250.奪還
車に付けた光球の光が私たちを照らす。三人の冒険者の内、二人が剣を抜き、一人がティアナを抱えてこちらを警戒していた。
「折角見つけた植物魔法を使える子を手放す訳にはいかねぇ! これを貴族に売って、大金をせしめるんだ!」
「その子は植物魔法は使えない! だから、離して!」
「そんな話は信用できない。お前らが嘘を言っている可能性だってある。だから、自分の目で見た光景を信じるのさ!」
説得しようとしたが、全然こちらの話を聞かない。それもそうだ、散々植物魔法を使える人物の事を隠してきたのだから、私たちの言葉は信用してくれないだろう。
「その子が植物魔法を使っている場面を見たっていうの!?」
「魔法が使える子は初めて見た。だから、この子は植物魔法が使えるんだ! そこをどかないと、痛い目に合うぞ!」
「ノア! こいつらに何を言っても無駄だ!」
「実力行使しかないみたいですね」
懸命に訴えるが、私の言葉は届かない。冒険者は武器を片手にジリジリと近寄ってくる。その様子を受けて、私の前にクレハとイリスが立ちふさがった。
「やっちまえ!」
ティアナを抱えている人が声を上げると、他の冒険者たちが襲い掛かってきた。
「やられないぞ!」
「そうはさせません! 聖なる壁!」
クレハが飛び出していくと、すぐにイリスが聖魔法を唱える。すると、冒険者たちの前に急に光の壁が出現して、冒険者たちは聖なる壁にぶち当たり尻もちを付いた。
「いてぇっ!」
「な、なんだこれ!」
「行くぞ!」
尻もちを付いた冒険者たちにクレハが襲い掛かった。素早い動きで距離を詰めると、剣を振るった。冒険者たちは尻もちを付きながら、クレハが振る剣を受け止める。
素早く重い一撃の連続に冒険者たちは押されていた。しばらく、剣の攻防が続くとクレハが力を貯めた一撃を放つ。
「はぁっ!」
その一撃を受けた二つの剣は冒険者の手を離れて、高く飛び上がり離れた地面に突き刺さった。
「ひぃぃ、なんて力だ!」
「こんな小娘にっ!?」
「どうだ! 参ったか!」
クレハは剣先を冒険者に向けて脅した。冒険者たちは両手を上げて固まりつつも、残った冒険者の方を向く。
「お、おい! どうにかしてくれ!」
「なんとかしてくれ!」
「くそっ! 情けねぇなぁ!」
残った冒険者は抱えていたティアナを地面に下ろした。観念して返してくれるのだろうか? そう思って動向を見守っていると、その冒険者はナイフを取り出してティアナの首筋に当てた。
「おい、大人しくしろ! こいつがどうなってもいいのか!?」
「お、お姉ちゃんっ……」
「ティアナ!」
ティアナを人質にして脅してくるなんて卑怯な!
「このっ……」
「おっと、そこの小娘も動くな! おい、お前ら! こっちに戻ってこい!」
クレハが動こうとすると、ナイフをチラつかせて脅してきた。クレハは動くのを止めると、尻もちを付いていた冒険者たちは立ち上がって飛んでいった剣を取ると、その冒険者の所に戻っていった。
「よし、お前らはここを動くんじゃねぇ。こいつを傷つけたくなかったらな」
「お姉ちゃんっ」
「くそっ、卑怯だぞ!」
「ティアナを離しなさい!」
「ここまできて離すわけねぇだろう。その不思議な乗り物をよこすんだ。代わりにそれに乗ってやるよ」
そういう手で来るなんて卑怯だ。この場をどうにかして切り抜けないと。
幸い、相手は私が魔法を使えることは気づいていないようだ。あの車も不思議な力で動いているとしか思っていないみたい。だったら、好都合だ。
こちらを警戒しながら、車の方に歩いていく冒険者たち。その冒険者たちに気づかれないように魔動力を発動する。すると、ピタリと冒険者たちの動きが止まった。
「あ、あれ? か、体が動かないぞ?」
「なんか、凄い力に押さえつけられているような……」
「ど、どうなってるんだ!」
体が動かないように魔動力で魔力を操作する。ティアナを持っている冒険者の動きを操作して、ティアナを地面の上に置かせた。
「おい、何やってんだよ!」
「し、知らん! 体が勝手に!」
「どうして、体が動かないんだ!」
焦り出す三人の冒険者。ティアナは何が起こったか分からないような顔をして冒険者たちを見ていた。
「クレハ、ティアナをお願い」
「分かった!」
