190.大金がやってきた!(2)
「うわー、凄い数の金貨なんだぞ! こんなの数えられないぞ」
「凄くピカピカして眩しいです。一体どれくらいの数が入っているんでしょうか?」
袋を開けて中を覗いた二人は驚いた顔でそれを見ていた。そこには本当に数えきれない金貨があって、キラキラと輝いているように見える。
「マジックバッグと白い砂糖のその売り上げがこれだ。金貨は五百枚以上あるだろう」
「「「五百枚以上!?」」」
金貨一枚十万エルするから、簡単に計算しても五千万エル以上あるということになる。その二つで五千万を稼いだことになるってことは、五千万を二つで稼いだことになるから……。
「つ、つまり……これ全部私たちのものってことですか?」
「あぁ、そうだ。分かりやすい驚きようだな。まぁ、俺も受け取った時は本当に驚いたんだが……」
「マジックバッグと白い砂糖ってそんなに高いものだったんですね。どうしましょう、私たち日常使いしてますよ!」
「ウチらそんな高級品を使っていたのか!? 凄いことなんだぞ!」
私たちは目の前に出された金貨を見て、混乱していた。まさか、こんな金額になるなんて思いもしていなかったから本当に驚いている。というか、こんなに高い商品を私たちは日常使いにしていることに腰が引けてしまう。
「じゃあ、今まで使ってきたものを支払わないといけませんね!」
「そ、そうなのか? そんなお金があるのか?」
「い、いや払わなくてもいいんだよ。私たちが作った物だからね」
「そ、そうですね……元々は私たちのものでしたね」
「し、しっかりしろイリス!」
考えれば考えるほど混乱するイリス、考えることを放棄したクレハ。私も半分は考えることを放棄したので、なんとか正常を保てている。
改めて渡された金貨を見てみる。この大きな袋に金貨が五百枚以上も入っていることになる。金貨には小金貨と言われるものもあるけれど、貰ったのはいつも使っている小金貨じゃなくてその一つ上のランクの金貨だ。
あまり見ない金貨だから、本当にこれがお金なのかと疑ってしまう。いや、お金なんだろうけど、やっぱりまだどこか信じられない気持ちでいた。
「少しは落ち着いたか?」
「全然落ち着かないです!」
「まだ信じられません……」
「ウチらの魔物討伐の何十日分だろう、いや何百? うー、何も分からないぞー!」
「どうやら、まだ落ち着かないみたいだな。でも、これは現実だ。マジックバッグと白い砂糖は本当に高値で売れたんだ、それは確かにお前たちのお金だ」
こんな金額になるなんて思いもしなかったから、まだ心がついてきていない。でも、そろそろ落ち着かないと。三人で顔を見合わせて、落ち着くように深呼吸をした。それから、男爵様と向き合う。
「本当にこれ全部貰ってもいいんですか?」
「もちろんだ。これはお前たちが働いて稼いだ金だからな」
「凄いです。本当にこれが私たちのものだなんて!」
「こんなの魔物討伐じゃ稼げないぞ!」
三人で袋の中に手を入れて金貨を持ち上げて落とす。金属音がジャラジャラして、普段聞けない音が聞こえた。
「二人とも、やったね!」
「はい、凄い大金です!」
「大金持ちなんだぞ!」
ようやく三人で喜び合うことができた。こんなにお金があったら、欲しい物があったらなんでも買える。無理に仕事をしないで済むし、好きなだけ休んでいても大丈夫。
「今まで沢山苦労したけれど、これで楽になるね」
「ノアは農作業、私たちは魔物討伐を必死にやってきました。でも、これからはそんなに必死にならなくてもいいんですね」
「もう生活のことで悩まなくてもいいんだな、お金がないっていう思いをしなくてもいいんだな」
「うん、そうだよ。必死になることはないし、お金がなくて困ることもない。私たちはゆとりのある生活ができるようになったんだ」
じわじわとこみ上げてくる喜びを感じて、三人で抱きしめ合った。スタンピードで町を追われ、追われた先で底辺の生活を強いられた。この村に飛ばされてから、少しずつ生活が良くなってきた。
少しずつ食生活が改善して、自分でお金を稼げるようになった。お金を稼いで生活が少しずつ安定した頃に家も建てた。住む場所を手に入れてから生活が上向きになり、さらに豊かになった。
その内、家畜を手に入れて食生活がさらに豊かになった。マジックバッグも手に入れて、生活や魔物討伐が向上して色々とやりやすくなる。分身魔法を覚えると仕事が楽になり、今までよりも沢山働けるようになった。
一つずつ豊かになってきて、今回のことでお金の心配もなくなった。重い現実が少しずつ軽くなっていき、とうとうここまで辿り着いた。私たちは豊かな生活を手に入れたんだ。
「お前たちは本当に凄いな。自分たちの力でここまで生活を豊かにするなんて、恐れ入ったよ。それに自分たちの生活があるのに、村のことも考えて色々と施してくれてありがとう。お陰で村は少し豊かになったぞ」
豊かな生活だけでなく、信頼も勝ち取ることができた。私たちの周りには、私たちを心配してくれる大人の人が沢山いた。その大人たちの力も借りて、ここまで豊かになったのだ。
「男爵様も気にかけてくださってありがとうございました。男爵様がマジックバッグや白い砂糖で動いてくれたから、こんなに稼ぐことができました」
「いや、気にしないでくれ。お前たちのために何もできなかったから、せめてできることで力になりたいと思っていたからな。お前たちに力があったからやり遂げられたんだ」
私の力で作ったマジックバッグと白い砂糖だったけど、男爵様が動いてくれなかったら売れなかったものだ。私一人の力ではここまで売ることができなかっただろう。
「これだけの大金が手に入ったんだ、しばらくは働かなくても平気だろう?」
そうだ、その通りだ。大金が手に入ったんだから、しばらく働かなくてもいい。遊んで暮らせるくらいのお金にはなっただろう。でも、いきなり遊んで暮らせと言われても困ってしまうのが現実だ。
「いきなり働かなくなるのは、何をしていいのか分かりませんね」
「他の子供たちと遊ぶと言っても、他の子供たちは仕事をしているしな」
「毎日家でゴロゴロしているのも暇だろうしね」
三人で休みを取った場合を考えたが、いい案が思い浮かばない。
「魔物討伐をしているので、あまり休むと周りに迷惑がかかってしまうのではないでしょうか?」
「森から大量の魔物が出てくるしな。村が襲われたら大変なんだぞ」
「私も農作物を納品しないと、困る人がいるんじゃないかな?」
考えることは毎日していた仕事のこと。いきなり働かなくなると困る人が出てくる、そう思ってしまった。魔物は森から溢れて出てくるし、食べ物も毎日必要だ。生きるためには魔物討伐と農作物の収穫は必須になる。
それを考えると、大金が手に入ったからといって生活が大きく変わることはない。今まで通りに農作物を収穫して、魔物討伐をする。これは習慣になっているから、今更止めることはできない。
「私たちは働かなくなると、困る人が出てくると思うんです。だから、急に仕事を辞めることはできません」
「そうだな、三人はこの村のために働いてくれている。急にそれがなくなると困る人も出てくるだろう。だが、急ではなかったら大丈夫じゃないか? 事前に根回ししておくのもいいと思うぞ」
そう言われると、そうかもしれない。事前にやるべきことをやっておいて、根回しをしておけば、困る人がいなくなるかも。
「まぁ、やりたいことを見つけるのが一番だと思うな。見つかったらそれに合わせて仕事を調整すればいい」
やりたいこと……仕事以外のことでそんなことあるかな? この夏の間に見つかればいいな。




