186.遊び場を作ろう(5)
遊具を建築した遊び場は子供たちの楽しそうな声が響き渡っていた。初めて触れる遊具に物怖じもせずに挑戦して、体を目いっぱい使って遊んでいる。
そんな子供たちに混ざり、私たち三人もこの楽しいひと時を一緒に共有していった。
「次、これで遊ぼうぜ」
「みんなでやろう。その方が楽しい!」
「こっちから始めよう!」
飛び石の前に子供たちが集まると、順番に飛び石を渡っていく。乗り辛い丸太の上をバランスをとりながら進んで行って、端を目指す。だけど、ゴールの端から別の子供が渡り始めてきた。
「あ、こっちが先に渡ったんだよ」
「へっ、そんなの関係ないね!」
「ずるいー、どけてよ!」
端から数人の子供が渡ってきて、道を塞いでしまっている。先に渡った子たちは文句を言うが、途中から入ってきた子は気にする素振りは見せない。
「なんだなんだ、止まっちゃったぞ」
「これじゃ、先に進めませんね」
後ろで順番を待っていた二人が困った顔をした。これだと先へは進めない、何か解決方法はないかな? 昔の記憶を辿って何かないかと思案する。すると、一つの案が思い浮かんだ。
私は子供たちがいがみ合っているところまで移動して、こう提案した。
「ねぇねぇ、どうせならゲームにしない?」
「「ゲーム?」」
「じゃんけんをして負けた人が道を譲る、勝った方が先に進めるようになるの。それで、負けた人は初めから戻ってまた渡る。そして、最後に向こう側まで辿り着いた人が勝ち」
「なんだか面白そうね」
「やってみようぜ!」
私の話を聞いてくれた子供たちは早速じゃんけんを始めた。すると、先に飛び石をやっていた子が負ける。
「あー、負けた!」
「やった! ほら、初めからやり直しだぞ」
その子は飛び石から下りると、走って始めに戻っていった。勝った子は飛び石を進むが、またそこに子供が立ちふさがる。
「よっしゃ、じゃんけんだ!」
「ま、負けないよ!」
一度やり方を覚えてしまえば、あとは子供たち同士で盛り上がる。飛び石のあちこちでじゃんけんが始まり、飛び石エリアは大盛り上がり。イリスとクレハも一緒になって遊んでいた。
「何やってるんだよ、ノアも仲間に入れよ」
「そうだよ、早くおいで」
「うん、今行くよ」
他の子たちに誘われて、私は輪の中に入った。子供の遊びに夢中になるなんてちょっと恥ずかしいけど、今は子供だから仕方ないよね。
そのまま子供たちの輪に入り、みんなでこの遊び場で遊び続けた。
◇
辺りが赤く染まる夕暮れ時、遊び場ではまだ子供たちが遊んでいた。だけど、一人の子供が夕方だと気づく。
「あ、やばい! もう帰らないと!」
遊びに夢中で帰ることを忘れていた子供たち。その声を聞き、他の子供たちも慌て始めた。
「もう帰る時間? お母さんに叱られる!」
「急いで帰ろうぜ! 遅くなったら怒られる!」
「じゃあね!」
ワッとなって子供たちが遊具から離れて自分の家に一直線に帰っていく。遊び場にいた子供たちはあっという間にいなくなり、私たち三人だけが残った。
「みんな帰っちゃったね。私たちも帰ろうか」
「まだ遊びたいけど、暗くなったらやだもんな」
「またみんなで遊べますよ」
走って帰っていく子供たちの後姿を見守ると、私たちは反対側に向かって歩き始めた。
「二人とも、この遊び場はどうだった?」
「凄かったぞ! 色んな物があって、色んな遊び方があって、どれだけ遊んでも飽きないぞ!」
「体を使うものが多かったですが、どれも楽しい遊びでした」
二人に遊び場の感想を聞いてみると、好評なようで安心した。子供たちもずっと楽しそうに遊んでいたし、沢山交流ができてもっと仲良くなれたと思う。
「色んな子と対決したり、競争したり、楽しいことがいっぱいあったな」
「私、ブランコに乗って飛び降りる遊びがちょっと怖かったけどスリルがあって楽しかったです」
「ネット昇り競争は盛り上がったなー。途中で参加してない奴がネットを揺らしてきて、登りづらかったんだぞ」
「私は滑り台をみんなですべるのも楽しかったです。滑り台が結構早く滑るので、これもスリルがあって楽しかったですね」
二人とも色んな遊具で遊んでくれたみたいだ。みんなで遊んでいた光景を思い出すと、楽しい気持ちが沸き上がってくる。頑張って作ってよかったな、遊び場。
「でも、すごいな。ノアはいつの間にあんな遊び場を考えていたんだ?」
「見たことないものばかりでした。全部ノアが考えていたものなんですか?」
「えーっと……本に載っていたんだよ。こういうものがあるって」
「ふーん、そうなのか。本ってすごいんだな、知らないことが沢山載ってある」
「クレハも読んでみたらどうですか? きっと知らないことを知れますよ」
「ウチはいいよ。体を動かしている方が性に合っているから」
そうだよね、あんな見慣れない遊具を作っちゃうんだから、疑っちゃうよね。まさか、前世の記憶を頼りにーって言えないし、なんとかはぐらかすことができて良かった。
「次集まる日は数日後か……早くその日にならないかなー」
「クレハは気が早いですね」
「それじゃあさ、次にどんな風に遊ぶか考えてみたら? 遊び方は色々あると思うし、新しい遊びを思いついたほうが楽しそうじゃない」
「それいいな! どんな遊びがいいかなー」
「自分で遊びを考えるのは難しそうですね」
私の提案に二人とも腕を組んで考える。しばらく二人の唸り声が聞こえてくると、クレハの耳と尻尾がピンと立った。
「これはどうだ。逆さネット登り!」
「それはどんな遊びですか?」
「ネットを逆さになって登るんだよ。それで誰が早いか競争するんだ」
「難しそうな遊びだね。今度、やってみたらどう?」
「おう、みんなに話してやってみる!」
ネットを逆さになって登るなんて、かなりハードな遊びになりそうだ。というか、子供にできるんだろうか?
「イリスは何か思いついたか?」
「私は全然思いつきません。こうなったら、次に遊ぶ日までには何か考えないと」
「まぁ、まだ時間はあるし。ゆっくり考えてもいいんじゃない?」
「ふふん、考えついたウチの方が凄いな!」
「むむっ、クレハには負けませんよ」
クレハが茶化すとイリスがムキになった。そんな風にじゃれ合いながら進む帰り道は楽しくて、充足感で胸がいっぱいになる。
村にきて一年が経つが、ようやく子供らしいことができたと思う。ここまでくるのに沢山の困難があったけど、三人が力を合わせたお陰でなんとかやってこれた。
これからもこういう時間をとって、子供たちと交流を持って楽しく生活ができるようになれたらいい。友達をいっぱい増やして、楽しい思い出を作って、素敵な子供時代にするんだ。
「じゃあ、宿屋まで競争ね! よーい、ドン!」
「あ、ズルいぞ!」
「ま、待ってください!」
これからのことを考えるとワクワクして居ても立ってもいられなくなった。私が走り出すと、二人が後を追ってくる。楽しい笑い声は夕日に染まる帰り道に響き渡った。




