242.子供たちの芸
遊具を作った場所に行くと、すでに子供たちが集まっていた。私たちは急いで駆け付けて、声をかける。
「よお! みんな、お待たせ!」
「みなさん、速いですね」
「お待たせー」
「遅いぞー!」
「じゃあ、遊ぼうか!」
「今日は何しようかー」
先に来ていた子供たちと合流すると、早速どんな遊びをするか話し合いが始まった。遊具を作ってからは遊具で遊ぶことが多くなったが、それでも他の遊びがしたい子も出てくるため相談は必須だった。
子供たちが相談しているのを見ていると、いつも一緒に魔法の練習をしていたタリアとルイが手を上げた。
「はいはい! 魔法を練習したいチームが欲しい!」
「うん、魔法使いたい人は集まる感じ!」
「よし。じゃあ、魔法を使いたい奴らは二人と一緒な」
魔法……ということは私も一緒にいたほうがいいかな? 二人の近くに寄ると、おずおずと言った感じでティアナも一緒に集まった。そして、いつもの四人組が結成された。
「今日は付き合ってもらうわよ」
「もしかして、遊具で遊びたかった?」
「ううん、大丈夫」
「私も大丈夫だよ」
「そう、良かったわ。じゃあ、あっちに行きましょう」
タリアの先導で私たちは草の生えた場所へと移動して、その場に座った。
「しばらく遊具で遊んでたから、魔法の遊びは久しぶりだね。久しぶりにやりたくなったの?」
「うん、そうなんだ。しばらくは、ガンガン練習していくからよろしく!」
「私も同じよ。ちょっと怠けていたけれど、これからは頑張るわ!」
「……私も今までより頑張りたい」
「へー、そうなんだ。どんな心境の変化?」
いつもは遊びの延長で魔法を使っていたのに、突然こんなにやる気を出して驚いた。何か、魔法を早く覚えなきゃいけない何かがあるんだろうか?
「ほら、収穫祭があるじゃない。そこで一芸を披露する催しがあるでしょ? そこに参加したいのよ」
「僕もそう。そこで鍛えた魔法を見せつけて、村のみんなに驚いてもらいたいんだ!」
「わ、私も……。魔動力をちゃんと使えるようになって、みんなに見て貰いたい」
「あー、なるほどね。みんなその催しに出たいんだ」
「そりゃあね! だって、この村ができて初めての楽しい催しだもの! 参加したいに決まってるじゃない!」
「そこで注目されて、チヤホヤされたいよねー。拍手も沢山もらいたいな」
「見られるの恥ずかしいけど、みんなに私の魔法を見て貰いたくて。……だから、頑張りたい。」
秋の終わりにある収穫祭はこの村初めての催しものだ。大人も子供も凄く楽しみにしているのが分かる。見る楽しみもあるんだけど、やる楽しみの方が良いみたいだ。
「なるほどねー。それで魔法を早く鍛えたいんだ」
「小麦の収穫が控えているから、これから忙しくなるのよ。だから、時間がある時に練習するつもり」
「だね。小麦の収穫の時は忙しいからね。こんな集まりがなきゃ、練習できない」
「私も小麦の収穫のお手伝いすることになってるの。時間があんまりないけど、少しずつでも上手くなりたいな」
「あー、小麦の収穫もあったね。収穫が始まっちゃえば、しばらくは遊べなくなるしね。じゃあ、頑張って魔法を発動できるようになろうか」
三人ともとてもやる気のある目をしている。これは教えがいがありそうだ。この村に魔法をちゃんと使える子が増えるのは嬉しい。私の教えた魔法で村が少しでも発展してくれれば、この村のためになるよね
「よし、しばらくは魔法の練習を頑張ろうか。とりあえずは催しに向けて、派手な魔法の習得かなー?」
「確かにそうだね。僕とタリアは土を耕す土魔法ぐらいしか唱えられないから。ここは、みんなに見て貰うためにも派手な魔法を使いたい!」
「でも、どんな魔法があるか分からないのよね。ねぇ、ノア。何かいい魔法はない?」
「わ、私は魔動力を使うね」
「……そうだ! 魔動力を僕たちも使えないかな?」
「そうね、魔動力も結構派手な力よね?」
「確かに使ったらアッと驚く魔法だけど……」
魔法使いの称号があるティアナでも魔動力の発動には時間がかかった。何も称号がない、素質がない二人に魔動力が使えるようになるんだろうか?
