222.水上スキー
今日も海にやってきた。午前中は子供たちは家のお手伝いをしているため、ここには来られない。だから、午前中はいつも三人で遊んでいる。
「今日は何するんだ?」
「まだ行っていない海の中に行きましょうか?」
「今日はね、前から考えていたことをやろうと思うよ」
「おっ、ノアが考えたやつか! これは楽しみになってきたぞ」
「今回はどんなことでしょう」
海での遊びは色々ある。前世でどんな遊びがあったか思い出して、これはっというものを厳選してきた。
リュックの中から空飛ぶ車を出し、細々とした道具を取り出した。
「車を使うのか?」
「ということは、空を飛ぶんですか?」
取り出したものを見て不思議そうにする二人。あんまり想像がつかないらしい。それもそうだ、前世にあった遊びなんだから。
「この車に紐を括り付けて、それを掴んでもらうの。その状態で車を飛ばすと、水上を滑れるんだよ」
「なんか、凄いスピードが出そうだな!」
「うーん、ちょっと怖いかもしれませんね」
結構なスピードが出るから、ちょっと怖いかもしれない。いや、そこまでスピードを出さなくてもできるからはじめは緩めにやるのがいいかな?
車の後ろに取っ手付きの紐を括り付ける。次に自分の足にスキー板を装着させる。準備はこれで大丈夫。
「じゃあ、お手本見せるから見ててね」
車を浮かせると、海の上に移動させる。その時に取っ手を掴んで、私も一緒に海の上に移動した。車は海面ギリギリのところに浮かび、私はスキー板の先を海面に出して準備をする。
「行くよー!」
車を動かすと、紐が引っ張られて水面を進んでいく。スキー板で水面を押し進んでいき、ある程度のスピードが出ると水面に立ち上がった。
車を真っすぐに飛ばすと、スキー板は水面を綺麗に走った。水しぶきを上げながら進んでいくと、今度は車を傾けて大きく旋回する。遠心力で体が持っていかれそうになるのを踏ん張ると、水しぶきを上げながらスキー板が水面を走る。
綺麗に旋回して、また真っすぐに進む。その時、スキー板を少しだけ傾ける。すると、左右にスキー板がぶれて、蛇行していった。
気持ちいい、楽しい! 水しぶきを上げて、水面を走って行くのがこんなに気持ちいいなんて。調子に乗って、スキー板を傾けて蛇行して進む。
また車を大きく旋回させると、遠心力の力が合わさって大きな水しぶきがあがった。その水しぶきの中に小さな虹が見えて、とても綺麗。
時間を忘れて滑るということはこういうことか。見本のつもりで水上を走っているのだが、楽しすぎて止め時を見失いそうだ。
もう少し、もう少し。そう思いながら、車を飛ばして水面を走って行った。でも、そろそろ戻らなきゃ。私は車を砂浜に向けて飛ばしていった。
徐々にスピードを落として、無事に砂浜に到着。すると、二人が駆け寄ってくる。
「すんごい、水しぶきが上がっていたな! とっても面白そうだったんだぞ!」
「水しぶき、綺麗でしたね。難しそうですが、やってみたくなりました」
「とっても楽しくて、気持ち良かったよ。はじめはクレハがやる?」
「おう!」
私はスキー板を外すと、それをクレハに装着させた。その時にやり方と注意点を教える。
「私は車の中に入っているけど、イリスも中で見てみる?」
「はい、そうします。遠くから見るよりは、近くで見たほうが楽しそうですし」
「ウチはいつでもできるぞー!」
「よし、じゃあ行こうか」
私は運転席、イリスは後部座席に乗り込むと車を動かした。まずはゆっくりと移動して、クレハを海面に浮かばせる。窓を全開にして顔を出すと、車の後ろで浮かんでいるクレハに声をかける。
「動かすよー」
「おう!」
声をかけると、車を進ませた。はじめはゆっくり動かして、クレハが立ち上がるのを待つ。徐々にスピードを上げると、その勢いに乗ってクレハが水面に立ち上がった。
「スピード上げていいぞー!」
水面を軽く走っていくクレハはスピードアップを望んだ。だったら、少しずつスピードを上げていこう。車の飛ぶスピードを上げると、水しぶきが上がり出した。
「わぁ、水しぶきが上がると綺麗ですね。あ、虹が見えました!」
