279.料理披露会(1)
「これで一芸披露は終了だ。みんな、盛り上げてくれてありがとう」
コルクさんがそう言うと、周りにいた人たちは歓声と拍手を送った。
「色んな一芸が見れて楽しかったぞ!」
「こんなに楽しいひと時は夏以来ですね」
「みんな色々と考えて一芸を考えてきたんだなって感心しちゃった」
沢山の一芸が見れて、私たちは大満足だ。普段、大人しい人が大技を披露したり、豪快だった人が繊細な芸を披露したりととても楽しいひと時だった。
一芸って言えば、そういえば二人が内緒でやったことは披露しなくていいのかな?
「ねぇ。二人が練習したことは披露しなくて良かったの?」
「あれは……見て欲しい人がいるので」
「そうだな! その人に見て欲しいから、ここではやらなかったんだぞ」
「へー、そうなんだ」
見て欲しい人って誰だろう? 二人がお世話になった人っていうと、やっぱり冒険者の人たちかなー? まぁ、後で披露するつもりだったらいいか。
「それじゃあ、暗くなる前に焚火台を付けてくれ。その間に次の料理披露会に移るぞ」
気づけば辺りは少し薄暗くなって、肌寒くなっていた。冬が近づいてきたから暗くなるのは早くなるし、寒くなるよね。
手の空いた人は焚火台に火を点け始め、料理披露会に参加する人は持ってきた料理の準備をする。だけど、持ってきて大分時間が経ってしまったせいで、折角の料理が冷めてしまった。
こういう時は私の出番だ。
「ノアちゃん、料理を温かくしてくれる?」
「任せて! あっ、そうだ。エルモさんも手伝ってよ。発熱の魔法使えるでしょ?」
「えっ、あっ、はい。じゃあ、お手伝いさせていただきますね」
私はエルモさんを巻き込んで、料理の温めをお願いした。長い机が幾つも繋がっている上に沢山の料理が並べられている。どれも、見たことがない料理ばかりで食べるのがとても楽しみだ。
その料理一つ一つに発熱の魔法をかけていく。すると、冷え切った料理が温められて、湯気が立ち上った。その湯気からは料理のいい匂いがしてきて、お腹が鳴りそうだった。
色んな料理を温めるから、匂いに負けそうになっちゃう。ここは我慢して、全ての料理を温かくしなくっちゃ。その後も黙々と料理を温め直していった。
「よし、これが最後の料理! ふー、全部温まったね」
最後の料理を温め直すことができた。長い机に並んだ料理から美味しい料理の湯気が立ち上り、周りにいた人たちを釘付けにする。
「ノアちゃん、エルモさん。料理の温めありがとう。それにしても便利な魔法だねぇ。私も使えるようになりたいよ」
「そういうことなら、エルモさんに相談すればいいよ。きっと適性があれば、魔法を使えるようになれるから」
「そうかい? 私でも魔法が使えるか、今度試してもらおうかしら?」
「それなら、私も使えるようになりたいわ」
「私も私も!」
「わっ、わっ! そ、そんなにこの魔法が気になるんですか?」
私がエルモさんをオススメすると、女性陣は目の色を変えてエルモさんを囲んでいった。突然、囲まれたエルモさんは戸惑いながらもなんとか対応しようとしている。
うんうん、こうして村の人たちと仲良くなって、エルモさんの友達が増えるといいな。きっと、この日を境にして仲良くなる人が出てくるはずだ。私はそれを応援しよう。
女性陣に囲まれて慌てているエルモさんを見て、そう思った。さて、やる事が終わったし……周りの焚火台はどうかな? 周りを見て見ると、沢山の焚火台に火が灯り、周囲はとても明るくなっていた。
その中でも一番大きな焚火台がある。丸太で作った焚火台で、ひときは温かくて明るい。暗くなったらこの焚火台の周りに集まって、みんなで踊ったりするらしいから、その時が楽しみだ。
「ノアー! 料理の準備はしないのか?」
「あ、そうだね。肝心なことを忘れていたよ。マジックバッグから取り出しておこう」
「場所を確保したので、そちらにどうぞ」
焚火台を見ていたところにクレハとイリスが駆け寄ってきた。いけない、自分の料理を出すのを忘れたよ。二人に連れられて行ったところにスペースがあったので、そこに持ってきた物を置いた。
さて、準備もできたし、そろそろ料理披露会が始まるかな?
