267.秋の嵐(6)
ガタガタと窓が揺れる音で目覚めた。目を開けると、家の中は薄暗くて良く見えない。光を灯して家の中を明るくすると窓を見た。窓の外は雨と風が吹き荒れていて、その影響で窓がうるさく動いていたみたいだ。
いつもは聞こえない音にイリスとクレハも起き上がった。
「二人ともおはよう」
「おはようございます」
「ふぁー、おはよう。うるさくて起きちゃったんだぞ」
「窓の外を見て。雨と風が凄いんだよ」
「あ、本当ですね。こんなの初めて見ます」
「わー、凄いんだぞ!」
三人で窓に近づくと、窓越しに外を見た。強い風が吹き荒れて、雨が窓を激しく打つ。これが嵐か……想像通りの景色が広がっていた。
「……ちょっと、玄関から外を見てくる」
外の景色を見て黙って見ていられなくなったのか、クレハが玄関に近寄った。私たちも興味があって、一緒に玄関に向かう。三人が玄関に集まると、クレハがゆっくりと玄関を開く。すると、強い風が吹き付けてきた。
「わっ! 風が強くて、扉が吹き飛ばされそうなんだぞ!」
風の力で強引に開きそうになる扉をクレハがしっかりと抑える。そんな中で外を見ると、凄い光景が広がっていた。空には分厚い雲に覆われて、薄暗い。木々の葉や枝は強風に煽られて形を変えている。今にも強風に倒れていきそうな勢いだ。
「そうだ! 小屋は平気!?」
モモたちは!? 玄関から一歩外に出ると、小屋のある方向を見る。小屋には特に変化はなく、無事のようだ。でも、中の様子が分からないのが心配だ。
「中の様子、見に行こうかな? これくらいの風なら、なんとか行けるよね」
「じゃあ、みんなで中の様子を見に行きましょう。飛ばされないように手を繋いでいきましょう」
「だったら、先に着替えるんだぞ!」
「うん、そうだね」
モモたちの事が心配で朝食を食べる前に様子を見に行くことにした。私たちは急いで服に着替えると、玄関の外に出た。外に出ると強風が体を押して、転びそうになる。転ばないように三人でギュッと手を繋ぐと、小屋に向かって歩いていく。
「凄い風と雨なんだぞ。二人とも平気か?」
「はい、なんとか……」
「飛ばされてはいないよ」
「ウチが先導して引っ張るぞ。頑張ってついてきてくれ」
クレハが私たちの手を握ると、前に引っ張ってくれる。強い風と雨でまともに目が開けない中、クレハはしっかりと先導してくれた。なんとか、小屋につくことが出来た。
クレハが小屋の扉を開け、私たちはその中に滑り込む。そして、中で光を出して照らして上げた。小屋の中にいた、モモたちはみんな無事そうだ。
「モモ、体は大丈夫? 不安じゃない?」
真っ先にモモの体を労わった。その気持ちが伝わったのか、モモは私にすり寄ってきた。やっぱり、この天気だと心細いよね。安心させるように体を何度も擦ってあげた。
「メメも大丈夫みたいです。ちょっと、不安がってますが……」
「ココ、ルル、テテはちょっと騒がしいぞ。落ち着かない様子だ」
「そっか、みんな外の様子がおかしいから不安なんだね。とりあえず、いつも通りの世話をしよう」
今日は小屋の中で一日を過ごさなければいけない。快適に過ごせるように掃除は必須だ。それぞれ掃除道具を持つと、小屋の中を綺麗にする。ゴミや糞をかき集めて、新しい藁を敷く。それから餌と水を上げて、空腹を満たしてあげる。
いつも通りの世話をすると、次第に落ち着きを取り戻してくれた。元気一杯に餌を食べてくれるし、水も飲んでくれる。この様子だと大丈夫かな?
