196.海に行こう!(1)
海に行くための準備は着々と進んだ。小麦の増産をすると沢山の在庫ができて、倉庫はいっぱいになった。これくらいあれば大丈夫だ、と太鼓判をもらう。
魔物討伐を頑張っていた二人はとても多くの魔物を倒したみたいだ。毎日ボロボロになって帰ってくる二人を見て心配したが、大きなけがもなく済んでいるみたいで良かった。
二人が沢山の魔物を討伐しているお陰で、森の中の魔物は数を減らしていると冒険者さんに聞いた。それだけ減らしておけば、二人が抜けても大丈夫だろう、ということだった。
後は必要な道具だけど、それは魔力を回復させるポーションを飲んで創造魔法を使って出現させた。この世界にないものを呼び寄せるのに、かなりの数のポーションを飲んでしまった。
まぁ、ポーションを消費するだけでこの世界にないものを呼び寄せることができるんだから、得をしているといえば得をしているのかな? 自由に創造魔法を使えるのってかなりチートだと思う。
必要な道具を出した後は、食糧の調達をした。何かあっても大丈夫なように材料を買いだめ、いつでも食べられる食事を作ってリュックの中に入れておく。これが地味に大変で魔法を駆使して調理をした。
必要な道具を揃えたし、いざという時の食事も作り置きする。村でしていた仕事も十分にこなしたし、私たちはそろそろ海に向かうことになった。
でも、海に向かう前に最後にもう一つだけやり残したことがあった。それは子供たちへの説明だ。うっすらと事前に話しておいていたのだが、行く時期とか話していなかった。
今日は子供たちと遊ぶ日。遊び場に集まった子供たちにしっかりと海に行くことを説明した。
「えー、ノアたちいなくなるのか?」
「違うよ、しばらくの間ここを離れるんだよ」
「じゃあ、ちゃんと帰ってくる?」
「うん、帰ってくるよ」
「そうか、良かった。でも、明日行くのかー、なんだか唐突だな」
子供たちを集めて、明日海に行くことを伝えるとみんな驚いている様子だった。でも、しっかりと説明をするとみんな分かってくれたようだ。
「しばらくはこの遊び場にも来れないってことか」
「それはちょっと寂しいね」
「なんだ、しばらく魔法は見られないのかー」
子供たちは私たちがしばらくいなくなることに残念そうにしている。いつも遊んでいる子がいなくなるのは、寂しいものだもんね。海に行くのに私たちも寂しい気持ちになった。
すると、ギュッとティアナが抱き着いてくる。
「お姉ちゃん、いなくなるの寂しい」
寂しそうな顔をしてそんなことを言われると、決心が鈍ってしまう。
「ごめんね、ティアナ。寂しい思いをさせるよ」
私も寂しさを紛らわせるためにティアナをギュッと抱きしめ返す。
「魔法の練習見れなくてごめんね。私がいなくても練習できる?」
「うん、魔法の練習はする。練習をして、お姉ちゃんに私の魔法を見てもらうの」
「帰ってきたら魔法を見せてね」
十分にティアナを補充すると、体を離して頭を撫でる。寂しそうにしていたティアナだけど、頭を撫でると嬉しそうな顔をした。そこに一緒に魔法の練習をしているタリアとルイが近づいてくる。
「しばらくノアがいなくなるのは寂しいけど、ティアナと一緒に魔法の練習はするね」
「ノアがいなくてもしっかりと練習はしておくよ。そして、帰ってきたノアを驚かせるんだ」
「私がいない間、ティアナのことをよろしくね。帰ってきたらどれだけ魔法ができるようになったか楽しみにしているね」
「任せておきなさい。魔法発動までできるようになってみせるんだから」
「僕も早く魔法を使えるようになりたいよ」
ティアナが練習している魔動力は物がちょっとだけ動く程度には進歩していて、タリアとルイは魔力を感じるところまでは進んでいる。このまま練習すればティアナは魔動力を使えるようになって、タリアとルイは魔法を発動できるようになる。
私がすぐ傍に練習を見守れないのが残念だけど、この調子で頑張って欲しい。そして、覚えた魔法を使って色々やりたいよね。
