275.一芸披露(1)
みんなの歓声が鳴り止むと、コルクさんがステージにやってきた。
「じゃ、じゃあ! これからは、俺が……司会進行、させてもらうぞ!」
カチコチに固まったコルクさんが精一杯な様子で話し出した。その姿を見て、みんなが笑い声を上げた。
「おいおい、いつもの調子はどうしたんだ!?」
「こんな事で固まるんだったら、私がやってやろうかい?」
「ちゃんと、進行しろー!」
「野次を飛ばすな、野次を!」
みんなが笑いながら野次を飛ばすと、コルクさんはちょっと怒ったように喋った。すると、近くにいた男爵様がコルクさんの肩を叩く。
「気負わなくてもいいぞ。どうせ、ここにはいつものみんなしかいないんだからな」
「ちょっと、男爵様! それ、どういう意味ですかー!?」
「いつものみんな扱いにしないでくださいよー!」
「ほら、いつものみんなだろう?」
色んな所から声が飛んでくると、男爵様は苦笑いをした。その様子を間近で見ていたコルクさんの表情が柔らかくなる。
「そうですね。ありがとうございます、緊張が解けました」
「そうか、なら良かった。俺は端で見させてもらうな」
それを言い残すと男爵様はステージから下りて、近くに置いてあったイスに座った。一人ステージに残されたコルクさんは一つ咳ばらいをすると、口を開く。
「じゃあ、改めて! これより一芸披露を始めようと思う!」
声を上げると、周りも声を上げてそれに答える。途端に賑やかになって、楽しい気持ちが溢れだしてきた。
「この日のために、色々と用意してきた人は大勢いるだろう。一体どんなものが出てくるのか、今から楽しみだな。みんな、温かく見守ってくれよ。トップバッターとして俺がまず一芸を披露させてもらう」
へぇ、コルクさんも一芸を披露してくれるんだ。
「どんな一芸なんでしょうか?」
「分かんないなー。どんなことするんだ?」
「コルクさんだから……作物に関係している事とか?」
「作物を使ってできる事ってありますかね?」
「ノアみたいに作物を作ったりすることとかか?」
「まさか、そんな事は……」
三人で喋っていると、コルクさんが一芸の準備をして戻ってきた。その手に大きなカボチャが三つ抱えられている。あのカボチャを使って一体何をするつもりなんだろう。
「じゃあ、これから一芸を披露する。俺はこの美味しそうなカボチャを使って曲芸を披露する」
言い終わると周りから歓声が響いた。曲芸……どんなことをするんだろうか?
「このカボチャを自由に飛ばし続けるぞ。見てろよ」
両手に持った大きな三つのカボチャ。それを一つずつ、宙に放り投げていく。一つのカボチャが高く飛ぶと、二つ目のカボチャも飛び、三つ目のカボチャが飛んだ。
次々と落ちてくるカボチャをキャッチしては、反対の手に移動させて、反対の手でまた高く上に放り投げる。すると、カボチャが止まることなく上がったり下がったりしている。
「おおっ! あんな大きなカボチャを軽々と動かしているぞ!」
「三つのカボチャが止まることなく動いてます、凄いですね」
「なるほどー、その曲芸で来たかー」
「あれだったら、ウチもできるんじゃないか?」
「でも、タイミングとか難しそうですよ。あんな細かい動きをクレハはできないと思うんですけど」
「ひ、酷いな! なぁ、ノアはウチができると思うか!?」
「クレハが? うーん、難しいんじゃない?」
「ノアまで!?」
イリスと同じ意見を言うと、クレハはショックを受けた顔をした。クレハは力はあるけれど、ジャグリングのタイミングとか取るのは難しいんじゃないかな?
今もコルクさんは自由自在に大きなカボチャをジャグリングしている。その光景を見て、観客の反応は様々だ。
「凄い事ができるんだねぇ!」
「あれくらい、俺にもできるぞ!」
「もっと、早く回せー!」
やっぱり、自分もできると思っている人がいるみたいだ。あれは結構難しいと思うんだけどなぁ……。
「じゃあ、最後にこのカボチャたちを頭に乗せてバランスを取るぞ」
慎重にカボチャをジャグリングするコルクさんがタイミングを計る。そして、高さを調節したカボチャを次々に頭の上に乗せていき、見事三つのカボチャがコルクさんの頭の上に乗っかった。
その瞬間、周囲から拍手が巻き起こる。中には口笛を吹く人もいて、途端に賑やかになった。私たちも拍手を送っていると、みんなの中から一人の村人と一人の冒険者が出てきた。
「それと同じことをやってやるぜ!」
「俺にもそれはできるぞ!」
「ほほう……飛び入りか。いいぞ、受けて立つ!」
どうやら、コルクさんと同じことができると思った人たちが名乗り出てきたみたいだ。これは面白いことになってきた……そう思っていた時、隣にいたクレハが前に出る。
「ウチも! ウチもできるぞ!」
「ほう、クレハもか。よし、順番にやってみろ! そして、この曲芸の難しさを身に持って知るがいい!」
あらら、クレハも名乗り出ちゃったみたい。
「ど、どうしましょう。クレハがやるって出て行っちゃいましたよ」
「本当にできたら凄いね」
「もう、ノアったら呑気なんですから」
この空気に当てられたのかな? クレハらしいって言えばクレハらしいけど……さて、どうなるかな?
