271.秋の嵐(10)
「ノアちゃん、家を直してくれてありがとね。一時はどうしようかと悩んだけど、これで安心して暮せるよ」
「役に立って良かったよ。もし、まだ壊れたところが見つかったら言ってね。直しに来るから」
「あぁ、その時はよろしく頼むよ」
そう言って、農家の家を離れた。
「これで全部の家を回ったな。残すところは男爵の家だけなんだぞ」
「ノア、お疲れ様です」
「二人も付き合ってくれてありがとう。お陰で早く家を回ることができたよ」
三人で一緒に歩きながらお喋りをする。みんなの所を先に直したから、後は残していた男爵様の邸宅だけだ。足早に男爵様のところに向かうと、邸宅の周りには飛ばされた物はなくなっていた。
だけど、邸宅の壁には穴が開きっぱなしだし、窓は割れたままだった。邸宅が大きいから、被害も多かったらしい。普通の家よりも被害が大きいので、ちょっと驚いた。
そのまま邸宅の扉を叩くと中から執事が現われて、私たちを中へと案内してくれた。向かった先は執務室で、そこでは男爵様が机に向かって仕事をしている所だった。
「おお、来たか! 待っていたぞ」
「遅くなってごめんなさい」
「大丈夫だ。それで、村人の家は直ったのか?」
「はい。被害にあったところは直ったと思います」
「そうか、よくやったな。あんな嵐があったのに、すぐに日常に戻れたのはノアたちのお陰だ」
そう言って男爵様は私たちの頭を撫でてくれた。
「それじゃあ、俺の邸宅も直してくれるか? この数日、窓が無くて寒い思いをしていたんだ」
「じゃあ、直しますね」
「ああ、頼む。ガラスの破片とかは集めておいたけれど、これで本当に直るのか?」
「はい。元にあった素材があれば、すぐに直りますよ」
執務室の窓ガラスは割れていて、床にガラスの破片と壊れた木枠が集められていた。私は手を窓に向かって構えると、元の窓の形を想像する。そして、創造魔法を発動させると窓が光った。
その光が収束すると、割れたガラス片と壊れた木枠を素材にして新しい窓が構築されていた。
「こんな感じで直ります」
「これは驚いたな……本当に窓が直ってしまった。砕けた破片や木枠も元通りに……。ノアの物を作る魔法はこんなに便利だったとは思わなかった」
直った窓を見て男爵様は驚いた顔をした。恐る恐る窓に近づいて、ペタペタと窓を触って確認もする。だけど、窓はしっかりと作り直されていて、触っただけでは壊れない。
「物を作る魔法が、物を直す魔法に変わるとはな。よく、こんなことができると気づいたな」
「この魔法は物を直す力はないですが、物を作る力があります。だから、壊れた物をもう一度作ることができるんです」
「なるほどな。直すんじゃなくて、もう一度作っているのか。ノアの機転と魔法で本当に助かった。他の所もお願いできるか?」
「もちろんです。じゃあ、他の所も直してきますね」
この魔法は直すんじゃなくて、もう一度作っているだけに過ぎない。他の人から見ると直っているように見えるけれど、原理は違う。
だけど、そのお陰で壊れた物が直って喜んでくれる人がいる。私はそれで十分だ。執務室の窓を直した後は、他の壊れたところへ直しに行った。
◇
男爵様の邸宅は直すところがいっぱいあって大変だった。太い枝が突き刺さって穴が空いた壁を直し、壊れた窓を直し、壊れた窓の外からとんできた物で壊れた家具を直す。
魔力回復ポーションを飲みながら、壊れたところを直し歩いた。その頑張りがあって、邸宅は元通りに戻った。壊れたところはもうない。
全て直すと男爵様に報告しに行った。
「男爵様! 全部直し終わりました!」
「本当か!?」
報告すると男爵様は驚いた顔をして、付き添ってくれた執事に視線を向けた。執事の人は嬉しそうに頷いて見せると、男爵様は嬉しそうに笑った。
