277.一芸披露(3)
一芸披露を見ている時、私のところにティアナとタリアとルイがやってきた。
「お姉ちゃん、準備完了だよ」
「いつでも、人形劇ができるわ」
「次、手を上げようよ」
どうやら、三人とも準備が整ったみたいだ。すると、二人が話しに入ってくる。
「おっ、とうとうノアたちも一芸披露をするのか?」
「どんな人形劇になるのか楽しみです」
「ふふっ、期待していて。面白い人形劇になるから」
「へー、そんなに自信満々に言ってもいいのか?」
「期待してますね」
そんなことを話していると、一芸披露が終わったみたいだ。私たち四人は顔を見合わせて、強く頷いた。
「じゃあ、次に一芸する人は誰だ?」
コルクさんがステージの上に登ってそう言うと、私たちは声を出して手を上げた。
「おっ! 元気がいいのがいるな。じゃあ、ノアたち。ステージに上がって、一芸を披露してくれ」
とうとう、自分たちの番がやってきた。私たちはステージに上がると、みんなの方を見た。大勢の人の視線が注がれて、緊張する。そういえば、ティアナは大丈夫かな?
心配してティアナを見てみると、とてもやる気に溢れた顔をしていた。どうやら、人形劇を披露するのが本当に待ち遠しかったみたい。これなら、普通にやっても大丈夫だよね。
「私たちがやるのは人形劇です。でも、ただの人形劇じゃありません。魔法を使った、とっても不思議な人形劇になります」
「物語は魔法使いの弟子は猫です!」
「色んな魔法が出てくるので、とても楽しい人形劇になります」
「ぜひ、最後までご覧ください」
決めておいたセリフを言うと、みんなから拍手が沸き起こった。それだけで、気分が良くなる。私たちはステージの上に人形を置くと、その場所から少し離れた場所で立った。
「そんなんで人形劇ができるのかー?」
「魔法使ってって言ってたわよ。一体どうするのかしら?」
「早く、始めてー!」
みんなから色んな声が飛んできた。私たちは目配せをすると、三人が魔動力を発動させる。すると、ステージに横たわっていた人形が立ち上がった。その光景を見て、みんなからどよめきが起こる。
「おー! すげー、人形が勝手に立ち上がったぞ!」
「これは見たことがある。ノアちゃんの魔法だ!」
「でも、ノアは何もやってないぞ。ということは、あの子たちか!」
みんなの注目が三人に集まった。その注目を受けて三人は自信気に胸を張ってみせた。うんうん、緊張してないみたいで本当に良かった。じゃあ、お話を始めようか。
「では、魔法使いの弟子は猫を始めます」
私は物語の進行と途中で出てくる魔法を使う役目。メインの人形の動きは三人が頑張ってくれる。さぁ、人形劇の始まりだ。
「ある所に国に仕える魔法使いがいました。だけど、その魔法使いは人付き合いが苦手で部屋に閉じこもったまま魔法の研究ばかりしていました」
「人と付き合うなんてまっぴらごめんだ。私はこのまま魔法の研究をして過ごすぞ」
私が物語を進めると、タリアが魔動力を使って魔法使いの人形を動かしてセリフをいう。少しオーバーリアクションになっているけれど、分かりやすくていいよね。
「いつまでも部屋から出てこない魔法使いに国の王様は困ってしまいました。そこで、魔法使いに弟子を取らせることを考えつきました」
「よし、良いことを思いついたぞ! 魔法使いに弟子を取らせて、その弟子にしっかりと働いてもらうことにしよう」
王様の人形が大げさに動いて、ルイがセリフを喋る。人形が魔動力で動くたびに、みんなからはどよめきが起こっていた。あまり魔動力の魔法を見たことのない人にはとても新鮮に映っていることだろう。
「人付き合いの苦手な魔法使いは悩みました。人と一緒なんて嫌だ。悩んで、悩んで、悩んだ結果……良いことを思いつきました」
「そうだ、猫を弟子にしてしまおう」
またタリアが魔法使いの人形を操作すると、魔法使いの人形は端に置いてあった猫の人形を持ち出してくる。その猫はティアナが操作していて、猫のように動かしている。
「猫よ喋れるようになれ!」
魔法使いが魔法を使うところだ。私は光の魔法を使って、ピカッと光らせた。すると、みんなからどよめきが起こった。よしよし、良い感じでリアルの魔法が役に立った。
