231.お別れの時(1)
楽しい宴が終わると、私たちが帰る日が迫ってきているのに気づいた。あと数日しかいられない、それを伝えると村の人たちは今回のお礼をしたいと言ってきた。
はじめは遠慮したが、村の人たちが引き下がらなかった。そこで私はここでしか採れない海産物を希望した。
マーマンがいなくなった海はとても安全になった。いずれ増えてまた現れるだろうが、それまでは安全に海で過ごせるみたい。これを機に漁師たちは少し遠い漁場まで漁に繰り出した。
その漁場には沢山の魚がいて、海の幸の宝庫になっている。そこで漁師たちは漁をしてきて、桟橋に戻ってきた。
「どうだ! 山ほど魚を獲ってきたぞ!」
「これだけあればお前たちも満足するだろう?」
「もし、足りなかったら言ってくれ。また獲りに行ってやるからな!」
漁師たちはマーマンの討伐のお礼にと漁に出て魚を獲ってきてくれた。船の上には大きな魚ばかりでどれも食べ応えがありそうだ。
「そのすんごいリュックがあれば、これだけの魚を持っていけるんだったな」
「うん、このリュックには沢山の物が入るし新鮮な状態を維持できるんだ。でも、生きている状態で入れれないから、魚を絞めてくれないとダメなの」
「よし、分かった。欲しい魚の分だけ魚を絞めよう」
マジックバックには生きているものが入らない。そのことを伝えると、漁師たちは次々に魚を絞めていった。私は絞めた魚をリュックの中に入れる。
それにしても、数えきれないほどの魚をくれるなんて、なんて太っ腹なんだろう。でも、この機会に魚を手に入れないと今度いつ食べられるか分からない。沢山もらっておいて、食べきれないものは村のみんなにお土産として渡そう。
◇
「よし、みんなで貝を獲るぞ!」
「沢山持って帰ってもらうために頑張るよ」
「じゃあ、競争だ!」
マーマン討伐をした私たちへのお礼はまだ終わらない。魚の次は貝だ、ということになり、今度は大人に混じって子供たちが貝拾いを始めた。
干潟になる場所で専用の道具を使って、砂の中から貝を掘り出す。大勢でやると、貝はあっという間に集まっていく。普段なら食べる分しか獲らないのに、今日はお土産用だということでとにかく沢山掘られていく。
でも、ここで一つ疑問ができた。生きている状態でマジックバッグには入らないから、貝を絞めないとマジックバッグに入らない。でも、あんなに大量の貝をどうやって絞めようか?
そうだ、氷魔法で凍らせておけば大丈夫じゃない? というわけで、砂抜きが終わった貝を氷魔法で凍らせると、しっかりと絞めれたのかマジックバッグに入った。
「そうだ、海の中の貝も取りに行こうよ」
「そうだね、そっちも食べてもらおう!」
「じゃあ、ノアのあの魔法使ってよ。水中でも呼吸ができるようになるヤツ!」
干潟の貝の次は海の底に沈んだ貝を獲ることになった。私は子供たちに水中呼吸の魔法をかけると、みんな慣れたように海に潜っていった。呼吸を気にしなくてもいいから、子供たちは長い時間海の底を漁って貝を沢山とって来た。
網に沢山の貝が詰め込まれている光景を見るのは心が躍る。
「でも、こんなに貰ってもいいの?」
「大丈夫! まだまだ、沢山いたから!」
「それにマーマンがいなくなったから、違うところでも獲れるしね」
「海の幸は食べきれないほどあるから、持っていって!」
どうやら、貝はまだまだあるらしい。それなら、遠慮なく貰っていってもいいよね。貰った貝を氷魔法で氷漬けにして絞めると、マジックバッグに入れた。
◇
あと、この海で欲しい物がある。
「昆布ー? あんなの欲しいの?」
「昆布以外にも美味しい海藻あるよ。そっちも採ってこようか?」
「じゃあ、みんなで海藻集めてくるね」
創造魔法があるからそれで作ればいいけど、現物が手に入るならそっちのルートで手に入れてしまいたい。幸い、エリックお兄ちゃんが使っていた鰹節にした魚を手に入れることができた。鰹出汁とくれば、昆布出汁も手に入れておきたい。
