228.海の魔物討伐(2)
海面に浮かぶ、無数の魚の顔。それらを見ていた大人たちは騒ぎ始めた。すると、マーマンたちは海の中に潜る。
「マーマンたちが潜ったぞ! 気をつけろ、攻撃が来る!」
「箱を使って海の中を確認するんだ!」
「迎撃態勢を取れ!」
船は散らばっていき、大人の人は箱を海につけて海中を確認し始めた。残りの大人たちは武器を手に、マーマンが飛び出してくるのを待つ。
「本当に嬢ちゃんたちに魔物討伐を任せてもいいのか?」
「魔法を使えるのは本当か?」
「ウチは剣で戦えるから、大丈夫だ!」
「私は魔法で戦います」
「私も魔法で戦うよ」
「魔物討伐を任せるのは気が引けるが、頼むぞ」
そう言って、大人は箱を使って海中を確認し始めた。
「ウチらの出番だな。気合入れていくぞ」
「どこから攻撃が仕掛けてくるか分かりませんから、気をつけましょう」
「どんな魔法が有効かな」
その間に私たちは戦闘準備を始める。クレハは剣を抜き、イリスは杖を構え、私は使う魔法のことを考える。水の生物だから、火の魔法が効きそうだ。それとも雷の魔法がいいかな?
海から飛び出してくるから、攻撃を仕掛けるのは一瞬ということになる。だったら、一瞬で攻撃を届かせる必要がある。だったら、火より雷の方が速いかな?
「マーマンが来るぞ! 備えろ!」
その時、箱で水中を確認していた大人が声を上げた。とうとう、マーマンとの戦いが始まる。
「どこからかくるか分かりませんから、私は聖なる壁を張っておきます」
イリスが魔法を発動させると、船が薄い魔力の層で包まれた。これで、どこから飛んできても攻撃を防ぐことができる。あとは、タイミングを見計らって攻撃を仕掛けるだけだ。
静かな海に大人たちの声が木霊する。神経を集中させて、マーマンが飛び上がってくる時を待つ。海面をじっと見つめていると、黒い影が物凄い速さでこっちに向かってきた。
「来る!」
私が声を上げた、次の瞬間! 海面からマーマンが飛び出してきた。高く飛び上がったマーマンはこちらを見ると、銛を突き出してくる。だけど、その銛は聖なる壁によって阻まれた。
今度はこっちが攻撃する番だ。私は雷魔法を発動させようとする。だけど、いつもと勝手が違うからかすぐに魔法が発動できなかった。魔法が発動した頃になると、マーマンは海の中に戻って行ってしまった。
「発動が遅かった!」
「マーマンが思った以上に素早いんだぞ! ウチも剣が振れなかった!」
「聖なる壁を張っておいて正解でしたね。マーマンの攻撃を防ぐことができました」
思ったよりもマーマンの動きが速い。マーマンの姿を捉えてから、魔法を発動してたんじゃ間に合わない。周りはどうやって討伐しているんだろうか? そう思い、周りの船を確認してみた。
すると、近くにいたハインさんとガイルさんが乗った船はすでに一体のマーマンを討伐していた。海面に浮かぶマーマンから煙が上がっているけど、あれってもしかして魔法を使った?
