236.話し合い(1)
朝食を食べた私たちは男爵様の邸宅へと向かう。
「どんな話だろうな? 村人がまた増えるとかか?」
「前回の集まりはそうでしたね。でも、この時期に増えるとは思えません」
「小麦の収穫の時期だし、農業する季節でもないしね」
「楽しいことだといいな!」
「例えばどんなことですか?」
「村のみんなで遊ぶとか!」
「えー、小麦の収穫が控えているのにそれはないんじゃないかなー」
向かう途中の話題は話し合いの内容だ。もう少しで小麦の収穫が始まる時期に余計な仕事を増やすことはないと思うんだけど、村のみんなに関わることって一体なんだろう?
それとも、小麦の収穫に関係した何かかな? うーん、色々考えるんだけど、やっぱり分からないなぁ。
そう思いながら進んでいくと、男爵様の邸宅が見えてきた。そこにはすでに他の村人が集まっていて、とても賑やかな様子だ。その中に入って、しばらく時間を潰す。
その間にも村人が続々と集まってきた。こんなに村人が集まったのは春の新しい住人紹介の時以来だ。久しぶりに会う顔を見て、会話も弾んでいた。
すると、そのざわつきが少し変化した。なんだろう? と、視線を向けると、邸宅から男爵様が出てきた。みんなの前に出ると、早速男爵様は話始める。
「みんな、待たせたな。今日は集まってくれて感謝する」
男爵様がみんなを労うと、様々と声が上がった。みんな、呼び出されたことを気にしていない様子で、明るい声が沢山響く。
「早速なんだが、本題に入るとしよう。去年、冬に砂糖を作ったことは覚えているな。その砂糖を春先に売ったのだが、これが大好評でな、全ての砂糖を売り切ることができた。そのお陰で、この村の財政が持ち直した」
あの砂糖、全部売れたんだ。どれだけの売上になったかは分からないけれど、この村のためになったんだな。私たちが来た時は寂れた村だったけど、今では活気のある村に生まれ変わっているし、その手助けができたのなら嬉しいね。
「初めてこの村に余裕ができたんだ。ここまで、みんなよく頑張ってくれたと思う。それに加え、他の農産物も順調に売れ、今年の小麦は例年通りの収穫が見込めるだろう。この村が持ち直したのは、みんなが頑張ってくれたお陰だ、感謝をする」
砂糖だけじゃなくて、他の農産物や小麦も順調だったんだね。来た時は野菜も小麦もなくて大変な思いをしたけれど、持ち直してくれたみたいで本当に良かった。
「この村は少しだけ豊かになった。その豊かさをみんなにも分け与えたい、いや……一緒に分かち合いたいと思う。そこで、どうすればいいか考えた。考えついたのは、祭りを開催してはどうかということだ」
この村で祭りを?
「時期的に収穫と重なって大変だろうが、収穫が終わった後に開催しようと思う。今年の労働を労い、みんなが楽しめるひと時にしたいと思う。どうだろうか、いい案だと思うが」
収穫が終わった後に祭りを開催するんだ。それだったら、無理なく参加できるし楽しめそう。
すると、集まった村人は話し合ってざわついた。
「なぁなぁ、祭りってなんだ?」
「何かの行事のようにも思えますが、どんなものか分かりません」
「あぁ、祭りはねみんなで集まって楽しむ行事だよ。ほら、リムート漁村で宴をしていたじゃない。あんな感じだよ」
「あの宴か! それを村全体でやるのか!」
「イメージがなんとなく掴めました。みんなで色んなものを食べて、騒いでいましたよね」
「もっと、色々なことができるよ。出店があったり、楽しいイベントがあったり、とにかく楽しいことがいっぱいなんだよ」
二人とも祭りのイメージがなかったのか、不思議そうな顔をしていた。だけど、リムート漁村でやった宴を例に出すと分かったように嬉しそうな顔をした。
祭りに縁のない生活をしていたから仕方がないね。でも、そっか……祭りをやるんだ。というか、今までは祭りを開催できないほど追い詰められていたってことだよね。村が立ち直って本当に良かったよ。
「男爵様、祭りはいい案だと思います!」
「とても、楽しそうですね!」
「賛成です!」
「そうか、賛成してくれるか! だったら、この秋の終わりに祭りを開催する!」
