261.ラーメン(2)
「ただいまー! って、うわっ! なんかいい匂いがするぞ!」
「ただいま帰りました。……本当、今まで嗅いだことのない匂いです」
「おかえり。帰ってくるまで、作るの待ってたんだ」
二人が家の中に入ってくると、家の中に漂っていたスープの匂いにいち早く反応した。そんな二人に洗浄魔法をかけて汚れを綺麗にすると、席へと案内する。
「待ってて、今作って持ってくるから」
「珍しいですね。いつもはテーブルに用意してくれてますよね」
「でも、この方がワクワクが強くなるぞ。待つのは辛いけど、待てるぞ!」
二人を席に着かせると、私はかまどの前に移動した。かまどには弱火で温めたスープと沸騰したお湯が入った鍋がある。その鍋に麺を投入すると、麺を茹でていく。
その間にどんぶりに醤油タレとスープを入れて混ぜておく。待っていると麺が茹った。火を消すと、鍋を流し台の所へ持っていき、ザルにお湯ごと流し込んだ。途端にムワッとした湯気が立ち込めた。
その湯気を手で振り払うと、ザルにはちょっと縮れた麺が上がっている。そのザルを持って、どんぶりに麺を綺麗に入れていく。麺を入れ終わったら、最後にチャーシュー、メンマ、ネギ、味玉を乗せて完成だ。
「おまたせ、これがラーメンだよ」
二人の前にどんぶりを置くと、目を輝かせてどんぶりの中身を見た。
「麺がうどんより細いです。それに具材もうどんとは違いますね」
「この匂い、とってもいいんだぞ。なぁ、食べていいか?」
「うん、食べようか。それじゃあ……」
「「「いただきます!」」」
三人で声と手を合わせると、箸と木のレンゲを手に取る。まずはスープからだ。スープをすくうと茶色く透き通った良い色をしている。そのスープに息を吹きかけて少し冷まし、スープをすする。
醤油の風味を感じた後に、複雑な出汁の旨味を感じた。
「ん、美味しい!」
「うわー、なんだこれ! 今までのスープとはまるで違うぞ!」
「……美味しい。色々な味がしますね」
「スープの出汁を取るために色々と入れたからね。だから、こんなに複雑な味になって強い旨味になったんだ」
「肉の味もしていたんだぞ。出汁の材料に肉が入っているな!」
「微かに昆布の風味を感じます。一体、どんな材料を入れたらこんな味になるんでしょう」
「気に入ってくれて良かったよ。さぁ、麺も食べて」
二人ともスープを気に入ってくれたようだ。じゃあ、メインの麺を食べよう。箸で麺をすくうとスープに良く絡んでいる。それを口に含んですする。ずるずるといい音をして、口の中に入れて噛んで飲み込む。
スープの味が染みついた、歯ごたえのある麺。噛めば噛むほど幸せな気分に浸れる。はー、これこれ。ラーメンって美味しいなぁ。
「麺も美味しいんだぞ! うどんより細いから食べ応えがないとか思ってたけど、そんなことないな! いっぱいあるから、いっぱい食べれる!」
「良い感じに麺がスープと絡んで、美味しいです。食べる手が止まりません」
「でしょ? ラーメンってこんなに美味しいものなんだよ。麺が伸びない内にどんどん食べて」
どんどん食べるようにすすめると二人は麺をずるずるすすって食べ続ける。すすっては噛んで、すすっては噛んで。途中でレンゲでスープをすすって、また麺をすする。
夢中で麺をすする音が家の中に響くと、今度は違うネタの話題が出た。
「この肉、トロトロで美味しいんだぞ。歯ごたえあるもののほうが好きだけど、これはこれでホワァーってなるぞ!」
「このシャキシャキしたもの美味しいです。麺と麺の間に食べるのがピッタリです」
「味玉はどう? しっかりと味が染み込んで美味しいと思うんだけど」
「卵も美味しいんだぞ! これならいくらでも食べれるぞ!」
「中の黄身がトロトロなのがたまりません。この一つのどんぶりで色んな美味しいが詰まっていて、ビックリです」
二人とも具材も気に入ってくれたみたいだ。そのまま、麺、スープ、具材を食べ進めていくとあっという間に完食してしまった。
「プハー、ごちそうさまなんだぞ」
「美味しかったです。ごちそうさまでした」
「おそまつさま。このラーメンを収穫祭に出そうと思うんだけど、いけると思う?」
「これだったら絶対に勝てるぞ! ノアが一番だ!」
「この味に勝てる料理を思いつきません。ノアが勝ちますね」
「そう、良かった」
どうやら、ラーメンを本当に気に入ったようで収穫祭の料理対決でも勝てると二人は確信したように言った。心強い援護に心がホッとする。
「でも、沢山の人に食べてもらわないといけないんですよね。そうすると、沢山必要になります。ノアは大変じゃないですか?」
「んー、そうだね。沢山用意しておかないと大変だね」