「結構難しい魔法だから、収穫祭に間に合うか分からないよ? それでも挑戦する?」
「もちろんよ!」
「僕も!」
「他にも派手な魔法があると思うけど、そっちの方が簡単だと思うけど……」
「いいえ、魔動力でやるわ! 物を動かすのって凄い魔法だと思うから、きっとみんな驚くと思うの!」
「それに宙に浮けたし、絶対にウケる魔法だから頑張りたい!」
二人の気持ちは固いか。だったら、私が何かというのは野暮ってもんだよね。
「分かった。魔動力を練習しよう。ここにいる三人がちゃんと魔動力を使えるように、私も頑張って教えるよ」
「やった! ありがとう、ノア!」
「僕からもありがとう!」
「お姉ちゃん、カッコいい」
二人に感謝され、ティアナには憧れの眼差しを向けられた。
「催し物も三人一緒で何かしたらいいんじゃないかな? 魔動力を使った劇とか面白そう」
「それ、いい! ぬいぐるみさんを使って、物語みたいにぬいぐるみさんを動かすの!」
「へー、面白そうだね。やってみようか!」
「なんだか、難易度が上がったような気がするけれど……やってみせるわ!」
ティアナが劇に食いついてきた。そういえば、ティアナは物語の話が好きなんだっけ。なら、この案はティアナにピッタリな催しになるだろう。
二人も前向きに考えてくれているみたいで、三人で魔動力を使った劇をすることが決まったみたいだ。ぬいぐるみを動かす程度の魔動力ならなんとかなりそうかな?
強い力が必要な時は魔力の消費が激しくなって、操作も難しくなる。だけど、ぬいぐるみだったら軽いから扱いが簡単そうだ。重たいと魔動力の強さが必要だから、それが必要ない分は覚えやすいかも。
「じゃあ、ぬいぐるみも用意しないとね。ちなみにどんな物語にする?」
「はい! はい! 魔法使いの弟子は猫の物語がいい!」
すると、元気よくティアナが手を上げた。魔法使いの弟子は猫……猫が弟子になるの? なんか、面白そう。
「それはどんな物語なの?」
「魔法使いは弟子を取らないと、国から追放されちゃうの。でも、魔法使いは人間嫌いで、だから猫を弟子にしたの。周りの人はその魔法使いを笑ったけど、魔法使いは真面目で、猫を弟子として強くしたの。でも、国は思っていた弟子とは違ったから怒って魔法使いの魔法を使えなくして牢屋に閉じ込めたの。でも、弟子の猫が助けに来たの。とっても強くなった猫に敵う人はいなかったの。魔法使いは魔法を使えなくなったけど、弟子の猫が代わりに魔法を使って、一人と一匹は仲良く暮していくっていう話だよ」
「へー、それはティアナのお母さんが作った話?」
「んー、分かんない! お母さん、色んな話を知っているから!」
ティアナが好きそうな話だね。猫が魔法を使うってかなり可愛いかも。それに猫が魔法を使うってファンタジーでちょっとワクワクするしね。
「二人はこの物語でどう?」
「いいわよ。初めて聞く物語だから興味が沸いちゃった。一度、この物語を直接聞いてみたいわ」
「僕もいいよ。魔法に関する話だから、僕たちの劇にピッタリだと思うんだ。でも、魔法を使う猫って凄いね」
「うん、凄いんだよ! 猫さんが色んな魔法を使うの! 猫さんなのに、凄いよね!」
二人ともこの物語でいいようだ。ティアナはこの物語が好きなのか、テンション高めにお話をしてくれる。そんなに好きな物語なんだから、私もなんか協力したいなー。
「そうだ。劇をしている最中に猫が使う魔法を私が使ってみようか? そしたら、ぬいぐるみが魔法を使っているように見えるから楽しくなると思うんだよね」
「お姉ちゃん、それいい! やって、やって!」
「実際の魔法を使ってくれるのね、それはいいわ! 劇が派手になるわ!」
「うん、ノアにやってもらいたい! 実際の魔法が出てきたら、見る人は驚くだろうなー」
「わーい! 魔法が出てくるの、夢みたい!」
ティアナは凄く喜んでいるし、二人も賛成してくれた。よし、三人に協力していい劇を作ろう。
「いい劇になりそうだね。それまでにやることはいっぱいある。まずは魔動力の練習だよ」
「私はちょっと使えるようになっているから、お姉ちゃんとお兄ちゃん頑張って」
「まかせて! 絶対にものしてやるわ!」
「使えるようにしてみせるよ!」
ティアナの応援に二人とも気合が入った。やることが増えたけど、収穫祭までの楽しみが増えたと言える。私は気合を入れて、魔動力を教え始めた。
こうして、楽しい日々が過ぎていく――はずだった。