「この嵐で邸宅が大変なことになってしまった。直るのは時間がかかるだろうと思っていたが、ノアたちのお陰でこんなに早く元の生活に戻ることができた」
「この嵐で私たちも大変な目に合いました。それで他の人も同じような大変な目に合っているかもしれないって思って、黙って見過ごすことができませんでした。私たちはみんなの役に立てましたか?」
「もちろんだ。みんな、ノアたちが色々と手を尽くしてくれ感謝をしているだろう。俺からも感謝を送りたい、本当にありがとう」
そう言って、男爵様は私たちの頭を撫でてくれた。
「この村にノアたちがいてくれて本当に良かった。お前たちはこの村の救世主だ」
その言葉に私たちは顔を見合わせて笑い合った。私たちが救世主になれたなんて思ってもみなかったから、とても驚いたしとても嬉しい。
「ウチらが救世主だって! なんだか、くすぐったいな!」
「ですね。私たちはみんなのために動いただけですから」
「たまには、そう言われるのもいいんじゃない?」
私たちを温かく迎えてくれたこの村にちゃんと恩返しができたかな?
◇
その日の夜、私たちはベッドの中に潜り込んでお喋りをする。
「いやー、みんなの家が元通りに戻って良かったな!」
「そうですね。まさか、ノアの物を作る魔法が物を直すことができるなんて思ってもみませんでした」
「だね。魔法を使ってみたら上手くいったから、本当に良かったよ」
創造魔法は新しく物を作る魔法だ。何もないところから物を出したり、何かを素材にして物を作ったりする魔法だ。それを物を直すことができるなんて、家があんなことにならなければ気づかなかった事だ。
「イリスはみんなの怪我を治しに行ったんだもんな。みんな、イリスに感謝していたぞ」
「はい。思ったよりも怪我をした人が多くて驚きました。そのみんなの怪我を治すことができて本当に良かったです」
「怪我は痛いからね。すぐに治って嬉しかったんだと思うよ」
「色んな人からイリスにまた感謝を伝えてくれって言われて、ウチは嬉しくなったんだぞ!」
「だね。私も色んな人からイリスへの感謝を聞いたよ」
「なんだか、そんなに感謝をされるのは照れますね」
イリスは控えめに笑っているけれど、とても嬉しそうだった。
「いつもは魔物討伐ばかりしていて実感が無かったんですが……私たちは村を救っていたんですね」
「魔物討伐も村を救っていたけれど、実感は無かったな。今回のことで村の中を駆け回って、感謝を沢山されて実感したんだぞ」
「二人がいつも魔物討伐して村を救っていたけれど、今回は違う形で村を救ったね」
「でも、今回の大活躍はノアですよ」
「そうだぞ、ノアの魔法で村が救われたんだ!」
私の魔法で村が救われたらしい。あまり実感はないけれど、二人に言われてじわじわと実感してきた。そうか、私はみんなのために動くことができたんだね。
「みんな、喜んでいましたね。大きな嵐が来て、怪我をして家が壊されて絶望してました。だけど、それを私たちが立ち直すきっかけになったんですね」
「はじめは暗かったみんなだったけど、ウチらが直してあげると元気になったのが良かったよな!」
「みんなの笑った顔、嬉しかったなぁ。村のために動いて良かったね」
「ですね」
「だな!」
村のために動いて本当に良かった。沈んだままだったら悲しい。だってこれから収穫祭があるのに、沈んだ気持ちのまま迎えたくなかったから。
「これで、収穫祭が楽しめるね!」
「そうだな! 今からとっても楽しみなんだぞ!」
「早く来ませんかね」
みんなで明るい気持ちで収穫祭を迎えることができる。それが何よりも嬉しい。村を上げての初めてのお祭り。みんなで一緒に盛り上がりたい。




