237.話し合い(2)
「ほう、クレハから音楽の言葉を聞くとは思わなかったぞ」
男爵様は驚いたように言った。私も正直驚いている、あのクレハが音楽の話題を出すなんて驚きだ。みんながそんなクレハに注目する中、クレハは楽しそうな表情をして話し始める。
「夏に行った村で初めて音楽を聞いたんだ。とっても元気になるし、聞いているとワクワクしたんだ。みんなで音楽を聞いて騒いでいるのがすっごく楽しかったんだ。だから、その音楽があれば祭りはもっと楽しくなるぞ!」
熱い気持ちを語るクレハ。そんなに音楽が気に入ったなんて知らなかった。隣にいるイリスもクレハと同じ顔をしていて、どうやら気持ちは一緒みたいだ。そっか、二人とも初めての音楽に感動したんだね。
「祭りに音楽か……他の町でも祭り中の音楽はかかせなかった。音楽があるとないとじゃ、雰囲気も楽しさも段違いに良くなる。よし、ならば次の祭りは楽器を持ち寄って音楽を流そうか」
「本当か!? 嬉しいぞ!」
クレハの言葉を受けて、男爵様は満足げに頷いた。次の祭りでは音楽が流れる、それを聞いたクレハはとても嬉しそうな顔をして飛び跳ねた。
「他のみんなはどうだ? 音楽をやってみないか?」
「音楽っていうのが、何か分からないわ」
「楽器を使って音を奏でることだよ。色んな音が混じって、とても聞きごたえがあるものなんだ」
「楽器がないから、難しいなぁ」
音楽と聞いた村人は反応はまちまちだ。クレハやイリスのように音楽を知らなかった人もいれば、音楽を知っている人もいる。一部では反応が悪かったり、一部では盛り上がっている。
「そうか、音楽を知らない人もいるんだな。この機会にぜひ音楽に触れてくれ。きっと、楽しくなること間違いないだろう」
「じゃあ、楽器を持ち寄って練習しないとな!」
「楽器か……俺でも買えるかな?」
「どんなものか今から楽しみね」
村人が音楽のことでざわついていると、クレハが肩を叩いてきた。
「なぁ、ノア。ウチも楽器を使ってみたい」
「へ、いきなりどうしたの?」
「実は、私も……」
「イリスも?」
突然のお願いに私は驚いた。音楽を聞きたいだけじゃなくて、自分でも奏でたいと思っていたなんて。それだけ、音楽の事が前の村で好きになったのか。
「楽器かー……よし! 私に任せて、どうにかしてあげる!」
「本当か!? ウチ、線がいっぱいついたあの楽器がいいんだぞ!」
「私は口で吹く楽器がいいです」
「もう、やりたい楽器があるの? そっか、二人もやるんだったら私も挑戦してみようかな」
「それはいいな! 三人で楽器を鳴らそうぜ!」
「すっごく楽しいことが始まる予感がします」
二人が楽器を使うんなら、私も一緒にやらないとね。三人で楽器を鳴らすのか……うん、楽しそうな予感がしてきた。
楽器は創造魔法で出せるかな? 教本とかも出したいけど、できるかな? 一人につき一つの楽器に教本か……多分一日に一個しか出せないから全部揃うのに六日間もかかるな。
うーん、ここは魔力を回復させるポーションを飲んで、一気に出しちゃった方がいいかも。二人ともやる気があるし、早く揃えてあげたいもんね。またエルモさんに魔力回復ポーションを頼まなくちゃ。
「じゃあ、楽器を持っている奴は演奏をするってことで決まりだな。あと、他に案はないか?」
男爵様が村人に聞くが、案は中々出ない。
「だったら、俺の案はどうだろう? 一芸を披露して、みんなで見て楽しむっていうのは。先ほどの演奏もこの中の催しとして実施してはどうだろうか?」
「一芸か……楽しそうだな!」
「やっても楽しめるし、見ても楽しめるのね」
「参加するのは楽しそうだけど、恥ずかしいなぁ」
一芸披露か、祭りの催し物としてはいいかもしれない。私たちは演奏をするつもりだから、この催しに参加して演奏を披露する形になりそうだ。
「子供も参加していいのー?」
「もちろんだ! 大人も子供も一緒になって楽しもう」
「わー、僕なにやろう」
「恥ずかしいけど、参加してみたいわ」
子供たちから声が上がると、男爵様は快く頷いてくれた。それには子供たちは大喜びで、すでに何をやろうか考え始めている。大人も子供も入り混じって楽しめそうだ。
「では、この祭りは収穫祭という形にして、今年の収穫を祝う祭りにしよう。みんなで料理を持ち寄って、演奏を楽しんだり、一芸を見たり、みんなで楽しんでいければと思う」
「演奏があるなら、ダンスもしたほうがいいんじゃないか?」
「ダンスか……みんなはどうだ?」
ここに来て、また新しい余興が生まれた。演奏に合わせてダンスだなんて。みんなの前でダンスをするのは恥ずかしいけれど、みんなと一緒にダンスができれば楽しいかも。
「ダンスって体を動かす奴だろ? そんなのできるかな?」
「町で見たことがあるけれど、華やかだったなぁ」
「ダンスって見たことがないから、どこかで見れないかしら」
ここでも、ダンスを知っている人と知らない人がいるみたいだ。知っている人が知らない人に教えられればいいと思うんだけど……。
「だったら、収穫祭の前に集まってダンスの練習をしないか?」
「それはいいわね! どんなことをすればいいのか分からなかったから、助かるわ」
「じゃあ、それに合わせて演奏も必要になるな!」
それはいいね! これだったら、ダンスを知らない人は本番前に練習できる。そしたら、ダンスをする人が多くなって賑やかになるかも。それに大勢の人が踊れば、恥ずかしさも薄れるしね。
「じゃあ、みんなで話し合ってダンスの練習をする日を決めてくれ。小麦の収穫もあるし、被らないように頼むな」
男爵様がそういうと、村人は賑やかに話し合いを始めた。その話し合いに子供も入り、賑やかさは時間が経つごとに大きくなっていく。
「ダンスか……あの宴で見たようなものか?」
「どんなダンスを踊るかなんだけど、あの踊りとはちょっと違うような」
「ダンスって種類があるんですか? なんか、難しそうです」
「今回、どんなダンスにするかで難しさが違うと思うよ。初心者の人が沢山いそうだから、難しいものにならないと思うんだけど」
「ウチもダンスをしてみたいぞ!」
二人もダンスに興味津々だ。やっぱり、楽しいことは積極的に参加しないとね。
「あ、でも……演奏するならダンスはできないかも?」
「えっ、そうなのか?」
「だったら、他の人が演奏している時にダンスをすればいいんじゃないですか?」
「そうだね、その手があった」
一瞬、演奏するなら踊れないかもと思ったけど、違う人が演奏している時に踊ればいいよね。
「ということは、私たちがやることは……料理を作ること、演奏をすること、ダンスをすることかな?」
「料理はノアだけで作るのか? もし、ウチらで協力できることがあるなら協力するぞ!」
「みんなでやったほうが楽しいですね」
「うん、ありがとう! まだ、何を作るか決まってないけれど、手伝って欲しい時はいうね」
収穫祭、楽しいことになってきた。村が一丸となってお祭りを楽しむなんてことはなかったから、すっごく楽しみ! それまでやることはいっぱいあるし、この秋は忙しくなるかも。
話し合いは賑やかに続けられて、収穫祭までのやることが固まっていく。みんな、とても楽しそうな顔をしていたのがとても印象的だった。去年の暗い顔はほとんどなくなっていた。