後部座席でクレハの様子を間近で見ているイリスは楽しそうだ。
「クレハー、そろそろ曲がるから、気を付けてねー!」
「おう!」
窓から顔を出して伝えると、軽快な返答が届いた。車を大きく旋回させると、クレハの体に遠心力がかかる。クレハは体が飛ばされないように踏ん張ると、水しぶきの高さが上がった。
「やっほーーー!!」
テンションが上がったクレハが声を上げながら、水面を滑る。強い遠心力がかかっても、クレハは全く動じない。それどころか、全然平気だとアピールするように片手で取っ手を掴んでスリルを楽しんでもいる。
大きな旋回が終わり、水しぶきも落ち着いた。
「なぁ! ノアは水面で動いていたよな! どうやるんだ!?」
「板を左右に傾ければできるよ! 気を付けてね!」
「おう!」
真っすぐに車が飛ぶと、クレハが板を傾けて大きく左に逸れた。
「おぉっ!?」
すると、今度は大きく右に逸れた。
「こうなるのか! 面白いな!」
それだけでコツを掴んだのか、クレハは左右にスキー板を傾けて、水面を自由に入っていく。
「なんだか見ていてハラハラしますね。クレハはすぐに調子に乗りますから心配です」
「クレハの運動能力だったら大丈夫だと思うよ。ほら、もう安定して遊んでいるし」
水面を左右に動いて、自由に滑っている。大きく左に行ったと思ったら、ジャンプをしてぐるりと一回転してみせた。
「あーもう! あんなことをして!」
「凄いね、あんなことまでできるんだ」
「ノアは呑気すぎます!」
「まぁまぁ」
自由に水上を滑るクレハが心配らしいイリスは一人で百面相をしている。そんなイリスの心配をよそに、クレハは好き勝手に滑っていく。
何週かして十分に車を飛ばした後、砂浜に戻ってきた。私たちは車を降りて、クレハの様子を見に行く。
「クレハ、どうだった?」
「スリルがあって、凄く楽しかったぞ!」
「クレハを見ている私はとっても心配したんですからね!」
「イリスは心配しすぎなんだぞ。失敗しても、海の中に落ちるだけだから痛くもかゆくもないぞ」
とても楽しそうにしているクレハとは対照的にイリスはちょっと怒っているみたいだ。そんなイリスの怒りも全然クレハには通じていない。それだけ楽しかったみたいだ。
「じゃあ、次はイリスだけど……やる?」
「もちろん、やります。二人だけ楽しい思いをするのはずるいと思います」
「イリスにできるのかー?」
「私だって魔物討伐をしているんですから、身体能力には自信があります」
クレハが茶化すと、イリスが熱を上げる。クレハからスキー板を奪うと、やる気満々でスキー板を履いた。
「いつでもいけます」
キリッとした表情で言った、頼もしい。私とクレハは車に乗り込むと、車を海の上に移動させた。車の後ろを見てみると、イリスがぷっかりと浮いて、立ち上がる準備をしている。
「イリスー、行くよー!」
「はい!」
合図を送ると、ゆっくりと車を動かして徐々にスピードを上げていく。このスピードに乗った時に立ち上がればいいのだが、イリスは中々立ち上がらない。
「おーい、立ち上がらないと楽しくないぞー! 尻で滑っても楽しくないぞー!」
「わ、分かってます!」
いつまでも立ち上がらないイリスをクレハが茶化す。その茶化しがイリスの原動力になったのか、ムッとした顔になりながらイリスの体がようやく立ち上がった。
「私だってできますよ!」
「まだへっぴり腰じゃないか!」
「こ、これからです!」
少しずつスピードを上げると、体に掛かる負荷も高まる。イリスは倒れないように体を真っすぐにして、ようやく普通に海面を滑りだした。高く上がる水しぶきを見て、イリスはとても楽しそうな顔をした。
「キャーッ!」
「上手いじゃないか!」
「私だって、できるんですよ!」
楽しそうなイリスで良かった。それを見ている私たちも楽しい。大きく旋回を始めると、水しぶきも高く上がって、綺麗な虹ができる。
「これ……気持ちよくて、楽しいです!」
満面の笑みを浮かべてイリスは海面を滑っていった。そんなに楽しそうにしてくれると、車を動かしすかいがあるってものだ。私は景気よく、楽しい声と共に車を飛ばし続けた。




