227.海の魔物討伐(1)
リムート漁村に来て、もう三週間が経った。毎日のように海に行っては三人で遊んだり、この村の子供たちと一緒に遊んだり、楽しいひと時を過ごす。
今日も海で子供たちと一緒に遊んでいる時だった。いつもは来ない大人たちが血相を変えて砂浜にやってくる。
「大変だ! マーマンの集団が出たぞ!」
大人たちの声を聞いた子供たちは慌て出した。
「ヤバイ、海に行っている奴らに伝えるんだ!」
「遠くに行っている奴らはいるか?」
「潜りに行っている奴らもいるぞ!」
子供たちは一斉に動き出した。泳ぎに自信がある子供たちは遠くまで潜りに行っている子供たちにこのことを伝えるために海に出た。
唯一、状況が呑み込めていないのは私たちだけ。なので、近くにいた子供に聞いてみることにした。
「ねぇ、何があったの?」
「あ、そっか! ノアたちは分からないよね。マーマンっていう人型の魔物が海に現れたんだ。マーマンは時々、この近くに現れて近くにいる人に襲い掛かるんだ」
「魔物が出るのか!」
「海の魔物ですか」
そっか、ここは海に魔物が現れるんだ。だから、みんな大慌てで海から上がろうとしていたんだ。
「マーマンは集団でやってくるんだ。いつも沢山やってくるから、数を減らすためにハインさんとガイルさんが海に出て討伐しているんだよ」
ハインさんとガイルさんはエリックお兄ちゃんの両親だ。そっか二人とも体格がいいと思ったら、魔物討伐をしていたんだね。
「今回も二人と大人たちが海に出てマーマン討伐をするんだ。だから、その邪魔をしないためにも、俺たちは海から上がることになる」
「そうなんだね、教えてくれてありがとう」
この漁村ではマーマンが出て、漁の邪魔をしているみたいだ。そのマーマンの数を減らすために、漁村の大人たちが協力して討伐に乗り出しているということか。
「なぁ、ノア。ウチらも魔物退治の手伝いができないか?」
「私たちが魔物討伐の手伝い?」
「そうですね。魔物討伐なら私たちでもできます。お世話になったこの村のために何かしてあげたいです」
「うーん……」
確かに、魔物討伐をしていた二人だったら、マーマンと戦えるかもしれない。だけど、ここはいつもの村ではなく違う村だ。魔物討伐をしていた二人の実力のことを知らないこの村の人達が了承するとは思えない。
「とりあえず、話をしに行ってみようか」
「そうこなくっちゃ!」
「行きましょう!」
難しいと思うが、話すだけ話してみよう。私の言葉に二人はやる気に溢れている。
◇
着替えをして、二人の装備を整えると大人たちが集まっている場所を探した。そしたら、船が繋がれている桟橋に大人たちの姿があるのを見つける。
その場所に行くと、大人たちから外れたところにエリックお兄ちゃんの姿を見つけた。その傍にはハインさんとガイルさんもいた。
「エリックお兄ちゃん!」
「あぁ、ノアたちか。海から上がってくれたか、安心したよ。これからおふくろや親父たちが海に出てマーマン退治をするんだ」
ハインさんとガイルさんは冒険者みたいな恰好をして、腰には立派な剣を携えている。
「こう見えてもおふくろと親父は元冒険者だったんだ。だから、魔物討伐の経験もあるから安心してくれ」
「まぁ、そういうことだ。マーマンがこの辺にいる時は海では遊べなくなるから、討伐が終わるまで我慢してくれ」
ハインさんが苦笑いをして言った。隣にいるガイルさんは無言で頷く。
「実はちょっとお願いがあるの」
「どういうことだ?」
「ウチらも一緒に魔物討伐に行かせてもらいたいんだ」
「私たち、村では魔物討伐をしていたんです」
私たちが魔物討伐に参加したいというと、エリックお兄ちゃんたちは驚いた顔をした。
「えっと、ノアたちが魔物討伐を?」
「厳密にいうと、クレハとイリスは魔物討伐を仕事にしているの。私は時々参加するくらいだけど、二人は一年以上も魔物討伐をしてきたんだよ」
「確か、そんな話を聞いた覚えが……って、この魔物討伐に参加したいのか?」
