191.やりたいことを見つけよう
大金を手にしてから、私たちは仕事以外にやりたいことを探し始めた。一番やりたいことは遊ぶことだけど、遊ぶ相手である農家の子供たちは仕事があるから四六時中遊べるというわけではない。
私たちの都合に合わせたら、家のお手伝いができなくなって大人に迷惑がかかってしまう。だから、他の子供たちと遊び放題、というやりたいことはすぐに消えた。
だったら三人だけで遊ぶという案も考えたけれど、それだといつも通りになってしまう。どうせなら、変わったことがやってみたかったので三人だけで遊ぶのも却下した。
やりたいことが決まらない日々を過ごしていたある日、私たちは何かいい案がないか冒険者に聞くことにした。
「へー、三人でやりたいことを探しているのか」
「何か特別な休暇で面白くてやりがいのあることをやりたいと……」
「そうだなぁ。何かあるかなぁ」
朝食の時、近くにいた冒険者に何かないか聞いてみた。
「そんな休暇とったことないから、分からないなぁ」
「俺たちの仕事は自由だが、あまり休みすぎても体が鈍っちまうから長い休みは取らないんだよな」
「美味しいものを食って、酒を飲んで、自由に寝ることぐらいかぁ?」
話を聞いてみてもいい案はないみたいだ。
「美味しいものは毎日食べてますし、沢山寝てみます?」
「寝るのもいいけど、今時期暑くてそんなに寝てられないぞ」
「お酒は飲めないし、何かないかなー?」
私たちはうーんと悩みながら案を考えた。だけど、いい案はすぐには思い浮かばない。
「じゃあ、何か楽しいことはない?」
「楽しいこと? 報酬を受けとることとかか?」
「上手く魔物を倒せた時は楽しいな」
「それはウチらも同じだけど、魔物討伐以外でだぞ」
「ノアを魔物討伐に連れていくとかですか?」
「でも、それじゃあ二人がいつもと同じでつまらないじゃない」
「ノアを鍛える修行……」
「それはあんまり楽しくないよ」
冒険者と話すと魔物討伐の話になりがちだ。それだと二人がいつもやっていることと変わりがないので、特別感はない。まぁ、私の修行というのはいいかもしれないが……。
みんなで腕を組んでうーん、と唸る。何か楽しいことはないかな。すると、一人の冒険者が何かを思いついた。
「そうそう、楽しいことが他にもあったぞ」
「どんなこと?」
「他の狩場に移る時だな」
「他の狩場?」
「村や町を移動することだな。自分の力量にあったところを見つけるのに、あちこち行ったもんだ。色んなところへ行くのは楽しかったぞ」
「色んなところか……」
村や町を移動するってこと? 確かにそれは楽しそうだ。見知らぬ村や町に行くのはワクワクするし、そこに名物なんていうのがあれば行く理由にもなる。
「俺たちは自分の足で好きに移動することができるが、流石に子供のノアたちは難しいだろうな」
「そうだぞ、かなりの距離を歩かなきゃいけないし、野宿だってしなくちゃいけないんだ」
「旅先に悪い人がいて、連れ去られるかもしれないんだぞ」
すると、冒険者たちが辛くて怖いことを言い始めた。長距離の移動、外での野宿、悪い人に出会う。大変な目に合う、そう言わんばかりに私たちを脅しにかかった。
「それだと、楽しい思いができないと言っているようですね」
「でも、おっさんたちはそれが楽しかったんだろう?」
「だったら、そういう経験も楽しいんじゃないの?」
「うわっ、全然効いていない」
「怖がらせようと思ったのに……」
「思ったよりも冷静だな」
冒険者たちの言葉を平気で素振りで返せば、冒険者たちは苦笑いをした。と、そこにミレお姉さんがやってくる。
「また何を教えているのよ」
「村や町を移動するのが楽しいよ、ていう話をしていたの」
「あー、なるほどね。冒険者は自分に合ったところを見つけるためにあちこち移動するって聞いたことがあるわ。それで、どうしてその話を聞いたの?」
「前に言ってました、やりたいことを見つけるためですよ」
「何かないかなーって思ったんだ」
「あー、あれね」
ミレお姉さんは考えるように顎に手を当てた。
「そうねぇ……ノアちゃんたちはここに家を建てちゃったから、他の町に移動することはない?」
「そんなつもりはないよ。だよね?」
「はい、そうです」
「もちろんだぞ」
「そう、それを聞いて安心したわ。だったら、他の町にお出かけするのはどうかしら」
そうだよね、この村以外にも人がいる場所があるんだから、そこに遊びに行くのもいいかもしれない。
「ここからだと、北に行けば同じような開拓村があって、西に行けば町があるわ。南に行ったら漁村があるわね」
「漁村って」
「そう、南に行けば海があるのよ」
「「海?」」
海という言葉にイリスとクレハが首を傾げた。そうか、二人は海を見たことがないのか。
「海っていうのはね、水がいっぱいある場所なんだよ。とにかく広くてでっかいの」
「へー、そんなところがあるのか。海かー」
「どんなところなんでしょう。気になります」
「海には色んな生き物がいて、海の中を泳いでいるんだよ。それらを捕まえて食べることだってできる」
「食べ物があるのか!」
「海の食材ですね、なんだか興味をそそられますね」
海のことを説明してあげると、二人は目を輝かせながら話を聞いてくれた。そう、海には海にしかない食材がいっぱいある。今まで陸の食材にしか口にしていなかったけど、海の食材も食べたいな。
そんな海の話で盛り上がっていると、ミレお姉さんが困ったような表情になった。
「海に興味を持つのはいいんだけど、遠いから子供の足でいけないわよ」
「遠いってどれくらい遠いの?」
「馬車で七日ってところね。それくらい離れているから、気軽に行けない場所なのよね」
「そっか、かなり離れている場所なんだね」
「それに比べて町までは二日で行けるわ。馬車も行き来しているし、馬車に乗らせてもらって町に行くのがいいと思うわ」
どうやら漁村までは距離があるらしく、子供の足で行くのには厳しいらしい。代わりに近くの町を勧められた。町にも一度行ってみたいと思っているのだが、興味は漁村の方に引かれている。
「でも、町には海がないんだろ? 海、行ってみたいぞ」
「見てみたいですね。どれくらい広いんでしょうか」
「あらら、興味は海に移っちゃったのね。行く手段があればいいんだけど、漁村とまともな交流をしていないのよね。一年に数えるくらいしか、馬車も行き来してないし……困ったわねぇ」
二人は見たこともない海に興味津々で、私は海の幸に用がある。だから、海がある漁村に行けると嬉しいんだけど、距離があるのがネックだね。
「自分の足でいけると思うぞ。なんてったって、毎日魔物討伐で鍛えているからな」
「私たちはいいですが、ノアの体力が心配です。私たちのように激しい運動をしていないから、体力が劣っています」
「うーん、馬車で七日の道をずっと歩いて行けるのか……難しいなぁ」
「だったら、ウチがおぶっていくぞ!」
「でも、それだとクレハが……」
漁村に行くために長距離の移動をしなくてはならないので、そこが一番の問題になるだろう。二人は体力があるから大丈夫だけど、私にはそこまでの体力がない。
何かいい手段はないかな?