◇
「それでは、これより料理披露会を開催する」
コルクさんがその場を取り仕切ると、周りから歓声を拍手が鳴り出した。
「まず初めに、料理を作ってくれた人たちに感謝をしよう。みんなが色々な料理を作ってくれたお陰で、無事料理披露会が開催できた」
「そんな挨拶なんていいからよ、早く食わせてくれよー!」
「待ちきれないぞー!」
「早くしてー!」
「……まぁ、こう言っているし挨拶はそこそこにしよう。でも、これだけは説明させてくれ。この料理披露会では誰の料理が一番美味しかったか決める会でもある。だから、色んな料理を食べて、どれが美味しかったか投票してくれ」
そう、この料理披露会はただ披露するだけじゃない。誰が一番美味しいか競う会でもある。
「ステージのところに投票用紙と投票箱がある。一人一枚、美味しかった料理を書いて投票してくれ。もし、分からないことがあったら俺の所まで聞きに来い。というわけで、料理披露会の始まりだ!」
コルクさんが最後に大声を張り上げると、みんなは歓声と拍手を上げた。ようやく、料理披露会の開催だ。みんな、待ちに待ってましたとばかりに料理が並ぶ机に近寄ってきた。
「よし、二人とも準備はいい?」
「もちろん、いいぞ!」
「やる事はバッチリです」
私が用意してきたのはラーメンだ。クレハが器にスープを注ぎ、私が麺を入れ、最後にイリスが具材を乗せる。このやり方で料理を提供しようと考えていた。
誰か来ないかなっと待っていると、ミレお姉さんがやってきた。
「ノアちゃんが用意した料理、食べに来たわよ」
「ふっふっふっ。きっとミレ姉は驚いて腰を抜かすぞ」
「ノアの料理の上手さを知ってもらういい機会ですね」
「それはそうと、はい。これが私たちで出した料理よ、食べてみて」
ミレお姉さんはそう言って、私たちに一皿ずつ差し出した。その中には湯気の立つシチューが盛り付けられている。肉や野菜がゴロゴロと入っていて美味しそうだ。
「このシチュー、美味そうなんだぞ。食べていいのか?」
「もちろんよ。食べ物を交換しましょう」
「ありがとうございます。沢山いい匂いがしてきたから、食べたかったんです」
「じゃあ、こっちも料理を作ろうか」
二人とも嬉しそうな顔をして料理を受け取った。次は私たちの番だ。クレハが湯気の立つスープを器に盛ると、時間停止の魔法をかけていた麺の魔法を解除して器の中に入れる。最後にイリスがメンマとチャーシューを乗せれば完成だ。
「はい。これが私たちの料理、ラーメンだよ」
「へー。スープに入った麺料理なのね。それにしてもこのスープの匂い……やるわね」
「食べてみてくれ! 絶対に美味しいから!」
「期待に応えられる味になってます」
「そんなに勧められると、ハードルが高くなるわよ。じゃあ、いただきます」
ミレお姉さんは器を持って、まずはスープを飲んだ。すると、すぐに目を見開いて驚いた顔をした。
「えっ、何これ、美味しい! 複雑な旨味が凝縮された味がするわ。それに私が味わったことのない味も入っている!」
「どうだ! これがノアの料理の力だ!」
「驚かれると嬉しいですね」
「海の物も入っているから、初めての味を感じるのかも」
「そうなのね。次は麺ね」
ミレお姉さんはフォークで麺をすくい上げてすすった。
「んっ、この麺も美味しい! 初めて食べる感触よね! わー、どうやって作ったか気になるー!」
「それは教えないぜ! ノアの特権だからな!」
「そうです。ノアしか作れない特別なものですからね」
麺を食べてミレお姉さんのテンションが一段階上がったような気がする。凄い、勢いで麺をすすって食べ、間にスープを飲むのも忘れない。
良い食べっぷりを見て、私たちは喜んでハイタッチをかわす。ラーメンが受け入れられて本当に良かった。ミレお姉さんはそのままラーメンを食べ、あっという間に器は空っぽになった。
「スープも麺も具材もとっても美味しかったわ。もっともっと食べたいくらいよ」
「他にも食べる物があるから、他の料理も食べれるように量を少なくしたんだ」
「これだったら、普通の量を食べても大丈夫よ。だって、とっても美味しいんだもの」
とっても良い笑顔でそんな事を言った。ラーメンを気に入ってくれて良かったな。もっと、他の人たちにも食べて欲しいな!
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