256.歌と踊り(3)
クレハが音楽に合わせてリズムを取る。先に動かしたのは足だ。飛び跳ねるように足を動かして、素早いステップを踏む。それを見て私は思い出した。リムート漁村でやったコッカだ!
まるでそこに棒があるかのように見える、クレハの足さばき。よく、そこまで覚えているんだな……と、感心していると手の動きまで付けてきた。
それは子供たちが踊っていた振付に似ていた。左に右に、前に後ろに手を動かしていてとても賑やかだ。
「おい! ノアとイリスも入って来いよ!」
「えー……ちょっと恥ずかしい」
「私もちょっと恥ずかしいです」
「そんな恥ずかしがることないだろ! ホラ!」
クレハは私たちを誘ってくるが、私たちはちょっと恥ずかしくなって身を縮めてしまった。それを見たクレハは一旦踊りを中止して、私たちの手を引っ張ってみんなの中心に移動させた。
「行くぞ! 三、二、一!」
クレハの合図で私たちはステップを踏み出した。しばらくやっていなかったから不安だったけど、そこに棒があるように綺麗にステップが踏めたと思う。
「よし、手の動きも合わせるぞ!」
えー、手の動きも? イリスと顔を見合わせて戸惑っていると、先にクレハが手の動きを付けてきた。仕方がない、私たちも後に続こう。イリスと頷き合うと、記憶を辿りながら手の動きを付けた。
三人とも動きはバラバラだけど、ちゃんとした踊りになっていた。いつの間にか、大人たちも踊りを見に来ていて手拍子を叩いてくれている。
そして、息が上がる頃になると、しっかりと地面を踏んで終わりのポーズを取ってみせた。すると、周りから拍手が沸き起こる。
「おー、なんだか凄かったぞ!」
「見ていて楽しかったわ!」
「なんか早かった!」
ワッとなって子供たちが集まってきた。その反応を見て、クレハは自信気に胸を張ってみせる。
「ウチらの踊り、良かっただろう?」
「やってみたいぜ!」
「教えて、教えて!」
「足が凄かったよね!」
教えて欲しいと詰める子。だけど、そればかりじゃない。
「うーん、私は前の方が良かったかな」
「なんか、足が忙しくて大変そう」
「なんか、バラバラだったから綺麗じゃない」
主に女の子たちから不評だった。どうやら、穏やかで綺麗だった動きの方が見栄がいいと思ったのだろう、そっちを学びたそうにしていた。
「えー、こっちの方が楽しいよ」
「無理だってー、できないよー」
「前の方がいいー」
「つまんねー。こっちの方がいいぞ」
子供たちの意見が割れた。女の子が踊っていた穏やかな踊りがいいか、私たちが踊った激しい踊りがいいか。まだ、その間で迷っている子もいて、中々決まらない。
これはどうしたものか。腕組をして考えていると、今まで黙って見ていたエルモさんが近づいてきた。
「あ、あの……丁度曲が二つありますし、分かれてやってみたらどうですか? 一曲目の曲調は最初にやった踊りが合うと思いますし、二曲目の曲は次にやった踊りが合うと思います。……どうでしょう?」
あっ、エルモさんが普通に話している……珍しい。大丈夫かな? と、ちょっと不安に思う。子供たちは普段見かけない人を見て呆けていたが、すぐに反応が返ってくる。
「それ、いいね! どっちかじゃなくて、どっちともやればいいんだ!」
「そうだよなー。好きな方を選べばいいもんな」
「えー、どっちもいいのかー。じゃあ、どっちにしようかなー」
エルモさんの話に子供たちがのった。意見が割れていた子供たちはまた一つになって、楽しそうに話し始めた。
「じゃあ、踊りたい方のところに移動しようぜ」
誰かがそういうと、子供たちは移動を始めた。女の子の方に行く子、私たちの方に来る子。すぐに行く子もいれば、迷いながらおずおずといった様子で決める子と様々いる。
「もし嫌になったら途中で変えてもいいかな?」
「いいんじゃない? 両方やりたい人がいたら両方やってもいいし」
「じゃあ、両方やる!」
「おいおい、覚えられるのか?」
「私も両方!」
こうなると自由だ。二つに分かれたのに、子供たちは自由に行き来して好きなようにやっている。まぁ、衝突することがなかったのが救いだったかな。
そうして、二つに分かれると早速踊りの練習を始めようとしたところで、私たちの所にエルモさんが近づいてきた。
