195.海に行くための準備(2)
エルモさんから魔力を回復させるポーションを買った翌日、海に行くための準備が本格的に始まった。まずやることは小麦の在庫を増やすことだ。去年作った小麦も少なくなっているので、十分な量を確保する必要がある。
それで、一日に一回の収穫で終わっていた農作業を一日に二回と収穫を増やすことにした。倍の量が増えるから、きっと在庫も今まで以上に増えるはずだ。
早速、私は分身魔法でいつもよりも魔力をこめて分身を出した。分身は全部で五人、脱穀と袋詰めに二人ずつ、小麦刈りに一人だ。
「今日は二回の収穫だよ。みんな、頑張ってね」
「まぁ、いつも通りやっていけばいいよね」
「夕食の用意までには終わらせないと」
「もし、その時間まで終わらなかったら本体は先に夕食の用意に行かせればいいんじゃない?」
「それがいいね」
終わる時間は夕方くらいになる見込みだから、みんな夕食の用意を心配してくれている。確かに、ギリギリ間に合うか間に合わないかの時間だな。もし、間に合わなかったら先に夕食の用意をするのもいいよね。
「じゃあ、ちゃっちゃとはじめていこうか」
「はい、撒く小麦ね」
「畑に小麦を咲かせましょう」
流石、私の分身だ。すぐにやることが分かっていて行動を開始した。私も小麦を貰って畑の端に移動すると、小麦をバラ撒き始める。
分身たちと一緒になって小麦をバラ撒いた後はいつも通りだ。植物魔法で小麦まで成長させて刈り取る。刈り取った小麦を脱穀機にかけて、実を分別させる。最後にふるいにかけて余分なものを取り除いてから、袋詰めをした。
その作業をずっとしていると、刈る小麦がなくなってしまった。残った根を焼却処分をすると、また小麦を撒くところから始める。
「どうする? このまま二人で小麦撒きする?」
「他の分身の作業はまだ終わらないみたいだから、私たちだけでやっちゃおうか」
「分かった」
分身と相談して二人だけで小麦撒きをすることになった。畑の端に移動すると、小麦撒きを始める。二人だけだから時間はかかったけど、なんとかその作業を終わらせることができた。
小麦撒きを終わらせると、植物魔法を使い小麦を実らせ、再び小麦刈りが始まる。と、その前に分身が話しかけてきた。
「魔力は大丈夫?」
「うん、大丈夫。大分減っているけれど、問題ないよ」
「そうなんだ。でも、創造魔法を使うほどの余力は残ってないよね?」
「そうだねぇ……素材を使っての創造魔法が一回使えるかどうかってところだね」
「なるほどね。私の魔力も刈り取り終わるまで、なんとか持ちそうだよ」
「そう、良かった。次からはそれくらいの魔力を込めればいいってことだね」
魔力管理が大切になってきたのを実感した。今までは大量にあった魔力だったけど、色んな魔法を使い始めて魔力の消費が激しくなっている。しっかりと考えて使わないと、魔力切れを起こして倒れたらみんなに迷惑をかけてしまう。
残りの魔力に気を付けながら、作業は続いていった。
◇
魔力管理に気を付けながらいつもの倍の仕事をこなす。魔力は余ったけれど、結果として創造魔法が使えないくらいの量しか残らなかった。だから、しばらくは普通であれば創造魔法は使えない状態になる。
だけど、私には魔力を回復させるポーションがある。これさえ使えば魔力は回復するし、回復したらその魔力を使って海で必要となる道具を創造魔法で出せることができる。
結果的に今は創造魔法を使うのにお金がかかるってことだ。だけど、そのお金も沢山稼いだから懐は傷まない。思う存分に創造魔法を使って準備をすることができる。
そうして一日に使う魔力量を計算して、今後のことを考えながら小麦の収穫をしていると、あっという間に夕食を用意する時間になった。小麦刈りは終わっていたので、残りの脱穀と袋詰めを任せて私は夕食の用意をした。
いつも通りにパンを焼き、おかずを用意して時間停止魔法をかけておく。準備が終わって外に出ると、分身たちが丁度後片付けをしているところだった。
「みんな、お疲れ様」
「やー、本体。夕食の準備は終わった」
「お陰様で終わったよ。なんとか夕暮れまで終わることができたね」
「間に合って良かったよ。これで一日で収穫が二倍にできることが分かって良かったね」
「うん、じゃあ残りは私がやっておくよ」
分身たちを消すと、残ったのは一つのリュックだけ。私はそのリュックを背負うと、作物所へと急いだ。いつもよりも遅い時間になっちゃったけど、コルクさんはいるかな?