「あ……僕、喋れるようになった!?」
「今日から君は私の弟子だ」
「僕が魔法使いの弟子? やった、僕魔法を使いたかったんだ」
「よしよし、立派な魔法使いにしてやるからな」
タリアとティアナが交互に人形を動かす。タリアはおおざっぱに動かすが、ティアナは細かい動きに注意をして人形を動かしていた。やっぱり、ティアナの方が上手く人形が動かせているね。
「こうして、魔法使いは猫を弟子にして魔法を教えていきました」
それから、人形は様々な動きをしてみんなを楽しませた。途中、魔法を使っているところは私が魔法を使えば、迫力のあるシーンとなる。それを見たみんなは盛り上がっていて、とても楽しそうだ。
しばらく魔法使いと猫が魔法を使っているシーンが続いた後、場面が切り替わる。王様の人形が出てきて、怒っている態度をあらわにした。
「魔法使いが猫を弟子にしたことを知った王様は怒りました」
「猫を弟子にするなんて、馬鹿な奴だ! それじゃあ、国の為にならないじゃないか! えぇい、怒ったぞ!魔法を二度と使えなくなるようにして、捕らえて牢屋にぶち込んでやる!」
大げさに動き回る王様の人形。あんなに操作が難しかった魔動力を自然な動きになるように動かせるなんて、沢山の努力をしたお陰だね。私も三人に負けないように物語を進行させなきゃ。
王様のシーンが終わると、今度は牢屋の中にいる魔法使いのシーンに移った。魔法使いは悲しそうな態度をして、タリアがセリフを喋る。
「なんていうことだ! 捕まるだけじゃなくて、大好きな魔法を使えなくなるなんて!」
悲しみに打ちひしがれている魔法使いの人形。そこに猫の人形が登場する。
「お師匠様! 助けに来たよ!」
「おお、弟子よ! 助けてくれるのか!?」
「もちろんだよ! だって、僕の大切なお師匠様だからね!」
猫が廊下に近寄ろうとした時、私は火の魔法を発動させた。その火の魔法を猫が避けると、ルイが操作する違う魔法使いの人形が現れる。
「そうはいかない。そのろくでなしの魔法使いは牢屋にいるべきだ」
「お前も魔法使いか! 僕はお師匠様を助けるんだ!」
「どうしても、助けたくば私を倒して見せろ!」
猫と魔法使いは対峙した。二つの人形が魔法を放つ動作をすると、私がリアルの魔法を発動させた。ステージ上で魔法と魔法がぶつかり合う。その迫力にみんなはさらに盛り上がった。
「いいぞー!」
「凄いわ!」
「わぁ!」
みんなから歓声が上がって、場が盛り上がる。そして、最後は猫が勝つように魔法の威力を調節して、小さな爆発を起こした。すると、その爆発で戦っていた魔法使いは倒れ、最後まで猫が立っていた。
その光景を見て、みんなは歓喜の声を上げる。
「お師匠様、勝ちました!」
「お前、そんなに強くなっていたのか……」
「はい! 全てお師匠様のお陰だよ。さぁ、ここ出て違う国に行こう!」
「そうだな、ここにいたら何があるか分からない。違う国に行こう!」
牢屋から出た魔法使いと猫は箒に跨ると、宙に浮いて飛んでいく。人形が動いただけでもすごいのに、宙に浮いた光景を見て、みんなはまた歓声を上げた。
「空が飛べるなんて、凄いわね!」
「どうなって、あんなことができるんだ?」
「お人形さん、飛んでっちゃった!」
みんなが見守る中、箒に跨った二つの人形は飛び去って行った。
「こうして、一人と一匹は違う国に行きました。新しい所では魔法使いが魔法の研究をして、猫が研究が終わった魔法を試す、穏やかな日が続き、いつまでも好きなことをして暮していきました」
最後を締めくくると、操っていた人形がステージ上に並んだ。そして、同時にお辞儀をすると、みんなから割れんばかりの拍手が沸き起こった。
「人形劇、面白かったぞー!」
「すげー魔法が出てきて良かったぜ!」
「お人形さん、可愛かったー!」
沢山の歓声と拍手をもらった私たちは誇らしげに胸を張った。
「みんな、やったね! 大成功だよ!」
「うん! 大成功!」
「へへ、嬉しいね」
「ちゃんとできて良かったー」
三人ともやり遂げた満足げな表情をしている。本当に上手くいって良かったよ。最後に私たちはみんなに向けてお辞儀をすると、さらに大きな歓声と拍手が返ってきた。




