224.度胸試し(1)
ある日、いつものように海で遊んでいると子供たちから村での催しに誘われた。
「度胸試し?」
「うん、今日の夜にみんなで集まってやるんだけど、ノアたちも来ない?」
「暗い森の中を歩いて、目的地に行くっていうやつなんだ」
「毎年やっているんだぜ!」
「へー、そんなことをやっているんだ」
こっちの世界にも肝試しみたいなものがあるんだ。夏ならではのイベントだよねー。
「なんだ、なんだ? なんの話をしてるんだ?」
「ノアたちも度胸試しに参加しないかって誘ったんだよ」
「度胸試しですか?」
子供たちと話していたら、クレハとイリスが近寄ってきた。だから、度胸試しのことを教える。すると、クレハは目を輝かせて、イリスは深刻そうな顔になった。
「面白そうだな! 暗い森を歩くだけだろ? そんなの簡単だぞ!」
「暗い道……ちょっと怖いですね」
「夜出歩くことはあまりないから、このイベントは新鮮だよね」
「なぁ、ノア! 参加するんだろ?」
「私は怖いのはちょっと……」
「大丈夫だよ。怖いって言っても、道が暗いだけでしょ?」
怯えるイリスを励ましていると、子供たちは私の言葉に首を振る。
「ううん。大人の人が森に潜んで脅かしてくるんだ」
「毎年、色んな驚かし方をしてくるから、ちょっと怖いんだよね」
「しょんべんちびる奴もいるな!」
あっ、そんなこともするんだ。ただ歩くんじゃなくて、脅かしてくるんなら怖いよね。その話を聞いたイリスは怖がって身を縮めている。そこにケイオスが近づいてきた。
「怖いのか?」
「はい……そういうのは苦手なんです」
「そうか……」
なんとか元気づけたいけど、言葉が出ない感じだ。でも、ケイオスの顔が真剣になってきた。これは、言葉が出るか?
「だ、大丈夫だっ……お、俺がついていってやるから」
「ケイオスが……ですか?」
「そ、そのっ……一緒にいたら、怖くないだろう?」
ケイオスの提案にイリスは少し驚いた顔をした。だけど、すぐに嬉しそうに笑う。
「そうですね。一緒にいれば怖くないです」
「そ、そうだよな!」
「ノアもクレハも傍にいてくれますしね」
「そ、そうだよな……」
そこで私たちの名前が出るかー! ちょっといい雰囲気だなって思ったけれど、一瞬で終わってしまった。頑張れ、ケイオス。
「なー、クレハ! 本当に怖くないのかー?」
「全然怖くないぞ。そういうトールはどうなんだ? 怖いんじゃないのかー?」
「私も全然怖くない! 毎回余裕で目的地に着くんだからな!」
こっちの二人は肩を組んでお互いを小突いている。本当に二人が平気なのか、それとも意地を張っているだけなのか……。どっちにしろ、反応が楽しみだ。
「ノアは怖くないんですか?」
「私? 私は全然怖くないよ。一人で歩いたって大丈夫なくらいだよ」
「ひ、一人でか?」
「お、なんだクレハ。一人で歩くの怖いのか?」
「ウチは全然平気だ! そういうトールだって、一人じゃ歩けないだろう?」
ただの度胸試しでしょ? そんなの全然怖くないし、事前に脅かしてくるって分かっているから気が楽だよ。まぁ、私は周りの驚く様子を見て楽しませてもらおうかな。
◇
夕方、私たちは夜に備えて早めの夕食を取っていた。
「へー、今夜度胸試しやるのか。俺の時もやったなー」
「ウチは全然平気なんだぞ!」
「私は怖いですね」
「私も全然平気」
「勇ましいのがいるな。じゃあ、こんな話があるんだが……」
エリックお兄ちゃんに度胸試しの話をすると、違う話が返ってきた。
「昔、この村を目指していた商会がいたんだ。今回、大きな取引ができるとあって、期待を胸に目指していた。でも、村までもう少しっというところで魔物に襲われてしまったらしい」
「そんなことが……」
