193.空飛ぶ車
空飛ぶ車をどうやって作るか、分身たちと話し合った。材料を集めて低魔力で作ったほうが安全だという意見と、材料を集めるのが面倒だからポンと出す意見に別れてしまった。
その意見を聞いて考えた結果、私はポンと簡単に出す意見を採用した。材料を集めたほうが安全だけど、今回は出すのは一つだけだし、それなら簡単に出しちゃった方がいいと考えた。
私の意見を聞いた分身は異論はなく、好きにやっちゃってっという雰囲気だった。だから、私は好きに車を想像することにする。全ての用事を終えた私は自分の家に戻ってきて、早速車を出すことにした。
「ふー、よく想像をして……」
必要なのは車体だけ、エンジンとかカーナビとか普通に車についている機能はいらない。丸みを帯びた車体、色は黄色でアクセントに黒色を入れる。窓ガラスも忘れちゃいけないし、窓を開ける取っ手も欲しい。
扉もちゃんとつけて、開け閉めできるようにする。ライトは……灯りがつかないけれど見栄えがいいからそのままつけることにして。タイヤはいらなくて、タイヤを付ける窪みもいらない。シートベルトをつけて……うん、こんなもんかな。
「創造魔法!」
手をかざした先がピカッと光って、想像したものが出てくる。光りの中にシルエットが見えると、光りがだんだん収束していく。その光が完全に消えると、そこにはタイヤのない丸みを帯びた黄色い車が出現していた。
「やった! って、あれ……」
近寄ろうとするとストンと尻もちをついてしまった。しまった、魔力の消費が激しかった。ちょっとしためまいを感じ、その場でしばらく休憩をする。
少し座って休んでいると、体に力が戻ってきた。ゆっくりと立ち上がり、立ち眩みがしなくなったのを確認して、出来立ての車に近づいた。
「うわー、車だ。懐かしいなぁ」
ペタペタと車体を触ると、冷たくて固い感触が伝わってきた。車体はしっかりしているし、窓ガラスだってある。扉の取っ手を引っ張ってみると、扉が開いた。
その中に入ってイスに腰かける。柔らかいイスの感触に包まれながら、扉を締めた。懐かしい扉が閉まる音を聞き、車の中でリラックスする。使わないのにハンドルをつけちゃった、いらなかったら外せばいいか。
さて、車を動かして……。
「あー、しまった。魔力がほとんどないから、車動かせないや」
この車の作成に魔力を使い切ってしまった。折角、動かしてみようと思ったのに、できないじゃない。楽しみにしていたことが先送りになってガッカリした。
「魔力がないから夕食も作れなくなったっちゃったな。仕方がない、今日は宿屋でお世話になろう」
それに食事の用意もできない。魔力がないとポンコツになってしまう……この状況を打破するにはどうしたらいいだろう。
◇
「はー、私って魔力がなかったら何にもできない子供なんだって悟ったよ」
「ノアは魔法を使ってこそって感じですものね」
「魔法が使えないノアってなんか変な感じだな」
「私もそう思うよ。日常的に魔法を使っているから、魔法が手足のようなものだもん」
夕食時、宿屋で食事の世話になっていた。今日のことを愚痴っていると、二人はその通りだと言わんばかりだ。くっ、なんでもかんでも魔法に頼ってきたツケか!
