218.出汁+うどん+天ぷら=(1)
私はクレハとイリスを誘って海の上までやってきた。
「ノアの新しい魔法、大丈夫か?」
「海の中でも呼吸ができるって……凄い魔法ですよね」
「大丈夫、大丈夫。家にいた頃でも試していたから、自信があるよ」
海に行くことに決まってから、密かに新しい魔法を生み出していた。何度も試行錯誤をして、できあがった魔法……それは水中でも呼吸ができる魔法だ。
この魔法を生み出せば海での遊びはもっと楽しくなる、そう思って生み出した。結構大変だったけど、なんとかできるようになったんだよね。
二人が海に慣れてくれたので、ようやくこの魔法の出番ということになった。
「じゃあ、魔法をかけるよ」
私は意識を集中して、水中呼吸の魔法を発動した。二人はちょっとおっかなびっくりな感じだが、しばらくするとキョトンと不思議そうな顔をする。
「なんともなんないぞ」
「何もないですね」
「いや、これで魔法がかかったはずだよ。一度、潜ってみよう」
「本当に大丈夫かー?」
「じゃあ、行きますよ」
三人で顔を見合わせると、同時に潜った。すると、顔や頭全体を覆うように空気の層が生まれる。閉じていた口を開くと、ちゃんと息が吸えるようになっていた。
よし、成功している。二人を見てみると、二人はまだ口を閉じて息を止めている。そんな二人に話しかけた。
「口を開けても大丈夫だよ」
私が口を開けて喋ると、二人は驚いた顔になった。顔を見合わせた二人はゆっくりと口を開き、やっぱり驚いた顔をする。
「本当に息ができるぞ!」
「それに声も聞こえます。どうしてでしょう?」
二人は息ができることと、音が聞こえることに驚いた様子だった。
「どう、この魔法良くできているでしょ? 水中で呼吸もできて、声が聞こえるようになったらいいなーって思って作ってみたんだ」
「ノアは称号のレベルアップもないのに、新しい魔法を使えるのか。凄いんだぞ!」
「今まで称号のレベルアップに頼ってきてましたが、頼らなくても新しい魔法を生み出せるんですね」
「そうだね。色々と考えて力を使えば、新しい魔法も技もできるようになるかも」
「それを聞いたら、魔物討伐をしたくなったぞ! ウチも自分で技を作りたい!」
「新しい魔法を作るのも楽しそうですね。自分だけの魔法……ふふっ、いいですね」
今までは称号のレベルアップと共に新しい魔法や技を覚えてきた。だけど、称号のレベルアップがない今、新しい魔法や技を習得する機会がなくなってしまった。
と、なると新しい力を手に入れるためには、自分で試行錯誤しなくてはならなくなる。その考えは当たって、頑張れば新しい魔法を覚えることができた。これからは称号のレベルアップじゃなくて、修行した成果が新しい力に変わる時かもね。
「あ、この魔法は三十分くらいしか効かないから気を付けてね。三十分経つ前に、必ず水面に上がること」
「制限があるんですね。分かりました、気を付けます」
「まぁ、みんなで行動するんだから大丈夫か。とにかく、潜れるところまで潜ってみようぜ!」
クレハが水中の中を進むと、私たちもその後を追っていった。楽しい水中散歩の始まりだ。
◇
水中の青い世界はとても綺麗だった。色んな形の魚が沢山泳いでいて、目で追うだけでも楽しい。陸上では味わえない絶景にも出会うことがある。
そんな世界を泳いでいると、遠くに黒くて長い海藻が生えていることに気づいた。
「あれ、なんだろうな」
「行ってみましょうか」
「うん」
やけにあそこだけ沢山生えているけれど、なんだろう? 興味の引かれた私たちはその場所へと泳いでいった。近づいていくと、その海藻の形が良く分かってくる。それはどこかで見覚えがあるような形をしていた。
なんだっけ? 前世で見たことがあるものだ。黒くて長くて、ヒラヒラしてて……まさか! あれは昆布じゃない!? よし、鑑定してみよう。
昆布:海藻の一種。食用可。
「やったぁ、昆布だ!」
「ど、どうしたんだ急に?」
「もしかして、あの黒いものですか?」
「そうそう。とってもいい食材なんだよね」
「なんだと、あれが食べれるのか?」
「どんな風に食べるんでしょう」
創造魔法を使えれば手に入るけど、出すのには限りがある。だから、できるだけ現物で手に入れたいとは思っていたけど、こんなところに生えていたとは。
近づいて昆布に触れてみると、ヌルヌルしている。
「うわ、凄くヌルヌルしてるぞ。本当にこんなのを食べるのか?」
「そのまま食べてもいいけれど、一番いいのは出汁を取ることだよ」
「出汁……コンソメスープみたいなものですか?」
「そうそう、そんな感じ。それを使って、とっても美味しい物が作れるんだよ」
「美味いものか……食べてみたいぞ」
昆布の出汁を使って何を作るか……作ってない物って何かあったっけ? うーん……そうだ!
「よし、うどんを作ろう!」
「うどんってなんですか?」
「小麦粉を使って、長い棒にしたものだよ」
「長いパンってことか?」
「パンは焼くけど、うどんは煮るんだよ。パスタみたいなものだよ」
パスタと言ったら二人とも想像ができたのか、納得したような顔になった。
「コンソメスープみたいなのと、パスタが合わさったような食べ物ですか?」
「まぁ、間違いではないけれど……味が違うね」
「うーん、どんな味になるか想像がつかないぞ。凄く気になる、食べたい」
私も出汁のことを想像したら、凄く食べたくなった。これは早急に動くしかないね。
「じゃあ、今日の昼食は私が作ってくるよ! そうと決まれば、この昆布を持っていって、準備してくるね」
私は魔動力で昆布をいくつか引っこ抜いた。
「二人とも、昼食の時間になったら宿屋に戻ってきて。うどんを食べさせてあげる」
「分かったぞ! 楽しみにしているからなー!」
「久しぶりのノアの食事、楽しみに待ってますね」
「魔法が切れる前に海面に上がるんだよー」
そう言い残すと、私は急いで海面へと上がった。このまま泳いで砂浜まで戻るのはいいけれど、それだと時間がかかる。魔動力で体を浮かせると、一直線に砂浜へと向かった。
ものの数分で砂浜に到着すると、まずは昆布の処理からだ。魔動力で昆布を宙に浮かせると、乾燥魔法で乾燥させる。すると、長かった昆布がどんどん縮んでいき、カラカラの固い昆布に変化した。
これこれ、私はこれが欲しかった。ついでに自分の体を乾燥魔法で乾かし、休憩場所に置いてあったパーカーを羽織る。それから、宿屋に向かって駆け出していった。