「コルクさん、遅くなりましたー」
作物所の中へ入っていくと、奥の方からコルクさんが現れた。
「良く来たな。今日から小麦の量が多くなるって話していたな。どうだ、順調だったか?」
「うん、時間はかかったけど順調だったよ」
「そうか、なら倉庫に移動しよう。そこで、小麦の納品を行う」
そう言って外に出ていくコルクさんの後を追っていった。建物の裏側に行くと倉庫があり、その中へと入っていく。中へ入ると、収穫した小麦の計量が始まった。
「こんなに採れたのか、凄いな」
「多分いつもの倍はあると思うよ」
そう言いながら小麦を計量していく。計量しながら驚いていたコルクさんは、一袋ずつ丁寧に計量していき総量が出た。
「全部で二百キロあるな。凄い量になったな」
「沢山採れたね。これだったら、在庫もできるんじゃない」
「あぁ、お陰で在庫ができそうだ。しばらく、この調子でお願いできるか?」
「うん、任せておいて!」
かなりの量を納品することができた。お金を受け取ると、私は足早にその場を後にする。早くしないと二人が帰ってきてしまう。そう思って家の方に向かっていくと、声が聞こえた。
「ノア!」
振り向くと、こちら向かって駆け出してきているクレハとイリスがいた。
「二人ともお疲れ様」
「ノアもお疲れ様です」
「こんな時間にこんなところにいるなんて珍しいな」
「うん、小麦の収穫を増やしていたらこんな時間になっちゃったんだ。あっ、でもちゃんと夕食の準備はしてあるから心配しないで」
「流石はノアですね、手際がいいです」
丁度魔物討伐から帰ってきた二人と鉢合わせになった。もうそんな時間になっていたんだ、間に合って本当に良かった。
あれ? 二人の姿の服によごれが沢山ついているような……。
「今日は随分と汚れているね」
「そうなんです! クレハが沢山の魔物と戦おうと、突っ走ったんですよ。そしたら、大勢の魔物に囲まれて……とっても大変だったんです!」
「でも、お陰で沢山の魔物を討伐することができたぞ。いつもの倍は倒せたと思う」
ニッと笑ってピースをするクレハ、その隣ではイリスが怒りを堪えている。
「えっと……大けがとかしなかった?」
「かすり傷が多かったけど、なんでもなかったぞ」
「嘘です。あともうちょっとで大けがするところが何回も続いてました」
「ちょっ、バラすなよ~」
「いいえ、ここは正直に話します。クレハは無茶しすぎです」
「無茶じゃなかったぞ。あれくらいは倒せる力量があったんだからな」
歩きながら二人はあーでもない、こーでもないと言い争いをする。これはどっちの味方をすればいいのか悩んでしまう。こんな時はどっちの味方にならないほうが懸命だ、うん。
「ノアからも何か言ってください。無茶はしないでって!」
「今まで安全に戦ってたから歯ごたえがなかったぞ。これくらいが丁度いい!」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」
「今日ができたなら明日も出来る。明日も今日の調子で行くぞー!」
「クレハは無茶ばっかり!」
調子のいいクレハと不機嫌なイリス、今日の夜は大変な時間になりそうな気がした。
11/8 7:10に新作を投稿します!
新作についてあらすじなどをまとめた記事を活動報告にあげましたので、ぜひご覧ください。




