248.納品された野菜
私たちは協力して野菜の収穫をした。いつもより小さな畑での収穫、しかも何度も整備をしながらなので手間がかかった。種植え、植物魔法、収穫、畑の整備、そしてまた種植え。その繰り返しをして野菜を収穫していった。
今日は時間との勝負だ。いかに手際よく収穫して、夕方までにどれだけの野菜を収穫できるかが肝だ。注文は沢山来ているから、次々と作っていかないと間に合わない。
それにのんびり作っていたら、いつ私が植物魔法を使える事がバレるか分からないのもある。バレないようにするためには、植物魔法を使っている期間が少ない方がいいはずだ。
私たちは集中して手早く野菜を収穫していった。森の中だから魔物の出現は怖いけど、クレハが警戒してくれるし、冒険者が周りの魔物を掃討してくれているはずだ。みんなを信じて、私は自分の仕事に夢中になった。
そして、辺りが暗くなる頃、ようやく最後の野菜の収穫が終わった。
「今日はこの辺までだね。二人ともお疲れ様」
「お疲れ様です。いつもの野菜収穫よりも疲れましたね」
「ウチは警戒もしていたから、クタクタだぞー」
「クレハ、警戒してくれてありがとう。お陰で安全に野菜の収穫をすることができたよ」
目の前にある沢山の木箱には採れたての野菜がぎっしりと詰まっている。それを見て、達成感を感じると共に疲労も感じていた。いつもよりも疲れているのは、収穫した場所が森の中だからだろう。
「今日は六種類の野菜が採れたね。この調子で明日も六種類の野菜を作ろう。そしたら、一回目の注文分は終わりそうなんだよね」
「一回目……まだ野菜を作らないといけないんですね」
「うん。どうやら、この村と取引している商会に色んな領から注文が殺到しているみたいなんだよね。だから、今までとは比べ物にならないくらいの注文らしい」
「そんなに来てたのか。相手も植物魔法を使えるノアの事を見つけたくて仕方ないんだな」
きっと、派遣された人たちはこの村の状況を貴族に伝えているはずだ。村全体で植物魔法を使える私を隠していてどうしようもならない、と。
そこで考えた貴族は植物魔法でしか生み出せない、季節外の野菜を注文することを思いついた。そうなると、植物魔法を使わずにはいられなくなるので、村で私を見つけやすくなると考えたみたいだ。
でも、その企みも分かった今、森の中で畑を耕して野菜を作っている。派遣された人はみんな農家の畑へと偵察に行っているはずなので、ここに来る人は誰もいない。
「今頃、派遣された人たちは一生懸命に農家の畑を偵察しているんだろうね」
「ですね。まさか、森で作っているとは思いませんよね」
「あいつらの驚いた顔が見て見たいぞ」
「とりあえず今日は、野菜をマジックバッグの中に入れておいて、明日の収穫後に冒険者ギルドに提出するね」
「そうでした。作物所に行くんじゃなくて、冒険者ギルドに行くんでしたよね」
「作物所はあいつらが見張っているからな。近寄るのは危険だな」
派遣された人は畑の監視をしているし、作物が集まる作物所も監視している。その目から逃れるために、冒険者ギルドで作物の受け渡しをするつもりだ。
と言っても、冒険者ギルドへの監視の目はある。だから、マジックバッグに作物を入れたまま冒険者ギルドに預かってもらうつもりだ。そして、作物所で働いている人がそのマジックバッグを受け取りに来てもらう。
そうしたら、作物が外の目に触れることはなく、収穫した作物が作物所の中に入ることになる。派遣された人はきっと驚くだろう。だって、作物を作っている様子がなかったのに、作物所に作物が届くのだから。
「今日はこのまま家に帰ろう。そして、明日また野菜を収穫したら冒険者ギルドに行くよ」
「分かりました。じゃあ、帰り道は私たちに任せてください」
「森の浅い場所だから弱い魔物しか出ないけど、出てきたらウチらでやっつけてやるぞ!」
「疲れているのにありがとう、頼りにしているよ。その代わりに私が美味しい夕食を作るね」
物を片づけ終わったリュックを背負うと、三人で家を目指して森の出口へと向かった。久しぶりに忙しい時間だったから、体は疲れていた。けど、三人一緒にいるとその疲れも嫌とは思わない。
森には私たちの楽し気な会話が響いていた。
◇
翌日、また森の中で冒険者たちと合流して、周囲の魔物の掃討から始まった。それが終わると、ようやく野菜の収穫が始まる。種を撒き、植物魔法を使って野菜を育てて収穫する。収穫が終わると畑を整備して種を撒く。