私一人では集めるのに時間が足りないから、子供たちにお願いして採ってきて貰うことになった。子供たちは海藻を採り慣れているのが、遊びに行く感覚で海藻を採りに行った。
水中呼吸の魔法を施して、みんなで海藻採りに専念する。ここの海は豊かなのか、沢山の海藻が生えていた。採っても採ってもなくならないので、気づいた時には網の中がいっぱいになっている。
「じゃーん。こんなに採れたよ!」
「こんなに昆布がいるのー? 山盛りになっちゃったよ」
「他の海藻もいっぱい採ったから、美味しく食べてね!」
子供たちと一緒に採った海藻は本当に山盛りだ、特に昆布の量が半端ない。でも、これくらいないといつ無くなるか分からないので、あればあるだけ安心だ。
これで鰹出汁と昆布出汁が使える! 出汁として使えるようにするための処理はこれからだけど、もう入手したといってもいい。家に帰ってからも出汁料理が作れる……すごく楽しみだ。
◇
こうして、私は帰るためのお土産を沢山手に入れた。これだけの海産物があれば、あっちに戻っても困ることはない。帰ってからも海の幸を堪能できるのは嬉しいな。
「もうやることは終わったのか?」
「うん、終わったよ。必要な物は手に入ったしね」
「だったら、残りは遊びましょう」
この一か月、遊び尽くした海なのに、最後の日も私たちは飽きずに海へと繰り出した。午前中は三人だけで遊び、海を満喫する。昼食を食べた後には手伝いを終えた子供たちが集まってきた。
「おーい、一緒に遊ぼう!」
「今日は何する?」
「ノアがいるのが最後だから、魔法をかけて海の中で遊ぼうぜ!」
一か月も一緒に遊んでいると、ほとんどの子と仲良くなっていた。その中でも、クレハとイリスはとても仲のいい子ができた。
「よぉ、今日が遊ぶの最後になるのか?」
「そうみたいだ。明日には帰んなきゃいけない。ウチもやることがあるから、ずっとはここにいれないしな」
「そっか、なんだかあっという間だったよな。まだまだ遊び足りないから、今日はとことん遊ぶぞ!」
「おう! とことん遊ぼうぜ!」
一番仲良くなったトールを肩を組んで、今日の遊びの相談をする。二人とも女の子なのに男の子っぽいところがあるから、波長があったみたい。会えば自然とくっ付いて、いつも楽しそうに遊んでいた。
仲のいい二人の姿はとても微笑ましい。ふざけ合ったり、小突いたり、競争したりと年齢相応の態度をしているから余計にそう思う。今日が最後だからだと悲しむよりも楽しんでいる様子が気持ちがいい。
クレハはトールと一緒にいると楽しそうな一方、イリスはというと。
「よぉ、とうとう明日帰るんだってな」
「はい、長い間とても楽しかったです。ありがとうございます」
「別に感謝をされる覚えはねぇよ。その……寂しくなるな」
「そうですね。でも、楽しい思い出は沢山できました」
ケイオスは寂しそうにしているが、イリスは明るく振る舞っている。多分だけどケイオスは無意識にイリスに惚れていると思うんだよなー、だから二人がどんな進展をするか楽しみで見ていた。
普通の仲のいい友達同士になっただけだったけど、最初は微妙な関係だったから見ていてハラハラしたな。思ったような進展はしなかったのは、ケイオスがそんなにグイグイいけなかったのが原因かな?
まぁ、この年齢ならこれくらいだよね。それにしてもイリスにねー……村に帰ったらケイオスみたいな子が出てくるかな? うーん、それはそれで……。
「なぁ、何ニヤニヤしてるんだ? 早く海の中に行こうぜ!」
「あぁ、そうだったね。今日は最後だから、海の中を堪能するよ!」
「そうこなくっちゃ! マーマンがいなくなったから、ちょっと遠いところまで行けるよ」
「海の中を冒険しようぜ!」
いけない、ついつい考え事にふけっちゃった。遊ぶのはこれで最後になるんだから、海をしっかりと堪能しておかないとね。
子供たちに腕を引っ張られて、私は最後の海の中に入っていった。




