251.決意
「「「ティアナ!」」」
「お父さん! お母さん! お兄ちゃん!」
ティアナを家まで連れていくと、心配して起きていた家族が総出で出てきた。みんなでティアナを抱きしめて、再会を喜んでいる。
「良かった……無事でいてくれて、本当に!」
「怪我はない? 怖かったよね……」
「ティアナが戻ってきてくれて、本当に嬉しい!」
「怖かったよぉ!」
ようやく安心できる場所にやってきたティアナは家族に抱き着いて、泣いた。そのティアナを家族は温かく抱きしめて、気持ちが落ち着くまでそっと背中を擦って上げている。
しばらくすると落ち着いたのか抱きしめていたティアナの体を離し、私たちに向き直った。
「三人とも、ティアナを取り戻してくれてありがとう」
「無事でティアナを見つけてくれて、本当にありがとう」
「やっぱり、三人は凄いんだな!」
それぞれが感謝をしてくると、くすぐったい気持ちになる。
「まぁ、ほとんどノアのお陰なんだけどな!」
「ですね。ノアがいなかったら、上手く事が運びませんでした」
「ううん、二人がいてくれたお陰で冷静に対処できたんだよ」
私一人で行っていたら、冷静に対処できなかっただろう。やっぱり、頼りになる友達が近くにいるのは力になる。だから、二人にも感謝をしたくなった。
「二人とも、一緒に来てくれてありがとう」
「いいってことよ!」
「気にしないでください。困った時は一緒ですよ」
すると、二人は照れたように笑い合った。それから、改めてティアナの家族と向き合う。
「ティアナは植物魔法が使えるって勘違いされて攫われたみたい。私のせいで今回の事件に繋がったと思うの。だから、ごめんなさい……」
「そんな……ノアちゃんが謝ることないわよ」
「そうだよ。悪いのは攫った人たちなんだから、それは気にするな」
「うんうん、ノアは悪くない!」
「お姉ちゃんは全然悪くないよ」
「……ありがとう」
今回一番悪かったのは攫った冒険者たちだ。それは分かっているが、私がきっかけになっていることには変わりがない。もし、私が植物魔法を使える人だと言っていたら、ティアナは怖い思いをしなくても済んだに違いない。
「ノアは気にするな。自分のことだけを考えなさい」
「ノアちゃんも大変なんだから、気を付けるのよ」
「ありがとう。じゃあ、私たちはこれで」
「気を付けて帰るんだぞ」
「お姉ちゃん、バイバイ」
ティアナの家族はきっかけとなった私のことを責めなかった。その言葉に救われながら、私たちは車に乗り込み家へと帰っていった。
◇
家に戻ってきても、辺りはまだ暗かった。そこで、とりあえず仮眠をして、朝になったらティアナを連れ戻したことを報告することになった。
「なんか、パジャマに着替えたら急に眠くなったぞ」
「私もです。お話をしなくちゃいけないから、沢山寝れないのが痛いですね」
「朝になったら頑張って起きるんだぞ」
「そうだね、みんな心配しているはずだから、ちゃんと報告しよう」
パジャマに着替えてベッドの中に入る。だけど、私はあんまり眠気が来なかった。なんだか、横になるのも辛くて、上半身を起こしてベッドのヘッド部分に背中を預けて窓の外から差し込む月明りを見る。
「……ノア、寝れないんですか?」
「……そうなのか?」
すると、私が起き上がっている気配を察してイリスとクレハも体を起き上がらせる。
「うん、ちょっとね……」
「何か不安なことがあったら話した方がいいと思いますよ」
「何っ!? 何か不安なことがあるのか!?」
「あははっ。まぁ……ちょっとね」
「どんなことですか? 話してみてください」
イリスの言葉に背を押される気持ちだ。その優しさに救われながら、私は重い口を開く。
「今回の事件はティアナが植物魔法を使えるって勘違いされたから起こったことだよね。もし、勘違いされなかったら攫われるようなことはなかったと思うんだ」
「話によると、その冒険者が家の窓から中を覗いていたらしいですね。そこまでする方が悪いと思いました」
「うへー、家の中まで覗いてくるなんて変態なんだぞ。今回は冒険者たちの行動が行き過ぎているな」
