264.秋の嵐(3)
作物所へ戻ると、そこにいた人たちは殆どいなくなっていた。その代わりにコルクさんが迎え入れてくれる。
「コルク、農家のところに脱穀機を置いてきたぞ」
「ありがとうございます。手伝いの人はもう農家のところに向かいました。後は脱穀を進めるだけなんですが……時間との勝負ですね」
「みんなの頑張りで、今後の運命が決まると言ってもいいだろう。信じて待つしかないな。俺は村の見回りをしてくる、農家のことは頼んだぞ」
「お任せください」
二人は話し合うと、男爵様は私を馬から下ろして去って行った。
「よし、じゃあノアにも色々と手伝ってもらうぞ」
「うん、任せて! 何をすればいいの?」
「ノアは俺と一緒に農家を巡っていって、脱穀と袋詰めの手伝いだ。それと、袋詰めをした小麦の量を計ってしっかりと記録すること」
「そうだよね。ちゃんと作った量を計らないと、どれだけお金を支払えばいいのか分からないよね」
「そういうことだ。あと、ノアのマジックバッグを使わせてもらってもいいか? 小麦の運搬をしたいんだ」
「うん、大丈夫だよ。使って役立てて」
やることは沢山ある。だけど、どれも役に立ってみせる。
「それじゃあ、一軒目の農家に行こう。そこでは、イリスやクレハが待ってくれていると思うぞ」
「合流するんだね」
一軒目に行くところではすでにイリスとクレハが行ってくれているみたいだ。二人が先に作業を続けてくれているのなら心強い。早く現地に行って手伝わないと。
コルクさんに連れられた私は一軒目の農家へと向かっていった。
◇
「あそこが一軒目の農家だ」
ようやく、目的の農家が見えてきた。その農家の近くでは小麦が刈り取られた畑が広がっていて、その畑には木の枠にかけられた小麦の束が沢山並んでいる。
こんなに沢山残っていたんだ。これを全部やらないといけないのは、一苦労だ。なんとか、今日中に終わらせたい。そうじゃないと、小麦不足になるし、農家の収入が減ってしまう。
作業現場に近づくと、そこでは脱穀機をフル稼働して脱穀している姿があった。そこには農家の人、冒険者、イリスやクレハもいる。
「みんな、お待たせ! 手伝いに来たよ!」
「おー、ノア! 待ってたぞ!」
「来てくれたんですね!」
声をかけると、こちらに気が付いてくれた。みんな頑張って作業しているようで、手を休ませずにずっと脱穀をしている。
「俺は農家の人と話してくるから、ノアは手伝いをしてくれ」
「うん、分かった」
コルクさんは農家の人の所へ行くと、私はイリスとクレハの所に行った。
「二人とも順調?」
「順調だぞ! でも、量が多くて終わるか心配なんだぞ」
「弱音を吐いている暇はありませんよ。とにかく、動き続けましょう」
「じゃあ、私は小麦をこちら側に持ってくるね」
「任せたぞ!」
「他の人たちの所にも届けてあげてくださいね」
喋っている暇はない。私は早速動き出した。脱穀機を使える人数は限られている。だから、その補佐をしようと考えた。小麦の束の運搬が私の仕事だ。
木の枠にぶら下がっている小麦の束は沢山ある。その小麦の束を魔動力で浮かせると、それを移動させて脱穀機の隣に置いておく。人の手なら時間はかかるけど、魔動力なら一度に沢山運べるから効率がいい。
どんどん小麦の束を移動させていくと、置く場所がなくなってしまった。今は移動はこれくらいにしておこう。だけど、やることがなくなってしまった。役に立つ魔法はあるかな? ……そうだ!
「ねぇねぇ、みんなに時間加速の魔法をかけてもいい?」
「時間加速ってなんだ?」
「どんな魔法だ?」
「みんなの行動が早くなる魔法だよ。それをかけると、きっと脱穀も早く進むと思うの」
「そんな魔法があるのか! ぜひ、やってくれ!」
「早く終わるのか。それは助かるな」
脱穀機の周辺にいる人に話しかけると、みんな時間加速をして欲しいと言ってきた。イリスとクレハも分かっているように頷いてくれる。よし、私の魔法の出番だ。
「じゃあ、かけるよ。……えーい!」
周辺の人に向かって時空間魔法の時間加速をかけた。すると、すぐに効果が現れた。みんなの動きが二倍速くなって、脱穀が凄い勢いで始まったのだ。
脱穀機を動かして、実を飛ばす人。実を回収して、ふるいにかけ、袋詰めする人。それぞれの動きが、まるで早送りになっているかのような動きになった。
この動きなら、脱穀が早く終わる! 小麦の脱穀は凄い勢いで進んでいき、山の様にあった小麦の束がみるみる内に減っていく。そして、小麦の詰まった袋がどんどん積まれていく。
そこに、農家の人とコルクさんがやってきた。
「これは一体、どういうことだ? 人の動きが早くなっている」
「私の魔法でみんなの行動を早くしたの」
「そうか、ノアの魔法か! でも、早くする魔法は料理に使っていなかったか?」
「人にも使える魔法だよ。大丈夫、無理はさせないようにセーブして使っているから」
「そうなんだね。こんな凄い魔法を使ったら、脱穀なんてあっという間に終わってしまうな。いける、これは脱穀を終わらせることができるぞ」
みんなの動きを見てはじめは驚いていたが、事情を話すと嬉しそうな顔をした。うん、この速さなら沢山の小麦の脱穀が早く終わりそうだよ。
あっ! この方法、分身たちも使って欲しいな。うーん、私の分身だからきっとこの方法に気づいてくれるよね。なら、他のところでも時間加速をして脱穀をしているに違いない。
しばらく、時間加速をかけていると、持ってきた小麦の束が残り少なくなってきた。そこで私は一旦時間加速を止める。
「ん? 体の動きが元に戻ったぞ。ノア、どうしたんだ?」
「小麦の束がなくなりそうでしょ? 先に持ってこようと思って」
「そうでしたか。それなら仕方ありません」
「早く戻って来てくれよ。この魔法があれば脱穀が早く終わる」
「ノアの魔法はすごいな。もう、こんなに脱穀が終わってしまった」
みんな、時間加速の凄さを体感して喜んでいるみたいだ。現に小麦の詰まった袋は沢山積まれていて、短時間でここまでできたなんて信じられないくらいだ。
言葉を交わした後、私は小麦がぶら下がっている木枠の傍に近寄った。それから小麦の束を魔動力で浮かせると、脱穀機の近くに置く。その作業をひたすら続けていくと、また小麦の束が山になった。
「よし! これでしばらくは安心だな」
「早速、時間加速をかけてくれ」
「この山も早く終わらせるぞ!」
「お願いします」
みんな、やる気まんまんだ。体の疲労が心配だったけど、この調子だと大丈夫そうだ。みんなに向かって手をかざすと、再び時間加速をかけた。すると、みんなの動きが速くなって脱穀が進んでいく。
この調子でやれば、脱穀の終わりは見えてくる。一粒の小麦も無駄にしない、絶対に全部の小麦を袋に詰めるんだ!
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