でも、まだ心配だ。ずっと見てあげることができたら……そうだ! 今日一日、私の分身をここに置いて行こう。何かあった時は知らせてくれるはずだ。
早速、分身魔法で自分の分身を出す。一瞬光った後、私の分身が現れた。
「じゃあ、モモたちのことよろしくね」
「うん、分かった。後は任せておいて」
分身にモモたちのことをお願いすると、私たちは小屋を出て行った。強風と雨が吹き荒れる中、クレハに手を引っ張られながらなんとか家に戻ってきた。一往復しただけで、私たちの服はずぶ濡れだ。
「盛大に濡れたな」
「寒いですね」
「ちょっと待ってて。乾燥魔法をかけるから」
手を構えると乾燥魔法を放つ。柔らかな風が吹き抜けて、私たちの服に付いた水分を綺麗に乾かしてくれた。いつも通りの乾いた服に戻ると、今度は発熱の魔法で私たちの体を温める。
「ふー、落ち着いたぞ」
「温かいです」
「これで服も乾いたし、体温も戻ったね。後は……」
朝食と言おうとすると、クレハのお腹が鳴った。
「へへへ、まだ朝食を食べてないからお腹が減ったんだぞ」
「そうだね、朝食を食べないと。これから作るけど、何がいいかな……。そうだ、パンケーキでも食べない?」
「パンケーキ! いいですね、大好きです! フルーツとか乗せたいです」
「ウチはベーコンとか肉を付けて欲しんだぞ」
「分かったよ。じゃあ、作ってくるね」
「私も手伝います。一緒に作ったほうが早いですしね」
「ウチも手伝うんだぞ!」
「じゃあ、三人で作ろう」
久しぶりの三人揃っての食事作りだ。ワイワイとお喋りしながら台所に行き、パンケーキを作っていく。
◇
楽しい朝食の時間が過ぎて、午前中は楽器の練習に勤しんだ。だけど、段々と強くなる風と雨の音が気になってそんなに集中できなかった。今も手を止めて、窓の外を確認してしまう。
「なんだか、強くなっている気がするね」
「気じゃなくて、強くなっているんです。音が大きくなってきましたし、ちょっと怖いですね」
「こんなに強くなっても家はびくともしないぞ。だから、大丈夫だ」
「そうだといいけど……」
段々と大きくなる音を聞いて不安になってくる。イリスも同じ気持ちなのか、表情が暗い。
「二人とも気にしすぎなんだぞ。大丈夫、きっと大丈夫だぞ!」
そんな私たちを励まそうとクレハが声をかけてくれる。そう言ってくれると、不思議と恐怖も薄れていくようだ。このまま何事もなければ、そう思っていた時だ。風の音が急に大きくなった。
「わっ! 風が強くなったよ」
「急にどうしたんでしょう?」
「何か来たのか?」
「嵐の一番強い所が来」
その時、家に物がぶつかる音が響いた。その音は一つじゃない。いくつもの物が外の壁に当たって、音が家の中に響き始めた。
「風で物が飛ばされているんでしょうか? 凄い音が聞こえてきます」
「なんだか、うるさいんだぞー」
「こんなに物が当たったら家が……」
急に強くなった強風で物が飛ばされ、家にぶつかっている。音を聞くと、そんなに大きな物じゃないような気がするけれど……。でも、これ以上大きなものが飛んで来たら大変だ。
でも、できることはない。今はただ耐えることしかできなかった。
「気にしても仕方ないよね。さぁ、楽器の練習の続きを」
ガッシャーンッ!
セリフの途中で大きな音が響いた。音が聞こえた方向を見ると、窓が飛んできた物で壊されていた。途端に家の中に強い風が吹き付けてくる。
「大変です! 窓が割れました!」
「うわわ! 風も雨も入ってくるんだぞ!」
「ど、どうしよう! とにかく、塞がなきゃ!」
どうやって塞げば……そうだ! 薪を使って、創造魔法で一時的な壁を作ればいいんだ。そうしたら、風と雨は入ってこない。
すぐに動かなきゃ。そう思った時、突風が吹き付けてきた。突然の突風に立っていられず、床の上に尻もちを付く。風が強すぎる。一抹の不安が過った時、天井から大きな音が響いた。
「な、なんだ!?」
「きゃぁっ!!」
「何っ!?」
振動が家全体に広がる。恐る恐る天井を見て見ると、折れた木が天井に突き刺さっていた。




