268.秋の嵐(7)
まさか、風で木が折れて、飛んでくるなんて! 壊された窓から吹き付ける強風と雨。屋根に突き刺さった木は強風で揺れ動いて、少しずつ屋根を壊している。
「わー! どうする、どうする!?」
「どうにかして、刺さった木と壊れた窓をどうにかしないといけませんね」
「まずは窓から直そう。二人とも、薪を持って窓の傍に立ってもらってもいい?」
「分かったぞ!」
「分かりました!」
二人は走って薪があるところに行くと、その手に薪を数本持って窓の脇に立った。
「窓の前に薪を出すと、飛ばされそうなんだぞ。隣でもいいか?」
「うん、大丈夫」
「なら、大丈夫です。さぁ、やってください」
二人は薪を窓の横に差し出す。そこに向けて手をかざすと、窓が木で覆われるイメージを固める。それから、創造魔法を発動させた。
薪が光って、その形を変えていく。窓を覆うように光が伸びると、窓から風が吹きつけなくなった。そして、光が収まると窓はただの木の板に覆われた形になる。
「これで、窓は平気だね」
「後は、屋根に突き刺さった木なんだぞ……」
「早く抜かないと、屋根が壊れてしまいます」
「……一度、外に出て木を抜かないとダメだね。でも、こんな風の中で外に出たら大変なことになる」
早くどうにかしないといけないのに、この風と雨で外に出るのは危険すぎる。魔動力は見える範囲じゃないと使えない。家の中にいたままだと、木を抜いて外のどこかに置くことができない。
ということは、木を抜くには外に出ないといけないのだ。今の状況で外に出るのは危険すぎる。吹き飛ばされるかもしれないし、何かが飛んでくるかもしれない。でも、このままにしておくのは……。
「あの……もしかして、私の聖なる壁が役に立つかもしれません」
「そうだな! それがあったな!」
「聖なる壁は物理や魔法を防ぐ力がありますので、この風もどうにかしてくれると思います」
「そうなんだね! なら、魔法をお願いできる?」
「はい!」
そうか、イリスの魔法だ! イリスは私たちに向かって手をかざして、魔法を発動させた。すると、私たちの体が光る。優しい力に包まれた感じがした。
「私の魔法もレベルアップして、聖なる壁に包まれながら自由に行動できるようになりました」
「じゃあ、このまま動いても問題ないってこと?」
「はい、大丈夫です」
「イリスの魔法も凄いんだぞ!」
前は透明な壁ができる感じだったけれど、今はバリアみたいな感じに進化していたんだ。お陰で自由に動ける。
「ウチも一緒に行くぞ! 何か役に立てるかもしれないからな!」
「うん、お願い」
「気を付けて行ってきてくださいね」
クレハと二人で玄関に向かう。扉を開けると、物凄い風と雨が吹き付けてくる。でも、聖なる壁のお陰で体は風で飛ばされることはないし、雨の影響も受けない。これなら普通に歩ける!