「……そうだ! 創造魔法で作ってみるのはどうだ? あれだったら、一発でできるんだろう?」
「確かに。まだ創造魔法で料理を作ったことはないなー」
創造魔法で作った料理はどんな味がするんだろう? 一回試してみる価値はあるか。
「じゃあ、明日創造魔法で作ってみることにするよ」
「美味しい物が作れるといいですね」
「ノアならきっとできるぞ!」
「じゃあ、片づけて楽器の練習をしようか」
明日は創造魔法の料理に挑戦だ。
◇
「さてと、材料はまた揃えたね」
私の前に昨日と同じラーメンの材料が揃っている。この材料を使って、昨日と同じラーメンを作る。昨日と同じ味に仕上がるか、それとも違う味に仕上がるか……。
一つの鍋にスープの具材を入れると、手をかざす。それから、スープの作り方と完成形を頭に思い浮かべると創造魔法を発動させる。鍋が一瞬光ると、その光が収束していく。そして、スープができあがった。
「本当にできてる? ……味見をしてみよう」
鍋を覗くと、煮込んだ感じの材料がそのまま残されていた。そのスープをすくって小皿に入れて口にする。
「スープになってる。でも、昨日作ったものよりも薄味な感じがする……。それに雑味もちょっとあるような……」
昨日と同じ材料を用意したのに、できあがったのは違ったスープだった。もしかして、他の材料でも同じことが起こるのかな? 当初通りに他の具材も作るために材料を一か所にまとめると創造魔法を使った。
材料が全て揃った創造魔法だったからか、魔法の使用量は多くない。それでも、他の魔法よりも断然使用量は多いが倒れるほどではない。連続で使って、他の具材も完成した。
他の具材の試食をしてみたいけれど、必要な分しか作っていないため、ここで食べると夕食に食べる分がなくなる。だから、試食はやめて夕食の時を待つことにした。
◇
「今日は創造魔法で作ったラーメンだよ」
二人の目の前にどんぶりを置く。二人は目を輝かせてどんぶりの中身を見た。
「今日も作ったんだな! しかも、創造魔法で!」
「どんな味がするんでしょうか。楽しみです」
「私も楽しみ。味見はスープしかしてないから、どんな味に仕上がっているか知らないだよね」
「「「いただきます!」」」
さて、創造魔法で作った料理の味はどうだ。箸と木のレンゲを手に取って、まずはスープからだ。見た目はいい、透き通っているし濁りのない茶色だ。でも、あの時飲んだスープはちょっと薄かったんだよね。
少しの不安を感じながらスープをすすり飲んだ。ちゃんと肉、野菜、昆布の出汁はしっかりとれている。だけど、旨味が少ないように感じるのはどうしてだろう?
明らかに昨日食べたラーメンより味が劣っている気がした。ふと、顔を上げて二人の顔を見て見ると呆けた顔をしている。昨日とは明らかにテンションが違う。
「二人ともどうだった? ……昨日とは味が違うと思うんだけど」
「昨日のラーメンは強い旨味を感じたのですが、今回はそれが薄いような気がします」
「これはこれで美味しいとは思うぞ。だけど、昨日の味を知った後なら素直に喜べないぞ」
「じゃあ、他の具材も食べてみて」
どうやら二人も昨日のラーメンとの差を感じたみたいだ。スープがそんな結果になったけど、他の具材の結果も気になる。二人に食べるように勧めて、自分の食べ進める。
麺をすすって食べると、昨日に比べてコシが少ないような気がする。なんか、中華麺を食べている気がしない。別においしくないという訳じゃないけれど、昨日と比べると明らかに劣っている感じだ。
他の具材も食べる。チャーシューは固い感じで味が染みていないような気がする。メンマはタケノコそのままを食べている気がする。味玉は中の黄身が微妙だし、味も染みてない。
どうやら、創造魔法で作った料理は手で作った時よりも味が劣ってしまっているようだ。それでも、最後まで食べられたから美味しいには美味しかった。でも、昨日と比べると物足りなさを感じる。
「「「ごちそうさまでした」」」
食べ終わった私たちは昨日みたいにテンションが上がらない。昨日とは違う味だったからだ。
「作るのは楽ちんだったけど、味は昨日と比べて微妙になったね」
「だな。これはこれで美味しいけど、やっぱり昨日食べたラーメンが美味すぎた」
「申し訳ないですが、昨日のラーメンの方が好みです」
「よし! 収穫祭には昨日のような作り方でラーメンを出してみるよ」
「ウチも手伝うぞ! 沢山作るなら、沢山の手が必要だろう?」
「私も手伝います。なんでも言ってくださいね」
私の言葉に二人は賛成してくれた。美味しいラーメンを作って、目指すのは優勝だ!