「あぁ、ハインさんか。ハインさんはこの村で唯一魔法が使える人なんだ」
「あっ、そうなんだ! でも、さっきの攻撃で一体を倒しているって凄いなぁ」
「ハインさんもガイルさんも凄い人だぞ。この人たちがいるから、マーマンからの被害が抑えられていると言ってもいい」
二人ってそんなに実力がある人だったんだ。そんな二人が魔物討伐を了承してくれたんだから、私たちだって負けれない。
「よし、二人とも。頑張ってマーマンに攻撃を当てよう!」
「そうこなくっちゃな! まだまだ、これからだぞ!」
「当てれるか不安ですが……頑張ります!」
いつもの魔物討伐とは違う、これは海の魔物討伐だ。気合を入れてやらないと、魔物討伐ができない。三人で気合を入れ直すと、飛び出してくるマーマンに備えた。
◇
「連撃斬!」
飛び上がったクレハは飛び出してきたマーマンに剣を振るった。一振りしただけなのに、それに触れたマーマンの体が八つ裂きにされる。
体中に傷を負ったマーマンはそのまま海の中に落ちて、プカリと浮いてきた。
「よしっ! ようやく一体!」
あれから何度もマーマンからの攻撃はあったが、全然攻撃を当てれずにいた。私とクレハがまぐれ当たりの一体ずつ、イリスがゼロだ。
「攻撃が中々当たりませんね」
「ウチはようやく当たったぞ!」
「これじゃあ、効率が悪すぎるよ」
「場所が不利だからな、普通はそんなもんだから気にするな」
「大体一回の戦闘でニ十体くらい倒せればいいほうだからな」
何体いるか分からない内のニ十体……そんなぐらいしか倒せないのか。ふと、ハインさんとガイルさんを見てみると、五体のマーマンが海の上に浮かんでいた。他の船は一体くらいしか討伐できていない。
海の上での戦闘を舐めていたみたいだ。自分たちに有利じゃない地形っていうだけで、こんなに不利な状況に追い込まれるなんて。経験が浅い証拠だな。
「次も当てるぞー!」
「私も当てます!」
二人が根気よく戦意を喪失していないことが救いだ。私はそんなに戦闘経験があるわけじゃないから、もうめげそうだよ。でも、自分から戦うって言ったんだから、ここで負けてはいられない。
他にいい戦い方はないだろうか? もし、地形の利がこっちにあったら……。あれ? もしかして、あの魔法が役に立つんじゃない? そして、イリスの魔法を使って……。うん、この方法いける!
「二人とも耳を貸して」
私は思いついた作戦を二人に伝えた。それを聞いた二人は明るい表情で頷く。
「その作戦、いいな!」
「やってみましょう!」
二人とも賛成してくれた。早速私たちは作戦を実行した。水上歩行の魔法をかけて、私たちは海面に降り立った。大人たちはそれを見て驚いている様子だけど、今はそんなことを気にしている場合ではない。
船から離れると、イリスの聖なる壁を発動させる。これで、いつマーマンたちが襲い掛かってきても大丈夫だ。仕上げに、聖なる壁の外に水上歩行の魔法を常時発動させた状態にする。
これで準備万端だ。私たちはマーマンが襲い掛かるのを待った。すると、海面に黒い影が近づいてきたのが見える。
「来るぞ!」
クレハは剣を構えて、その時を待った。次の瞬間、海面から三体のマーマンが飛び出してきた。マーマンたちは私たちに向かって銛を突き出したが、それは聖なる壁によって防がれる。
それから、また海中に潜ろうとしたマーマン。しかし、マーマンたちは三体とも海面の上に打ち上げられた。そう、水上歩行の魔法を受けて海中に戻れなくしたのだ。
海面でジタバタともがくマーマンたち。そこに剣を構えたクレハが襲い掛かる。
「おりゃぁっ!」
マーマンを斬りつけると、ジタバタともがいていたマーマンがぐったりと動かなくなった。あっという間に三体のマーマンを討伐することができた。
「やった、作戦の成功だね!」
「こんなに簡単にマーマンが倒せるなんて……やりましたね!」
「海面に打ち上がったマーマンは全然手ごたえがなかったぞ」
よし、この方法は使える! 海面に上がったマーマンは思った通りに身動きが取れないようだった。海中に潜って逃げることもないから、簡単に仕留められる。
「この調子でどんどん討伐していきましょう」
「もっとマーマンを引き付けられないかな? 目立つ行動がいいと思うんだけど……」
「だったら、良い技があるぞ!」
気をよくした私たちはもっとマーマンを引き付ける方法を考えた。すると、クレハが目立つ技があるということでそれをやってもらうことになった。
剣を構えたクレハは集中する。体に力を貯めているみたいに、クレハの体からオーラみたいなものを感じた。
「ショック!」
クレハが海面に向けて剣を振った。次の瞬間、大きな爆発と共に大きな水柱が立つ。こんな凄い技を持っているなんて……流石勇者っていうところだ。
技を放ったクレハは上機嫌にこちらを振り向いた。
「これで目立ったと思うぞ!」
「あ、ありがとう。凄い技だったね」
「これだけ目立つと、忙しくなりそうですね」
イリスは聖なる壁を強固にすると、マーマンに備えた。私も水上歩行の魔法を展開して、マーマンの襲撃に備える。しばらく、静かな海上だったが……下を見ると無数の黒い影が迫ってきているのが見えた。
「沢山来たよ!」
「おう! 任せろ!」
「攻撃は防ぎますね!」
本格的なマーマン狩りが始まった。