「その商会にいた人たちは魔物によって殺されてしまった。大きな取引目前にしての死だったから、この世に未練が残ってしまったみたいで、殺された場所に幽霊として出るんだとよ。森の中にな」
「ゆ、幽霊なんていないんだぞっ!」
「生きている人を妬んでいるみたいで、死後の世界に誘いこむために狙っているみたいだぞ。なんでも、子供を使って誘いこむみたいで、その子供に掴まれるとずるずると引きずられて……」
エリックお兄ちゃんが真剣に話すと、イリスとクレハが震えあがった。よくあるよね、肝試し前に怖い話をすることって。今回は度胸試しを盛り上げるために作り話をしているだけだ。
「ウ、ウチは全然平気だぞっ!」
「そんなのがいるなんて、怖いです……」
「そうだろ、そうだろ。って、ノアは怖がってないな」
「それくらいだったら平気だよ」
考えていることがお見通しだから怖くなんてない。ここは子供らしく怖がっているところを見せればいいんだけど、そんな演技はできないしね。
「どれ、面白そうだし俺も一緒に行ってやるか」
「エリックお兄ちゃんが来てくれるのは心強いです」
「そうか、エリック兄ちゃんが来てくれるのか……」
「おう。お前たちの怖がる姿を見にな」
「もう!」
「ひ、酷いんだぞ!」
「はっはっはっ!」
意地悪な笑顔を浮かべていうエリックお兄ちゃんに、クレハとイリスが怖がってその体を叩いた。まぁ、冗談なんだろうけどね。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
私が席を立つと、他の二人も席を立つ。こうして私たちはエリックお兄ちゃんに連れられて、夕日が落ちた外に出た。
◇
日の落ちた外は薄暗い。灯りの役目を持つ月には薄っすらと雲がかかっていて、月の灯りだけでは外は歩けない。光魔法で光を出して歩いていくと、賑やかな声が聞こえてきた。
そこにはいくつもの火でできた灯りがあり、人が集まっていた。そこに近づいていくと、すでに集まっていた子供たちがこっちに気が付く。
「おーい! こっちだよ」
呼びかけに応じるように手を振ってみる。その場には子供が二十数人と大人が数えるほどしかいない。大人が思ったよりも少ないのは、森の中に潜んでいるからかな?
「そろそろ、始まるみたいだよ」
「ドキドキするね」
「怖いなー」
子供たちの反応は様々だ。楽しみにしている子供、怖がっている子供、から元気そうに見える子供。色んな反応は見えるが、このイベントを楽しんでいるみたいだ。
「よぉ、クレハ! 逃げずに来たな」
「そういう、トールだって! 怖くなって、逃げるなよー」
「逃げないよ。もし、クレハが怖くて気絶したら運んでやるからな」
待っていると、クレハにトールが近づいてきた。二人はお互いを小突き合って、様子を窺っているみたいだ。さっき、ちょっと怖がっていたクレハを思い出すと、これは強がっているように見えるな。
「イリス、来たな。その……平気か?」
「怖いですが、ケイオスが来たんで大丈夫になりました」
「そ、そうか」
「それに他のみんなもいるので、心強いです」
「そ、そうだよな」
こっちはなんだか可哀そうなことになってる。ケイオスは頼りになる男の子を演じたかったみたいだけど、イリスはケイオスだけ見ているわけじゃないみたい。
「……怖いだろうから、傍にいてやるからな」
「はい、ありがとうございます」
「俺に任せておけ!」
おっ、グイグイ行くなー。カッコいいところを見せる場面になりそうだし、気合も入るか。
「じゃあ、三組に別れていくぞー」
すると、大人の人が子供たちを分け始めた。一組、七人から八人くらいになりそうか。そんなに大所帯なら全然怖くないね。
子供たちは一緒に行きたい子と組むと、あっという間に子供たちは三組に別れる。そして、度胸試しは賑やかな状態で始まった。