クレハは私が魔動力で操作していると分かっていたのか、すぐにティアナの所に行く。戸惑っているティアナに手を貸すと、ティアナをこちら側に移動させた。すぐにイリスがティアナに駆けつける。
「ティアナ、無事で何よりです」
「怖かった!」
幼いティアナには今回の事は相当怖かっただろう。駆けつけたイリスにしっかりとしがみ付いていた。
こっちは思い通りになった。あとは、あの人たちをどうするか、だ。これでティアナを諦めてくれればいいんだけど……。
魔動力で体を動かして、その場に正座をさせた。冒険者たちは勝手に動く体に驚いて騒ぎ続けている。少し抵抗もされているけれど、弱い抵抗なのでなんとか抗えられる。
改めてその人たちの前に立ち、顔をこちらに向けさせる。
「おじさんたちはもう自由に動けないよ。私の魔法で体の意思を奪ったから」
「なんだとっ……これはお前がやったのか!」
「そうだよ。魔法使いは他にもいることを知らなかったおじさんたちの落ち度だね。言っとくけど、この魔法はおじさんたちには解けないよ」
「くそっ、いい加減にしやがれ! とっとのこの魔法を解け!」
「解いたら、またティアナを攫おうとするでしょ? そんなことはさせない」
「そうだよ、そいつは奪うくらいに価値のある子供だ! 何度だって攫いに行ってやる!」
ダメだ、この人たちを自由にしたらまたティアナを攫いに来る。じゃあ、ここで殺す? ……正直、それは嫌だ。魔物は殺せるけれど、今の私では人間まで殺せない。でも、この人たちは自由にできない。
ティアナが標的になったのは私のせいだ。私が力を隠して言わなかったから、魔法を使う場面を盗み見されて植物魔法が使えると勘違いさせてしまった。それだけ、みんなが躍起になって探していた証拠だ。
だから、このまま私が言わなかったら、他の人が疑われて今回の様に誘拐されるかもしれない。そう思うと、本当にこのままでいいのか悩んでしまう。正直言って、他の誰かが私の代わりに標的にされるのが嫌だ。
だったら、自分が植物魔法を使えると言わなくちゃいけない。そうなると、良くないことが私の身に起こる。それを避けたかったから秘密にしておいたのに、でもこのままだったら他のみんなが間違って誘拐されるかも……。
葛藤が自分の中で起こった。どちらにしても嫌な思いをする。どちらが自分にとって最良か考えるがすぐには決められない。
「どうした、俺たちを殺すのか!? 殺したかったら殺してみろ! 子供にそんな度胸はないと思うがな!」
「どうせ、俺たちを解放するんだろう? 解放されたら、また攫いに行ってやるからな!」
「何度だって来てやる! 植物魔法を使える人間はそれだけ高値で売れるってことだからな!」
自暴自棄になったのか、冒険者たちが野次を飛ばしてきた。その言葉は見逃せないものばかりで、どんな判断をすればいいのか分からない。だけど、フツフツと自分の中で怒りが沸き上がってきた。
正直、このまま解放するのは許せない。ティアナにこんな怖いを思いをさせて、まだ狙ってくるって言っているんだから……身の程を知ったほうがいいよね。
私は冒険者に向けて手をかざした。そして、全力の時空間魔法を発動させる。時間が早く経過するように魔法をかけ続けた。すると、その冒険者たちに変化が現れる。
「お、おい……どうなっているんだ!? 体が小さくなってるぞ!」
「ひぃっ! 手が皺だらけに! どうなっているんだ!?」
「な、なんだその顔は! じじいじゃねぇか!」
全力の時間加速で冒険者たちの時を数十年単位で進ませた。数十年の時が経った冒険者たちはしわくちゃのおじいさんに早変わりした。大柄の体は小さくなり、腰が曲がっている。
「おじいさんになる魔法をかけた。だから、もう二度と戻れない。今回の件は絶対許せないからその罰だよ」
「そ、そんなっ……! も、戻してくれ! こんな体、嫌だ!」
「なんでじじいにならなきゃいけないんだ! 嫌だ、こんなの嫌だ!」
「頼む、戻してくれ! もう二度と村にはいかないから! ゆ、許してくれ!」
「ダメ。戻したらまた攫いに来るかもしれないから。だから、その体で反省して」
よろよろのおじいさんに変わった冒険者たちはまともに歩くことも敵わない。私たちはそんな冒険者を放置して、車に乗り込んで村へと帰っていった。