二人で外に飛び出すと、外の世界に目を奪われた。木々が倒れそうになるほどの強い風が吹き荒れて、いつも見ていた世界と違う。こんな世界の中にいるのに平然と立っているのが不思議に感じる。
「ノア、早く屋根に行こうぜ!」
「うん、行こう!」
家に向き合うと、魔動力を発動させて自分の体を浮かせる。クレハは身体強化を使って、屋根に上がった。二人で屋根の上に登ると、強い風に煽られている一本の木が屋根に突き刺さった光景がある。
「とりあえず、この木を抜くのか?」
「うん。木を抜いて、穴を塞がなくちゃいけないんだけど……材料を持ってこなくっちゃ」
「穴を塞ぐってさっきみたいに創造魔法でやるんだろう? だったら、材料は目の前にあるじゃないか」
「……あっ! そうだね!」
材木置き場から丸太を持ってこなくちゃいけないって思っていたけれど、この木を使えばいいんだ。そうだ、そうだよね。飛んできた材料を使えばいいんだよ。
「じゃあ、これ以上屋根が壊れないようにウチがこの木を持つな。その間にノアは創造魔法で屋根を直してくれ」
「うん、お願い」
クレハは突き刺さった木を抱え込むと、簡単に屋根から抜き去った。これ以上、屋根が壊れる事は阻止できた。後は、その穴を埋めるだけだ。
「よし、いいぞ。創造魔法を使ってくれ」
「いくよ」
クレハは木を穴の上に被さるように持ち、私は穴に向かって手をかざす。そして、屋根を頭の中でイメージをすると、創造魔法を発動させる。
すると、屋根と木が光だして、光が穴を埋め尽くす。その光が収縮すると、穴の空いた屋根が綺麗に塞がり、元通りに戻った。
「よし、これで屋根は大丈夫だな!」
「うん。手伝ってくれてありがとう」
「役に立ってよかったぜ。さぁ、家の中に戻ろう」
私たちは屋根から下りると、家の中に戻っていった。すると、すぐにイリスが駆け寄ってくる。
「お疲れ様です。屋根が元に戻って良かったですね」
「クレハのお陰で早く直っちゃった」
「へへへっ、なんだか照れるぞ」
クレハを褒めると、照れたように鼻を擦った。ようやく、家の中が落ち着いたけれど、入ってきた雨のせいで家の中がずぶ濡れだ。すぐに乾燥魔法を家中にかけると、濡れていた部分が乾く。うん、これで元通りだ。
「木が飛んでくるなんて思いませんでした。他の所は大丈夫でしょうか?」
「心配だな。聖なる壁もあるし、見に行ってみるか?」
「聖なる壁があるけれど、危ないから止めたほうがいいと思うよ。このまま、嵐が通り過ぎるのを待って、嵐が止んでから見に行った方がいいよ」
木が飛ぶほどの風が吹き付けてきたから、他のところでも被害が出ているかもしれない。心配だけど、今は出て行くのは聖なる壁があっても危険だ。
「とにかく、今は家の中に居よう。嵐が止んでから、村のみんなの所に行ってみよう」
「分かったぞ」
「そうしましょう」
嵐が止むまで家の中にいると決めた。みんなのことは心配だけど、無事でいることを祈ろう。
◇
嵐はその後も強く吹き荒れた。その嵐が弱まったのは寝る時間になってからだ。この様子だと、明日には外に出れそうだ。期待を込めて私たちは寝た。
そして、翌日。窓がなくなった家の中は暗くて、外の様子が分からない。だけど、音なら分かる。あんなに強く吹き荒れていた風の音が消えていたのだ。
「外に出てみる?」
「うん、そうしよう」
「晴れているといいですね」
私たちはベッドから出ると、玄関に近づいた。その扉に手をかけて開ける。すると、眩しい光が差し込んできた。次に飛び込んできたのは清々しい朝の光景だった。
「嵐が止んでるね!」
「いつも通りの光景だぞ!」
「嵐が去ったんですね!」
私たちは外へと飛び出した。周囲には沢山の石が転がって、枝が散乱している。これは後始末が大変だぞ……そんなことを考えていると、ハッと思い出した。
「そうだ、モモたちは!?」
「行ってみようぜ!」
「嵐の影響がないといいのですが……」
私たちは小屋に向かって走って行った。すぐに小屋に付き、その扉を開ける。中に入ると、私の分身がいた。
「あっ、来たね。みんな無事だよ」
「本当!? 良かったー。見てくれてありがとう」
ずっと一緒にいてくれた分身の言葉に安堵した。その分身を消すと、私たちはモモたちと向き合った。
「モモ、お腹は大丈夫? 辛くない?」
「モー」
「元気そうで安心したよ」
起きていたモモを撫でてあげると、とても気持ちよさそうにしてくれる。
「メメも元気です」
「ココ、ルル、テテも大丈夫そうだぞ!」
「そっか、みんな元気そうで良かったよ」
みんなが無事な姿を見てホッとした。小屋も壊れたところはないし、物が飛んできて怪我をするってことも無かったみたいだ。
「なんとか嵐を凌げたね。朝の準備が終わったら、村を見に行こう」
「みんなのことも心配ですからね」
「困ったことがあったら、何か手伝ってあげるんだぞ!」
モモたちは大丈夫だったけど、村のみんなのことが心配だ。早く、準備を終えて村にいかなくっちゃ。