昨日と同じ作業を続けていくと、収穫された野菜が詰まった木箱が増えていく。その光景を励みにして、どんどん収穫していくと、あっという間に今日の分の野菜の収穫が終わった。
野菜の詰まった木箱をマジックバッグに入れると、冒険者ギルドに向かって歩き出した。森を抜け、村に入り、冒険者ギルドの中へと入る。周囲を確認してみると、ちらほらと冒険者がたむろしているのが見えた。
その中に見覚えのない冒険者の姿がある。きっと派遣された人が冒険者ギルドも監視しているのだろう。私たちは怪しまれないように堂々と受付に行った。
「あら、三人ともお疲れ様。今日は例のアレね」
「うん。例のアレだよ。はい、これ」
受付のお姉さんにリュックを手渡すと、お姉さんはそれを受け取る。
「例のあの人たちが中にいるから、早く帰ったほうがいいわ」
「うん、ありがとう。後はよろしくね」
「任せておきなさい。気を付けて帰るのよ」
やりとりはそれで終了した。私たちは怪しまれないように堂々と歩き、冒険者ギルドを後にする。
「ちょっと緊張しましたね。怪しまれてないといいのですが……」
「怪しい動きなんてしていなかったから、大丈夫だぞ!」
「リュックの受け渡しだけだったから、ちょっと不安だったけど……。誰も追って来ないし、大丈夫そうだね」
冒険者ギルドでリュックの受け渡しは目立つかもしれないと思っていたが、どうやら大丈夫そうだ。もし、ここで派遣された人が追ってきたらどうしようかと思っていた。
「後は作物所の人が取りに来るだけですね」
「そうだね。明日は作物が納品されたと分かるように、目立つ動きをするらしいよ」
「きっと、派遣された人たちは驚くと思うぞ。だって、作物が納品されたところを見てないんだからな!」
「急に作物所に作物が現れたら驚きますね」
「そうだ! 明日、作物所を覗きにいかないか? 驚く姿を見てみたいんだぞ!」
「いいね。ちょっと見に行こうか」
私たちをこんなに困らせている人の驚いている姿……見てみたい。クレハの提案に乗ると、私たちはその時を想像して笑い合った。早く、明日にならないかな?
◇
翌日、いつものように宿屋で食事を取っている時だった。食堂に慌てて人が入ってきた。
「おい! 作物所に作物が納品されたみたいだぞ!」
その人は派遣された人で、とても慌てている様子だった。きっと、昨日冒険者ギルドに預かってもらった作物が作物所に届き、今仕分けをしているのだろう。それを、監視している人が見かけたらしい。
「なんだって!? 昨日はどこの畑も作物を育てている様子はなかったぞ!」
「じゃあ、どこで作ったっていうんだ!」
「作物所に行こう! この目で確かめてやる!」
派遣された人は大慌てで食堂を出ていった。その様子を見ていた冒険者たちやミレお姉さん、私たちはほくそ笑んだ。
「あんなに慌てて……くっくっくっ、朝から元気な事で」
「行ってもどうにもならないと思うんだけどなー」
「そうよねー。行ったところで、何もできないと思うわ」
みんな、派遣された人たちの姿を見て愉快そうにしていた。今までしつこいくらいに話しかけて迷惑していたから、胸がスッとした感じだろう。
「じゃあ、見に行くか!」
「そうですね」
「行こうか」
私たちは急いで朝食を食べると、作物所へと急いだ。
走って行くと、作物所の前には派遣された人たちでごった返していた。みんな、作物所の隣に詰まれた野菜が入った箱を見て頭を抱えている。
「どうして!? こんなに野菜があるのに、どの畑も作っていなかったんだ!」
「そんな、見てないぞ!? こんなに野菜があるなら、大々的に育てるはずなのに!」
「嘘だろ……こんな大量の野菜を育ててたなんて。一体どこで育ててたんだ!」
みんな、大量の野菜を前に困惑した様子だった。自分たちが見逃すはずがない、その思いが強かったのか現実を受け入れるのに時間がかかっているみたいだ。
そんな人たちを見ていたコルクさんが声をかけた。
「これで分かっただろう? お前たちには植物魔法を使った人は見つけられん。諦めて、帰ったほうがいいぞ」
「どうしてだ、どうして野菜がこんなにもできているんだ!」
「まさか、何もないところから野菜を出したんじゃないだろうな!?」
「くそっ、訳が分からない! 植物魔法を使う人はどこにいるんだ!」
作物所の前では悲痛な声が木霊した。その光景を見ていた私たちは笑って、手を叩き合う。上手いこと騙して、野菜を納品できた。その喜びでいっぱいだ。
しかし、そのせいでとある事件が起こってしまうことを、今の私たちは知らない。