「なんだ、ノアは魔力切れになったのか?」
その時、話を聞いていた冒険者が話しかけてきた。落ち込む私を見て、みんなが珍しそうにこっちを見ている。
「うん、そうなんだよね。強い魔法を使ったら、魔力が切れたんだ」
「ノアが魔力を切れるほどの強い魔法ってなんだ? ドラゴンでも倒したのか?」
「そんなんじゃないよ。ちょっと大きなものを作っただけなんだけどね」
「あー、あの物を作る魔法か。何を作ったんだ?」
「ふっふっふっ。もちろん、海に行くための乗り物だよ」
乗り物と聞いたみんなは不思議そうな顔をした。
「乗り物を作っても、それを動かす動物がいなかったら無駄じゃないか?」
「無駄じゃないよ。だって、その乗り物は私の魔法で動かすんだもん」
「そんな魔法もあるのか。じゃあ、もう動かしたのか?」
「それが、魔力がなくてできなかったんだよね」
一人でしょんぼりしていると、二人が可哀そうに思ったのか頭を撫でてくれた。
「よしよし、ノアはよくやったぞ」
「倒れなかっただけ、良しとしましょう」
「二人ともありがとー」
慰められて心の傷が癒えた。でも、魔力切れは困るからどうにかしたいんだけどなぁ。その時、一人の冒険者が何かを思い出したように話しかけてきた。
「魔力切れで困っているなら、魔力を回復させるポーションを飲めばいいんじゃないか?」
「えっ?」
「ほら、錬金術師の店で売ってるだろ。ちょっと高いけど、そんなに困っているなら買ってもいいんじゃないか?」
「魔力を回復させるポーション!」
机を手でバンッと叩いて立ち上がった。そうか、その手があったのか!
「なんだ、知らなかったのか?」
「全然知らなかった。ポーションもそんなに馴染みがないし、そういうのがあるんだね」
「ノアは魔物退治とかしないから、その辺のアイテムに疎かったのかもしれんな」
「全然知識を仕入れてなかったよ。そうか、魔力を回復させればいいんだ!」
どうして今までそのことに気づかなかったんだろう。ずっと、魔力が切れることがなかったから魔力を回復させる機会に恵まれなかったからかな? 今度からは魔力が切れたらポーションで回復させればいいんだ!
「良かったですね、ノア。これで魔力が切れても回復させれば魔法が使えますね」
「やっぱり、ノアは魔法を使えなくっちゃな!」
「うん、良かったー。早速明日買ってくるよ」
「それにしても、海に行くために乗り物を作ったことですが……どんな乗りものか楽しみですね」
「乗りものって言ったら馬車だよな。あんな感じのものを作ったのか」
「ううん、違うものを作ったよ。それは見てのお楽しみだね」
「げー、またお楽しみかー」
クレハが顰め面をすると、イリスと一緒になって笑った。
◇
そして翌朝。昨日見せられなかった車を二人に見せることになった。
「どう、これは車っていう乗り物だよ」
「これは、面白い形をしてますね」
「へー、初めて見るものだぞ」
二人は車の周りをグルグル回って観察をした。物珍しそうに見回ったり、ペタペタ触ったりしてどんなものか確認している。
「ここを引くと、扉が開くよ。さぁ、中に入ってみて」
私が後部座席の扉を開けると、二人は奥に詰めて入っていった。二人を乗せた後、運転席に入る。
「どう、車は?」
「意外と広いんですね。それにイスのクッションが気持ちがいいです」
「馬車よりは乗り心地がいいぞ。これならいくらでも座っていても大丈夫そうだ」
二人とも気に入ってくれたみたいだ。よし、じゃあちょっと試運転と行きますか。
「そこにあるシートベルトをして。やり方は引っ張って、ここの金具に押し込む」
「えっと、これを引っ張って……押し込む。あ、できました」
「ウチもできたぞ」
「じゃあ、動かすよ」
使わないハンドルを握り、魔動力を発動させる。すると、車がふわりと浮いた。浮かせると今度は前に進めた。車は問題なく動き、スムーズに進んで行く。
「動きましたね、すごいです。私たちが乗っても問題なく動きますね」
「おー! これは楽でいいんだぞ。魔物討伐の時もこれで移動できれば楽だな」
ミラ―を見て後ろを確認すると、二人とも楽しそうに窓の外を眺めている。その場をぐるっと回ってみたけれど、問題ないみたいだ。家の横に移動して車を静かに置いた。
「うん、問題なさそうだね」
「この移動は楽でいいですね」
「じゃあじゃあ! 海に行けるのか!?」
クレハが目を輝かせながら言った。隣にいるイリスも目が輝いている。これは、もう決まりでしょ!
「うん、海に行こう!」
この夏、私たちは海へ行くことになった。