「確かに、冒険者たちの行き過ぎた行動が目立っていると思う。それだけ、白い砂糖が高価で取引できるものってことだよね」
「私たちはその白い砂糖を自由に使えてますが、他所ではどれくらいの価値なんでしょうね」
「日常的に白い砂糖を使っているから、感覚が分からないなぁ」
白い砂糖は冒険者に思い切った行動をさせるほどの魅力があるということだ。どれだけの値段で取引されているのか分からないけれど、相当高価なんだと思う。
「私たちの想像以上に白い砂糖は高価なんだろうね。だから、色んな人が欲しがっている。そんな人たちがこの村に集まってきていて、そのせいでみんなに迷惑をかけているのが気にかかってるの」
「白い砂糖の恩恵は村の人たちも受けてます。だから、この問題はノア個人のものじゃなくて村全体の問題だと思います」
「うーん。みんなが砂糖があって喜んでいるんだろう? ノアだけの問題じゃないと思うな」
「うん、それは分かっている。この砂糖作りは男爵様の主導の下でやってきたことだから、村全体の問題だって分かってる。だけど、私が白い砂糖を作れるって外に向けて言っていないことで、他の村人に迷惑をかけるのが嫌なの」
「ノアは自分のせいで、今回みたいに他の人が嫌な目に合うのが嫌なんですね」
「悪いのはノアじゃないのに、どうしてノアが嫌な思いをしなきゃいけないんだ!」
もし、私が白い砂糖を作れるって言っていたらティアナは怖い思いをしなくて済んだかもしれない。それを思うと、このままじゃいけないって思ってしまった。
それに、今回のような事件がまた起こらないとは限らない。また、他の誰かが疑われて攫われたりしたら……それを考えると胸が痛くなる。私が白い砂糖を作れてしまったせいで、誰かが酷い目に合うのが嫌なんだ。
「私……この村の人たちに嫌な目に合って欲しくない。魔法が使えるっていうだけで、友達の子たちが攫われることになったら……そう思うと本当に嫌なの」
「それだけノアにとって村の人たちが大切なんですね。その気持ち分かります。私も村の人たちがとても大事です」
「ウチも村の人たちが大好きなんだぞ! みんなには嫌な目に合って欲しくない!」
「だから、このまま黙っているのも辛いの。私がいるせいで、誰かが傷ついて欲しくない」
自分の体を抱きしめて思いを吐露する。大切な人たちが自分のせいで傷つくのを見たくない。今回の事は本当に怖かった。ティアナを無事に取り戻せたけれど、ティアナが攫われた事実は私の心を傷つけた。
すると、二人が私の近くに寄ってきた。震える私の体を優しく抱きしめてくれる。
「怖かったですよね。まさか、ティアナが攫われることになるなんて思ってもみませんでしたから。また同じことになるのは嫌ですよね」
「ノアは悪くないぞ。悪いのはノアを狙う奴らだ。ウチらがノアを守ってやるから、心配しないでくれ」
「二人とも……ありがとう」
こういう時、傍に二人がいてくれて本当に良かったと思う。二人がいるだけで、私の荒れた心が静まっていくようだ。そして、二人のお陰で勇気も湧いてくる。
「私……自分が白い砂糖を作れるって外に向けて言ってもらおうと思う。そうしたら、村の誰かが標的になることはないよね」
「それだと、ノアが標的になってしまいます。私は心配です……。でも、ノアが決めたことなら応援したいと思います」
「うー、心配だけどウチらが守るから大丈夫だぞ! ノアはやりたいようにやれ!」
「うん、私……もう逃げない。二人には迷惑をかけるかもしれないけれど……」
「何を言っているんですか。迷惑だなんて思いませんよ。ノアと一緒にいるって決めた時から、どんな困難も一緒に乗り越えようと思ってます」
「ウチらを見くびっちゃ困るぞ! ウチらはどんなことがあったって、ノアの味方なんだぞ!」
二人の温かい言葉が心に沁みる。この二人に出会って良かった、一緒にいられて良かった。そんな温かい気持ちが膨らんだ。
お陰で気持ちが固まった。もう二度とこんなことが起きないように、私が白い砂糖を作った張本人だって伝えてもらおう。




