220.出汁+うどん+天ぷら=(3)
たっぷりなお湯を茹でて、隣のかまどではたっぷりの油を温める。私はお湯の中にうどんを入れて茹で始めると、隣でエリックお兄ちゃんが野菜の天ぷらを揚げ始める。
一気に二つのかまどに火を点けたから厨房は暑くなった。じんわりと汗が沁み出ていくのを感じながら、私は麺を茹でてエリックお兄ちゃんが野菜の天ぷらを作る。
先にエリックお兄ちゃんが揚がった天ぷらを引き上げた。そして、また新しい天ぷらを揚げ始める。私は麺の茹で具合を見ながら、茹で上がるのを待つ。
隣でエリックお兄ちゃんがどんどん天ぷらを完成させる。皿にはサクサクに揚がった天ぷらが乗っていて、とても美味しそうだ。早く食べたい気持ちを抑えて、うどんができあがるのを待つ。
「よし、こっちは全部揚がったぞ。つゆを温めておくな」
使った油の鍋を棚のところへ移動させると、かまどにつゆの入った鍋をかけた。厨房に二つの湯気が立ち、むわっとした湿気のある空気に変わる。それをしばらく耐えると、ようやくうどんが茹で上がった。
魔動力で鍋を浮かせると、流し台に置いたザルの中にお湯ごと流し込む。途端に湯気で前が見えなくなった。熱いけど、我慢だ。ザルでお湯を切ると、うどんをどんぶりの中に入れる。
「じゃあ、つゆを入れるな」
エリックお兄ちゃんがどんぶりの中につゆを入れる。その後、綺麗に野菜の天ぷらを乗せると……天ぷらうどんの完成だ!
「ふー、熱くて大変だったけどできたね」
「おう、どんな味になっているか楽しみだ。今日は俺も一緒に食べさせてくれよな」
「もちろん、いいよ」
お盆にどんぶり、フォーク、マイ箸、コップを乗せるとお腹を減らしている二人のところへと運んだ。
「二人ともお待たせ、天ぷらうどんだよー」
「おっ、来た来た!」
「温かい料理なんですね」
二人とも嬉しそうにしてくれた。テーブルに持ってきた物を並べて、自分たちも席に着く。私の目の前には湯気の立った天ぷらうどん。匂いを嗅ぐと、天ぷらとつゆの香ばしい匂いが混じり合って堪らなくなる。
「くんくん。醤油の匂いの中に魚と海の匂いがするぞ。なんか、色々入っているな」
「うん。さっき獲った昆布の出汁にエリックお兄ちゃんが持っていた魚の乾燥した身の出汁が入っているんだ」
「なんか、優しい匂いですね。とても美味しそうです」
「さぁ、早く食べようぜ!」
食堂に充満するつゆの匂いはとてもいい香りだ。二人ともその匂いを嗅いで、美味しそうに微笑んだ。エリックお兄ちゃんの声に私たちは手を合わせて挨拶をする。
「「「「いただきます」」」」
マイ箸を手に取って、まずどんぶりを両手で持つ。湯気の立つつゆに一息つくと、つゆの匂いが跳ね返ってきた。そのつゆを一口飲むと、醤油と鰹の風味が広がって、その中で昆布のうま味を確かに感じた。
久しぶりに味わう醤油と合わせだしのうま味。この体では食べるのは初めてなのに、懐かしい気持ちになった。それだけうま味の詰まったつゆはとても美味しい。
「うん、このつゆは美味いな。二つの出汁が醤油に良く馴染んでいる。これはいい組み合わせだ!」
「コンソメスープとはまた違ったうま味を感じますね。あっちはコクがある感じですが、こっちはあっさりしていて美味しいです」
「なんか色んな味が混ざって、美味いんだぞ! これだけで色んな味を楽しめるのはお得だな!」
三人とも私の真似をしてつゆを飲んだみたいだ。上手に出汁がとれたみたいだし、醤油とのバランスもいい。渾身のつゆができて、本当に良かった。
「じゃあ、次はうどんだね。すすって食べるんだよ」
「結構太いんだな」
「めちゃくちゃ食べ応えがありそうなんだぞ」
「すする……スープをすするみたいにですね」
マイ箸でうどんを持ち上げると、手にずっしりとした感触がした。太くてつやつやしたつゆに浸かったうどん。フーッと息を吹きかけて少し冷ますと、口の中に入れてすすった。
うどんはつるんと口の中に入った。舌触りのいいうどんを噛むと、もっちりとしたコシを感じる。その後、すぐに小麦のうま味がつゆのうま味と合わさった。
もちもちのコシのある麺、噛めば噛むほど小麦の風味を感じ、つゆと合わさった時に強烈なうま味になる。このうどん……美味しい!