「魔物討伐ならウチらにも手伝わせてくれ!」
「私たちでも何かの役に立てると思います」
強く訴えると、ハインさんが前に出てきた。
「でも、こんな子供が海の戦いに出ていくのは危険だよ。陸と海では戦い方が違う、思った通りの実力を出せないかもしれない」
「戦いで危ないのはみんな同じだと思う。他の大人の人は冒険者って感じがしないし、しっかりと戦えないんじゃない? だけど、私たちには魔物討伐の経験がある」
「まぁ……他の大人たちはただの漁師だから、魔物討伐には慣れていないが……」
「だったら、子供だからってのけ者にしないで。私たちにはちゃんと戦える力があるから、それを役立てて欲しいだけなの」
必死に訴えると、ハインさんは難しい顔をした。すると、無言でいたガイルさんがハインさんに耳打ちをする。さらに、ハインさんの表情が険しくなり、しばらく無言で考え込んでいた。
「実力が見たいなら、今から見せても大丈夫だぞ! ウチは剣で戦うから、色んな剣技を見せればいいか?」
「私は聖魔法を使えます。攻撃、防御、支援……色んな場面で役立つ魔法が扱えます」
「私は色んな属性の魔法が使えるよ。威力だって結構強いんだから」
自分たちがどんな風に役立つか強く訴えた。益々、難しい顔になるハインさん。そこにまたガイルさんが耳打ちをする。一体何を話しているんだろう? ドキドキしながら待っていると、とうとうハインさんが目を開けた。
「分かった、お前たちを信じて船に乗せよう。だけど、危険だから私たちの乗る船の近くにいるように」
「ありがとう!」
「やったぜ!」
「ありがとうございます!」
やった、船に乗せてもらえることになった。私たちは手を叩き合って喜びを分かち合った。すると、ハインさんがみんなに向けて声を上げる。
「海に出るぞ! マーマン討伐の開始だ!」
ハインさんが声を上げると、他の大人たちも声を上げた。とうとう、出航の時間だ。
みんなが桟橋に集合して、次々に船に乗り込んでいく。船は小さな船で五メートルくらいの大きさだ。その船に乗り込むと、大人の人も一緒に乗り込み、オールを動かして船は進んでいった。
船の集団は沖に向かって進んでいく。
「マーマンとどう戦えばいいんだ?」
「海の中にいるって言ってましたから、海の中で戦うでしょうか?」
船で待機している私たちはマーマンとの戦いについて考える。すると、オールを動かしていた大人の人が答えてくれた。
「大きさは二メートルくらいかな? 魚人と言われて、人と魚を混ぜ合わせたような姿をしているんだ」
「海の中で戦うとマーマンの思い通りだから、海の中では決して戦わない。船の上で戦うんだ」
「船の上で?」
「マーマンが人間を攻撃するために、海面に飛び出してくるんだ。そのところを攻撃する感じだな」
なるほど、イメージができた。二メートルぐらいの魚人で、手には銛を持っている。海の中は得意だから、海の中では戦わない。戦うなら船の上で戦って、飛び出してくるのを待つ感じか。
「海から飛び出してくるところを攻撃するのか……タイミングが難しそうだぞ」
「魔法が当たるか不安です……」
「その辺りは指示するから大丈夫だ。この水中が見れる箱を使って、俺たちが水中を確認する。マーマンたちが襲い掛かる時になったら合図をするから、それに合わせて攻撃してくれればいい」
「なるほど、それだったらタイミングを合わせやすいね」
海から飛び出したところを丁度良く攻撃を当てるのは難しそう。だけど、事前にそのタイミングが分かっていたら、攻撃を当てれるチャンスが高まる。
「いたぞ、マーマンだ!」
近くにいた船から声がした。その人たちが指を差した方向に、海面に何かが顔を出していた。良く見るとそれは魚の形をしている、あれがマーマンか。
「じゃあ、二人とも。マーマン討伐を頑張ろう」
「ウチに任せろ!」
「はい!」
マーマン討伐を前に私たちは気合を入れ直した。




