ノアちゃん」
「私、負けないから」
「こっちだって負けないわよ」
ミレお姉さんには悪いけど、私だって負けるつもりはない。お互いに真剣な目で見つめ合うと、ミレお姉さんはその場を立ち去って行った。
「気合入っていたな! その調子だぞ!」
「ノアの料理は美味しいですからね。負けるはずがありません」
「うん。勝つつもりで行くよ。二人とも、お手伝いよろしくね」
「任せろ!」
「任せてください!」
三人の手を重ね合わせると、その手を高く掲げて声を上げた。よし、気合は十分。後は沢山の人に料理を食べてもらうだけだ。
「ここに新しい料理があるよー! ぜひ、食べていってー!」
「ラーメンっていう料理だ! 病みつきになる味だから食べていってくれー!」
「スープは味わい深いですよ。麺は良いのど越しです。具材も入ってて、この一食で満足しますよー!」
私たちは声を上げて呼び込みをした。すると、こちらに近づいてくる人たちがいる。それはいつもお世話になっている農家の人たちだった。
「ノアちゃんが作った料理があるの?」
「うん、私が作った料理だよ」
「じゃあ、私たちの料理と交換しましょう」
「わー、嬉しいんだぞ!」
「食べ比べができるっていいわね。とっても楽しいわ」
「私も色んな人の作った物が食べれるのは嬉しいです」
今度も料理交換みたいだ。私たちは人数分のラーメンを作ると、お互いの料理を交換した。自分たちで料理を取りに行けないから、こうして料理を持ってきてくれるのは嬉しいな。
そして、お互いに作った料理を食べ始める。
「このスープ、とっても美味しいわ! 今まで飲んだことがない感じだわ!」
「麺も美味しいわよ! こんな麺は初めてだわ!」
「……ノアちゃん、やるわね。こんな手の込んだ料理を作るなんて」
みんな、ラーメンを気に入ってくれたみたいだ。夢中でラーメンを食べ進めて、とても幸せそうな顔をしている。こうして自分の料理を沢山の人に食べてもらうのっていいね。
「貰った料理も美味しいぞ! 生地に色んな物が詰まってて、食べ応えがある!」
「こっちはパンに具材が挟まった一口サイズのサンドイッチです。具材にかかっているドレッシングが美味しいです!」
「野菜に巻かれたお肉の味がピリッとして美味しい! こういう食べ方もいいなー」
お互いに料理の感想を言い合うと、つい話が弾んでしまう。お互いに作り方は教えないけれど、料理について色んな話をした。食べながら話していると、貰った料理はあっという間に食べ終えてしまう。
「ラーメン、美味しかったわ。ノアちゃんの料理がこんなに美味しいだなんて、驚いちゃった」
「気に入ってくれて嬉しい。色々と拘って作ったから、みんなに食べてもらいたいんだ」
「この味だったら、完食するんじゃないかしら。きっと、あっという間に無くなるわよ」
「そうだといいなぁ。とにかく、沢山の人にこのラーメンを食べて欲しい」
「食べてもらえるわよ。ちょっと寒いから、温かいスープは人気が出るわよ」
「うん。ラーメンを食べて、みんなに温まって欲しいな」
食べた人たちはニコニコと笑ってとても上機嫌だ。やっぱり、美味しい物を食べるとそうなるよね。私の料理が受け入れられて本当に良かったー。
「ノアちゃんの料理、優勝狙えるんじゃない?」
「そうなんだぞ! ウチらは優勝目指しているんだぞ!」
「ふふっ、だったら沢山の人に食べてもらわないとね。おばさんたちは色んな料理を食べれるのが楽しいから、そこまで優勝に拘ってないしね」
「だったら、私たちは優勝を目指します!」
「いけるわよ。頑張って美味しい料理を作ったんでしょ? きっと、選ばれるわ」
そう言ってもらえると心強い。お墨付きを貰った私たちは顔を見合わせて笑い合った。
農家の人たちが離れていくと、また呼び込みをする。声を上げると、今度は子供たちが集まってきた。