「すごい、つるつるしてるな。それに噛み応えのある。うん、小麦をしっかり感じるぞ」
「こんなに太いのに、つるんって簡単に口に入りました。それにこのもちもち感……パンみたいで堪りませんっ」
「めちゃくちゃ、食べ応えがあるぞ! つるつるとした感触が気持ちいいな!」
三人もうどんを気に入ってくれたみたいだ。思った以上にコシがあったし、つるつるしている。このうどんならいくらでも食べれそうだ。
しばらく、うどんをすすっていると別のものも食べたくなった。野菜の天ぷらに箸を伸ばすと、つゆにひたひたにつけて一口。サクッとした音、噛むと野菜の甘味とつゆのうま味が合わさって何重にも美味しく感じる。
「この天ぷら、うどんに合うな。あっさりとしたつゆにこってりとした天ぷら、交互に食べるとめっちゃ美味いな」
「私、この天ぷらをつゆにいっぱいつけて食べるのが好きです。この衣がつゆを吸うと、とても美味しく感じます」
「ウチはつゆはちょっとだけ浸けるくらいがいいな。このサクサクとした食感が好きだから、つゆに浸けるとそれが弱くなるのが残念だ」
みんなそれぞれ好みの食べ方があるみたいだ。つゆを吸った天ぷらも美味しいけど、サクサクのままの天ぷらも捨てがたい。甲乙つけがたい食べ方はこれだと決めないで、その時の気分で食べればいいよね。
うどんをすする音、つゆをすする音、天ぷらを食べる音。色んな音が食堂では響いていた。みんな夢中で食べるほど、うどんは美味しい。ちょっと汗ばむけど、それを気にしないほどに。
最後の麺をすすり、最後の天ぷらを食べ、残ったつゆを飲み干す。
「「「「ぷはー」」」」
四人のため息が重なった。思わずみんなの顔を見てみると、はじめはキョトンとした表情。だけど、すぐに笑い合った。
「はははっ、みんな一緒だったな!」
「はい。ここまで重なるなんて、面白いです」
「ノア、なんか魔法を使ったのか?」
「使ってないよ。みんなの息が合っただけだよ」
みんなのどんぶりの中は綺麗に空になっていた。最後の一滴まで残さず飲み干すほど、このうどんは美味しかった。
「いやー、美味かったな! うどんもつゆも最高だった!」
「小麦粉って色んなものが作れるんですね。パン推しじゃなくて、小麦粉推しになりそうです」
「肉みたいに食べ応えのあったな! 色んな感触があって、食べるのが楽しかったぞ!」
「思った以上に上手にできてたと思う。つゆもうどんも美味しかったね」
四人とも滲み出た汗を拭って、手で顔を扇いでいる。まぁ、暑くなるのが難点だよね。今回は熱いものを作ったけど、次は冷たいものを作りたい。……いや、作っちゃえばいいんだ!
「今日は熱いうどんだったけど、これ……冷たくできます」
「冷たいうどん、だとっ!」
「冷たいの……欲しいです」
「いいな、それ!」
冷たいうどんというと三人とも食いついてきた。やっぱり、夏だから冷たいうどんにしたくなっちゃうよね。
「じゃあ、明日は冷たいうどんを作ろう」
「それはいいな! 作り方は今日と一緒なのか?」
「冷たいのはつゆを濃くしようと思うんだ。その濃く煮出したつゆを冷たいうどんにかけて食べるの」
「なるほど、つゆを濃くか……。だったら醤油と出汁を一緒に煮出して、濃いつゆを作ろう」
エリックお兄ちゃん、話が早い。冷やしたうどんに、冷えたつゆをぶっかけて食べる。あー、今食べたばっかりなのにお腹が減りそう。
「今日食べたものとはちょっと違う感じになるんですね。冷たいうどん、楽しみにしてますね」
「ウチは麺の量をまだ増やしても大丈夫だ! 大盛りで頼む!」
「分かった。明日も期待しててね」
エリックお兄ちゃんが作る料理も美味しいけど、たまには自分で作った料理も食べたくなるんだよね。それに一緒に作るのはやっぱり楽しい。今度は三人でうどんを捏ねるのも楽しいかもね。