男爵様の声で村のみんながワッとなって盛り上がった。秋の終わりに祭りか……楽しみが増えて嬉しいな。二人も喜んでいるみたいだし、お祭りを盛り上げられたらいいな。
「では、どんな祭りにするか話し合いをしよう。まだ時間を貰ってもいいか?」
「もちろんですよ!」
「大丈夫です!」
「そうか、ではどんな祭りにするか各自意見を出して欲しい」
祭りをどうするか具体的な案を出すことになった。みんな真剣に考えて案を考えているみたいだ。祭りに必要なものか……まずはあれかな。
「はい!」
「お、ノアか。なんだ、言ってみろ」
「みんなで食事ができるといいと思います」
「うむ、祭りらしいな。美味しい食事をすると自然と会話も弾むだろう。で、その食事はどうするんだ? 誰かがまとめて作るのか?」
「各家庭で作ってきた料理を持ち寄って、みんなに食べてもらうのはどうでしょう」
「ほう、各家庭の料理か……それは面白いな」
祭りには美味しい食事がなくっちゃ始まらない。だけど、その料理をどうするか……それが問題だ。そこで考えたのは、各家庭で料理を作って持ち寄ることだ。
「みんなで集まって料理をするのも楽しくていいと思いますが、みんなで一緒になって作る場所がありません。専用の場所を作るにしても、お金と時間がかかると思ったので、だったら作る場所がある各家庭で作ってもらった方がいいと思いました」
「そうだな、大勢の人が一緒に料理をするとなればそれなりの炊事場が必要だ。それを作るにもお金と時間がかかる。村が立ち直ったと言っても、今後何が起こるか分からない。節制するべきところは節制すべきだな」
「各家庭にしかない味があると思います。それを食べれる機会がないので、きっと食べたことのない料理が並んでとっても楽しいと思いました」
「うむ、俺もそれは気になるな。たまには違う人が作ったものを食べてみたい、そんな考えはあったからその提案はいい。どうだ、他のみんなはこの案をどう思う?」
男爵様が周りの村人に聞くと、明るい返事が返ってくる。
「それはいい案だわ! たまには自分の作ったもの以外を食べたいと思っていたのよ」
「これは盛り上がりそうな食事会になりそうね。そうだわ、作った料理に名前をつけるのはどうかしら? 美味しい料理を作った人の話を聞きたいわ」
「そうだ! 誰が一番美味しい料理を作ったか投票で決めないか?」
「それはいいわね! 作りがいがあるわ!」
私が案を出すと、女性陣を中心にとても盛り上がっていた。その盛り上がりのお陰か、色んな案が出てくる。気になった料理を作った人を知りたい、一番おいしい料理を決めたい。どれも祭りを盛り上げることに繋がる。
「なるほど、料理を作った人が気になること、誰が一番おいしい料理を作ったか決めること。うむ、祭りらしくていいじゃないか! その案を採用してもいいか?」
「もちろんだ! 美味しい料理が食べられるんだったら、得しかないじゃないか!」
「作った人も食べた人も楽しくなれると思うわ」
「俺は全部の料理を食ってやるぜ!」
祭りが始まる前からこの盛り上がりだ。ますます、当日が楽しみになってくる。
「美味しい料理が山ほどか……すっごく楽しみだぞ!」
「他の人が作った料理も気になりますね……」
「うん、私も同じだよ」
二人もこのイベントには興味津々の様子だ。みんなで楽しく食事をするイベントから、誰が美味しいか決めるイベントに変わった。
「ノアはもちろん参加するんだろ? 負けてられないな!」
「ノアの料理はこの村で一番だと思います!」
「二人とも、ありがとう。私、参加してみるよ!」
この村の人に私が作った料理を食べてもらう絶好の機会だ。大勢の人に食べてもらえる機会はそんなにないから、とっても楽しみだ。
「よしよし、料理対決のイベントは決まったな。他に何か思いついたことはないか?」
騒めく中で男爵様の声が聞こえる。みんな、色々と考えているみたいで中々案は出ていかない。他に何かるかな? 考えていると、突然となりから声が聞こえた。
「はい!」
「おお、クレハか。何かいい案が浮かんだのか?」
「おう! みんで騒ぐんなら、音楽があったほうがいいんだぞ!」
音楽?