「先に俺からやるな!」
すると、村人がカボチャを三つ腕に抱えてステージに登った。
「俺の曲芸、見せてやる! みんな、応援よろしくな!」
「おう、やれやれ!」
「頑張ってー!」
「本当にできるんだろうなぁ!?」
村人はみんなの声援を受けて、カボチャを宙に放り投げた。一つ目は無難に飛び、二つ目も無難に飛んだ。だけど、三つ目が飛ぶ前に一つ目のカボチャが落ちてきて手が止まってしまう。
「んー? もう一度だ!」
また三つのカボチャを抱えると、カボチャを宙に投げ出す。一つ目は飛び、二つ目も飛んだ。だけど、三つ目が飛ぶ前に一つ目のカボチャが落ちてきて手が止まってしまった。
「ど、どういうことだ!? 上手くカボチャが回らないぞ!」
突然焦り出す村人を見て、周りは笑い声を上げた。
「じゃあ、次は俺だな。見てろよ、一番上手く回してやるぜ!」
すると、近くで待っていた冒険者が村人からカボチャを奪った。ジャグリングに失敗した村人は肩を落としてみんなの所へと戻り、みんなに肩を叩かれながら励まされる。
「よーし、みんな俺の曲芸を見ろ!」
冒険者が声を上げると、周りにいた人たちは歓声を上げた。そして、冒険者はカボチャを一つずつ高く飛ばす。一つ、二つ、三つ……順調に飛んでいった大きなカボチャ。後はそれを回すだけなんだけど……。
「よっしゃ、来い! おっと、んんっ?」
一つ目のカボチャは上手くキャッチできたけど、次々と降って来るカボチャを受け止め切れずにステージに落ちてしまった。途端に周りからは笑い声が上がる。
「何やってんだよ! ちゃんと受け止めろ!」
「そうじゃないって、こうだって、こう!」
「ちゃんとカボチャを回さないと続かないぞー!」
「分かってるって! もう一度だ!」
周りから声が上がるとその冒険者はさらにやる気を高める。カボチャを三つ持つと、また一つずつ宙にカボチャを飛ばす。高く飛んだカボチャが落ちてきて、それをキャッチするんだけど……。
「わたたっ!」
また受け止め切れずにカボチャはステージの上に転がった。そこでまた大きな笑い声が起こる。ジャグリングって簡単そうに見えて、難しいからなぁ。次やるクレハは大丈夫なんだろうか?
上手くジャグリングができなかった冒険者は肩を落としてステージから下りた。元の場所に戻ると、仲間の冒険者に笑いながら励まされているみたいだ。
さて、残すチャレンジャーはクレハのみとなった。クレハは元気よくステージに乗り込むと、カボチャを両手で持った。カボチャが大きくて上半身が隠れてしまっている。……本当に大丈夫?
「最後はウチがやるんだぞ! みんな、応援よろしくな!」
「クレハー、頑張れー!」
「おいおい、本当に大丈夫か!? カボチャがでかく見えるぞ!?」
「無理するなよー!」
みんなから声援がクレハに届く。それを見ていた私たちはハラハラとした気持ちだった。
「ど、どうなるんでしょう……。成功しますように」
「祈るしかないね!」
私たちは祈るように手を胸元で組んだ。ハラハラしながら見守っていると、クレハが動き出す。
「じゃあ、やるぞー!」
そういったクレハはカボチャを一つ飛ばした。そのカボチャは何十メートルも高く飛び、みんなの視線が上に向く。
「ホイ、ホイ!」
二つ目のカボチャも何十メートルも飛ばし、三つ目のカボチャも同じように飛ばした。その三つ目を飛ばしている間に一つ目のカボチャが落ちてくる。
「よっと!」
そのカボチャを両手で受け取り、また何十メートルも高く飛ばした。その後すぐに二つ目のカボチャも落ちてきて、それを両手で受け取りまた何十メートルも飛ばす。
私たちの視線は上にいったり、下にいったりと大忙し。みんなが呆然とそのカボチャを追っていく。その間もクレハは一定の間隔でカボチャを受け取っては飛ばし、受け取っては飛ばしを繰り返す。
そうして、何度も繰り返していくとクレハは受け取ったカボチャを頭の上に順々に乗せて見せた。クレハの頭の上には三つの大きなカボチャが乗っている。
「じゃーん! どうだ、できただろう!?」
最後にクレハがポーズを取って〆た。ポカーンとそれを見ていたみんなはしばらく何も反応ができなかった。だけど、それも一瞬のこと。すぐに歓声が沸き起こった。
「別の意味で凄かったよ!」
「なんか違うが、まぁいいか! クレハだし!」
「面白かったよー!」
コルクさんのような軽快な凄さは無かったけど、クレハにしかできないダイナミックな曲芸だった。みんかから笑いと拍手を受け取ったクレハは嬉しそうにはにかんだ。
「へへへっ!」
まぁ、クレハが満足そうならいいか! まだ、一芸披露は始まったばかりなのにこの盛り上がりようはすごい。これからが楽しみだ。




