255.歌と踊り(2)
エルモさんの手を引いて村の広場までやってきた。そこには作業を終えた村人や午前の魔物討伐を終えた冒険者たちが沢山集まっている。
「村人と冒険者が集まるのは始めてじゃない? なんか、いつもより人数が多いような気がする」
「なんか、祭りが始まるみたいでワクワクするんだぞ!」
「もう、祭りはまだ先ですよ」
みんなで賑やかに話している光景を見ると、何かが始まりそうでワクワクするね。そんな私たちの気持ちとは裏腹にエルモさんは体を小さくして少し怯えていた。
「ひえぇっ、あんなに人がいるなんて思いませんでした。いつもどこにいたんですか~」
「いつもは畑とか家にいるんだぞ」
「普段は散らばってますしね」
「そういうことを知りたいんじゃないんですぅ……。町みたいで全然落ち着かないです……」
「エルモさんは町にいたんだね」
「はい……。町は人が多くて……肌に合わないんです。だから、人が少ないところに来たくて、ここに移り住んだんです」
そっか、元々は町で住んでいたんだね。人を避けるために田舎に来たんだから、あんまり人とは交流したくない? でも、私たちには普通に接しているし、どういうこと?
「じゃあ、エルモはウチらとは仲良くなりたくなかったのか?」
「い、いえっ……そういうことじゃないんです。ほどほどの交流なら大歓迎です! やっぱり、一人は寂しいですしね」
「そういうことなら、良かったです。じゃあ、もう少しお友達を増やしに行きましょう」
イリスがエルモさんの手を引っ張り、クレハがエルモさんの背中を押した。
「うぅ……仲良くできるでしょうか?」
「ウチらが付いているから大丈夫だぞ!」
「色んな人と仲がいいですから。紹介してあげますよ」
「そうだね。紹介してあげたら、仲良くなるきっかけになるかも」
エルモさんと一緒に沢山の人がいる輪に入っていく。そして、先導する二人がまず近づいたのは……。
「よぉ! 三人も来たか!」
「今日は俺たちも楽しむからな!」
「俺の踊りを見てくれよ!」
「ひぃぃっ!!」
あろうことか、エルモさんが苦手な冒険者たちだった。
「おっ、錬金術師の姉ちゃんもいるぞ。店から出るなんて珍しいな! やっぱり、祭りが気になるのか?」
「は、はいぃぃっ……」
「いやー、若いのに田舎の村に来るなんて根性があるヤツだなって思ってたんだよ。祭りの時は一緒に酒でも飲んで、話を聞かせてくれや!」
「え、え~……とっ……」
「普段は店主と客の関係だが、祭りではそんなの気にせずに一緒に楽しもうや! 一緒に踊ろうぜ!」
「い、いや……ちょっと……」
珍しいエルモさんの姿に冒険者によってあっという間に囲まれてしまった。苦手な冒険者に囲まれたエルモさんは萎縮して、必死に目を泳がせている。
「エルモはもう冒険者のおっさんと仲良くなったのか!」
「いや、あれは……そうは見えないですが」
「まだ、冒険者と仲良くなるには時間がかかるかも。もっと、別なところに連れ出そう?」
私たちは冒険者たちに声をかけると、エルモさんの手を引っ張ってその場を離れた。すると、エルモさんがぐずぐずと泣き出した。
「うぅ……あんなに囲まれて、怖かったです」
「うわっ! エルモ、大丈夫か?」
「怖い思いをさせて、ごめんなさい」
「今度は大丈夫だからね」
私たちはどこに行こうか悩んでいた所、輪の中心から声が上がる。
「じゃあ、人が集まったんで練習を始めるぞー」
その声に周りがざわついた。みんなが注目している中、楽器を持った大人の人が現れる。
「まず、どんな曲を演奏するか少しだけ披露するな。二曲あるそうだ」
そう言った後、楽器の音が鳴る。始めはただの音だったが、それがしばらく続いた後に一瞬の静寂が下りた。数秒後に楽器は曲を奏で始める。
始めの曲は賑やかな曲調だった。みんなでワイワイやるにはもってこいの曲で、ダンスをするならこの曲がピッタリ合いそうだ。