「よぉ! 料理を作ったんだって? 食わせてくれよ!」
「私にも頂戴!」
「僕にもー!」
「分かったよ。ちょっと待ってて」
沢山の子供たちが来て驚いたけど、私たちは一人ずつラーメンを作っていった。それを一人ずつ手渡すと、みんな目を輝かせてラーメンを見ている。
「わぁ、嗅いだことのない匂いだ。どれどれ……んまい!」
「このスープ、めちゃくちゃ美味しいわよ!」
「ふぁぁ……温かくて美味しい」
「ふっふっふっ、そうだろ! ノアの料理は一番美味しいんだぞ!」
「とっても美味しい料理なので、味わって食べてくださいね」
子供たちは一口食べると、とても嬉しそうに食べ進めた。凄い勢いで食べるから、少ないラーメンはあっという間になくなってしまう。
「美味かった! ノアが作ったなんて、信じられねぇ!」
「ウチらも手伝ったんだぞ!」
「じゃあ、三人で作ったってこと? 子供なのに凄ーい!」
「ノアが色々と教えてくれたお陰なので、凄いのはノアですよ」
「じゃあ、二人は毎日こんなに美味しい物を食べているの? 羨ましい!」
子供たちに褒められて悪い気はしない。二人もどこか嬉しそうにしてくれるし、頑張って作ったかいがあったなぁ。
「そうだ! 美味しかったら、ウチらのラーメンに投票してくれよな!」
「ノアの料理で優勝目指してます!」
「へー、そうなんだ。ふっ、俺を一番満足させてくれる料理がノアの料理だったら投票してやるよ」
「他にも食べる物があるから、そっちを食べてみてからかなー」
「めちゃくちゃ美味しかったし、僕はノアの料理に投票するかも」
私の料理に投票してくれたら嬉しい。そのことを話し終えると、子供たちはまた別の料理を食べるため去って行った。
「他にも美味しそうな料理があるけど、ウチはノアの料理が一番だって思ってるからな!」
「私もそう思ってます!」
「二人ともありがとう。じゃあ、どんどん他の人にも料理を食べて貰わなくっちゃね」
二人の応援が心強い。そう思っていると、次のお客さんが現れた。次は冒険者のおじさんたちだ。よし、ラーメンを作るぞ!
◇
料理披露会は賑やかに過ぎていった。色んな料理を食べて感想を言い合ったり、いつも食べない味を堪能したりして、とても楽しいひと時だ。
終わり頃になると外は暗くなったが沢山点けた焚火台のお陰で場はとても明るかった。そんな中で、みんなでステージの前に集まる。料理披露会の結果発表の時が来た。
コルクさんが取り仕切り、十位から人の名前が呼ばれる。その度に嬉しそうな声が上がり、みんなの歓声と拍手が沸き起こった。それはどんどん順位が上がっていくごとに大きくなってくる。
その様子を私たちはドキドキしながら見守っていた。
「まだ、ノアの名前が呼ばれていないな……。ど、どうなるんだ?」
「優勝を狙うんなら、最後に呼ばれた方がいいですよ。でも……緊張で早く呼ばれて欲しいって思っちゃいますね」
「あー、緊張するね。どうか、最後に呼ばれますように」
コルクさんがどんどん順位を発表していく。まだ呼ばれない。ドキドキしながら待っていると、とうとう最後になった。
「待たせたな、一番投票で票を集めた人を発表する! 第一位は……!」
みんな、固唾を呑んで見守っている。私は手を組んで、自分の名前が呼ばれることを待った。そして、ついに……!
「ノアが作ったラーメンが一位だ! おめでとう!」
その声に私たちは顔を見合わせて、思いっきり抱き着いた。
「やった! 私の料理が一番だ!」
「良かったな、ノア! やっぱり、ノアの料理が一番美味しいんだ!」
「ノアの料理が認められたみたいで、嬉しいです!」
私たちは抱き合いながら、嬉しくて飛び跳ねた。そんな私たちを見て、周りの人たちは温かい歓声と拍手を送ってくれた。一番になるのって、こんなに嬉しい事なんだね!