「これからやる曲には歌がありますから、歌って踊ってみたらどうですか?」
「歌かー、上手に歌えるかなー?」
「楽しそうだからやってみようよ!」
「踊りに歌に覚えられるかなー?」
エルモさんが積極的に動いている、珍しい。子供相手だから、大人に対応するよりは気楽なのかな? 私たちと交流していたお陰で子供は平気になったとか。そうだったらいいな。
二つに分かれた子供たちは練習を始めた。体の動きはたどたどしいけれど、とても楽しそうにしているのが印象的だ。私たちが踊りを教えていると、曲が変わった。それは私たちが踊る予定の曲だった。
それを聞いて、エルモさんが提案してくる。
「歌の練習をするのにもってこいですね。じゃあ、私が歌うので聞いてくださいね」
エルモさんの言葉に子供たちは頷いて、周りに集まった。エルモさんは手を胸に当てると、歌いだした。とても綺麗な声だ、エルモさんがこんなに綺麗な声を出すなんて驚きだ。
子供たちはみんな呆けた顔をしてエルモさんの歌に聞き惚れていた。すると、その歌声が途切れる。
「こんな歌詞ですが、覚えられますか?」
エルモさんの言葉に呆けていた子供たちがハッと我に返る。
「すげー! 姉ちゃん、歌が上手いんだな!」
「もっと、歌って!」
「いい歌だった!」
「え、えーっ!? わ、私の歌は普通ですよ……。そんなことより、みんなも一緒に歌ってください」
「……俺、歌いたい! 姉ちゃんと同じくらいに歌えるようになりたい!」
「俺も俺も! あんな声を出してみたい!」
「私……上手にできるかな……」
「大丈夫だって! みんなで歌えば、どうにかなるって!」
子供たちはワッとなって盛り上がった。エルモさんを中心にして、子供たちが好き勝手に話している。私の隣にいたクレハとイリスも始めは呆けた顔をしていたけど、我に返った今ではテンション高い。
「凄かったな、今の! ウチにも歌えるかな?」
「歌えるようになりたいですね。なんか、特別感が強いですね。……あっ、そうだ! クレハ、耳を貸してください」
「ん、どうしたんだ?」
なぜかイリスがクレハの耳にひそひそ話をしている。二人は何を話しているんだろう?
「それ、いいな! やってみようぜ!」
「ですよね! とりあえず、相談しましょう!」
「ねぇ、どんなこと話していたの?」
「げっ! ノ、ノアには秘密だぞ!」
「えっ、秘密なの? どうして?」
「ふふっ、今は秘密ですが、後になったら分かりますよ」
えー、私だけ仲間外れ? ちょっと寂しいなー。一体、どんなことを相談していたんだろう? 一人で考え込んでいると、子供たちが近づいてきた。
「ノア! 踊りながら歌ってみてよ!」
「えっ、みんなに見せるの?」
「一度、歌って踊っている姿を見てみたいんだよ」
「頼むよー!」
「わ、分かったよ。上手にできるか分からないけれど、やってみるね」
クレハとイリスにも子供たちが話しかけているけれど、私を指差していた。クレハとイリスはちょっと用事があるように輪から外れていく。どうしたんだろう?
「ねー、早くー!」
「曲が終わっちゃうよー!」
「お願いだから、やってくれ!」
「わ、分かったよ」
子供たちは待ってはくれない。仕方なく私は曲に合わせて踊って、うろ覚えの歌詞をなぞるように歌う。テンポの良い曲調と明るい歌詞はピッタリフィットしていて、歌っていると気持ちよくなる。
それに、踊りも合っているように思う。曲と歌と踊りが合わさると、こんなに気持ちがいいものなんだ。そんな思いで歌い切り、踊りを止めた。すると、ずっと見ていた子供たちがはしゃぎ出す。
「すっごい、良かった! あんなふうにできるかな?」
「やってやろうぜ! 隣よりも凄いことやってやろうぜ!」
「絶対こっちのほうが楽しいに決まっている! 練習しようぜ!」
どうやら、気に入ってくれたみたいだ。この調子で、収穫祭まで間に合えばいいな。
ふと、離れていった二人が気になって探してみると、エルモさんのところにいた。三人で何か話しているみたい。さっきのことで相談をしているのかな?
一体何を考えているのか気になる。二人は何をしようとしているの?