「なんだか、自然と体が動き出しそうなんだぞ」
「ですね、楽しい気分になります」
「エルモさんも楽しい気持ちになった?」
「はい。先ほどの嫌な気持ちが吹き飛びました」
曲を聞いてみんなが楽しい気分になった。この曲なら合わせて踊れそうな感じがする。
すると、曲は途中で止まり、また声がした。
「じゃあ、二曲目いくぞー」
その声がした後、また楽器が音を鳴らした。しばらく音を鳴らした後、静寂が訪れてみんな耳を傾ける。そして、再び楽器が鳴った。今度はアップテンポの曲調だけどなじみ深い印象だ。
「あ、この曲知ってます。へー、こんな所で聞けるとは思いませんでした」
「エルモが知っている曲なのか!」
「はい。この曲には歌も付いているんですよ」
「歌ですか。聞いてみたいです!」
「は、恥ずかしいので……あ! ほら、誰かが歌っている声がしますよ」
「本当だ。へー、こんな歌なんだね」
村人の方からと冒険者の方から歌声が聞こえる。そんなに有名な曲なんだ。お祭りの時に歌も合わさったら、もっと賑やかになりそうだ。
曲は途中で止まり、仕切っていた人がまた声を上げる。
「一応、最初に流した曲を踊り専用の曲にする予定だ。二曲目は歌いながら、気が向いた奴が踊る感じにしたいと思う。そんな感じにしようと思うが、どうだ?」
仕切った人の問いかけに、周りがざわついた。
「問題ないと思う。曲もノリがいい曲で楽しかった」
「もっと曲があれば嬉しいんだけど、無理かしらねー」
「今から新しい曲を練習するのは難しくないか? まぁ、一芸披露の時に他に演奏してくれる奴が出てくるのを楽しみに待ってればいいんじゃないか?」
それぞれの意見が飛び交うが、おおむね賛成のようだ。
「じゃあ、曲を流すから自由に踊ってみてくれ。踊りを知らない奴にはちゃんと教えてくれよな」
仕切っていた人がそういうと、最初の曲が流れ始めた。それに合わせてすぐに踊り出す人は少数で、ほとんどの人が悩んでいるみたいだ。まぁ、突然踊れって言われても困るよね。
「どんな踊りをしたらいいか、聞いてみようか」
「ウチらは子供だからな! 子供と相談だ!」
「えー、そこは大人の人に相談じゃないんですかー?」
「ふふっ、子供同士の相談。可愛い光景ですね、見てみたいです」
クレハが子供が集まっているところへ向かって駆け出した。私たちは仕方ないな、と思いながらもクレハの後を追う。
子供たちが集まっているところでは、子供たちが真剣な顔をして相談しはじめていた。
「踊り……どんな風に踊ればいいんだろう」
「とりあえず、大人の踊りを観察しておく?」
「でも、それは大人の踊りだろう? 俺たちができるか分からない」
「うーん、子供ができる踊りを考える必要がある?」
誰もがまじめに踊りを考えていた。その中で一人の女の子がおずおずと行った様子で手を上げる。
「私のいたところでは、踊りをやったことがあるの」
「それは子供でもできる?」
「うん、できるよ。やって見せるね」
踊りの経験者がいたみたいだ。この村は開拓村、他の町や村から移住者が来ている。だから、色んな経験をしている人が集まっていた。
女の子は私たちの前に出て、曲に合わせて踊ってみせた。軽くステップを踏みながら左右に振れると、手を上下左右に動かして踊り始めた。
その踊りは前世でいうお遊戯会で見るような簡単な踊りだ。手を動かし、足でステップを踏んで、クルリと回る。子供向けの踊りを見て、周りの子供たちがはしゃぎ出す。
「これだったらできそう!」
「もうちょっとカッコいいのがいいなー」
「じゃあ、どんな踊りが良いんだよ」
ワイワイと好きなようにいう子供たち。そんな中、みんなの前にクレハが飛び出していった。
「じゃあ! ウチらがやった、踊りも披露するぞ!」
「おっ! クレハ、やっちゃえ!」
あれ、私たちって何を踊ったんだっけ?