私の横ではイリスとクレハも友達に囲まれて、説明をしていた。どの子も寂しそうにしているのだけれど、戻ってくると話したら明るくなった。離れるのは一時的なものだからね。
「海に行くんなら、なにかお土産を持って来いよな!」
「何があるか分からないけど、海にあるものがいいわ」
「食べ物でも大歓迎だぞー」
「任せておいてくれ! 何か持って帰ってくるぞ!」
「みんなが驚くようなものを持って帰りたいですね」
海のお土産かー、色々あるけれど何がいいんだろう? まぁ、現地に行ってから見繕った方がいいかもね。
「話は終わりか? なら、今日は一緒に目一杯遊ぼうな!」
「しばらく会えなくなるもんね。その分、遊びましょう」
「ほら、三人とも早く!」
子供たちがワーッとなって遊具に駆けていった。二人は他の子供に手を引かれて駆け出していき、私はティアナに手を引かれて遊具に近寄っていった。今日でしばらくは遊べなくなるから、目一杯楽しもう。
◇
「今日は沢山遊べて楽しかったな!」
「はい。しばらくあそこで遊べないとなると、ちょっと寂しいですが」
「たっぷりみんなと遊べたし、魔法の練習もできたし、充実した一日だったね」
夜、ベッドの上で寝転がりながら今日あったことを話す。遊具で遊んだこと、ごっこ遊びをしたこと、魔法の練習をしたこと。それぞれが楽しかったことを話し合った。
「明日は海かー……一体どんなところなんだろうな」
「明日には海につかないと思うよ。多分、どこかで野宿すると思う」
「野宿……ふふっ」
「イリス、どうした?」
「外で寝るのは久しぶりになりますね」
「去年の今頃は石の家だったよねー」
あの頃はほとんど野宿のようなものだったから、懐かしい。
「だったら、明日は地面の上で寝るのか?」
「寝るんだったら、車の中で寝るよ」
「えっ、座ったまま寝るってことですか?」
「ううん、あのイスが平らになるからちゃんと横になれるよ」
「へー、あの車にはそんなことができるようになっていたのか」
イスが倒れる機能もちゃんとつけておいた。だから、イスを倒して寝ることも可能だ。ちょっと狭いけど、地面の上で寝るよりは安心できると思う。
「明日はずっと移動になると思う。車の中にいるから、もしかしたら退屈かも」
「そうなのか。何か暇つぶしを考えたほうがいいか?」
「私はずっと運転してなきゃいけないから、二人の遊ぶ用におもちゃを作っておいたよ」
「へー、おもちゃですか。どんなのか楽しみです」
「二人で遊ぶおもちゃかー……全然想像がつかないぞ!」
イリスは楽しそうに想像している傍ら、クレハは頭を抱えている。まぁ、それだけで分かるとは思えないから当然の反応だ。
「なぁなぁ、海に行ったらどんなことをするんだ」
「そこにいる生き物を捕まえて食べたり、泳いで遊んだり……色々できるよ」
「生き物を捕まえるのは大変そうです。泳ぐってどうやってるんですか?」
「お風呂よりも広い水場だから、手足を伸ばしてこうやって」
ベッドの上でうつ伏せになると、手足をバタバタさせた。それを見ていた二人は興味津々だ。
「それが泳ぐってことですか?」
「こうか?」
クレハがベッドの上で乱雑に手足をバタバタさせた。それじゃあ、おぼれているようにしか見えないな。
「まぁ、詳しいことは現地に行ってから教えるね」
「なんだー、また後のお楽しみかー」
「ふふっ、十分今でも楽しんでるじゃないですか」
「これは違うぞー」
イリスが笑うと、クレハがふくれっ面になった。微笑ましいやり取りに、海への期待が膨らんでいく。
「お楽しみは後に取っておいて、今日は寝よう」
「そうだな! 海、楽しみだなー」
「なんだか楽しみすぎて寝れそうな気がしません」
「私が睡眠の魔法を覚えていたら、使うんだけどね」
「いいですね、それ。そしたら、すぐに寝れそうです」
「それを覚えたら、寝る直前まで騒げそうだな」
寝ようと思ったのに、中々会話が途切れない。明日が楽しみすぎて、賑やかな声はまだ続いていく。
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