166.農家の子供との交流(5)
地魔法の耕す魔法を見せたら、タリアとルイはいい反応を見せてくれた。ワーッとなって盛り上がり、テンションが上がった。
「固い地面を耕すの大変なんだよね」
「そうそう。力は必要だし、石があったら掘り起こさないといけないし、面倒なことが多いのよね」
「でも、魔法を使うと簡単に掘り起こせている。子供の僕でもできるんだ」
「大人の人がやる仕事だからね、子供の私たちはできない。それを私たちができるようになるのは凄いことじゃない」
農家の子だから畑を耕すことがどれだけ大変なことかを知っている。鍬一本で耕すのには力や体力が必要で、とてもじゃないけど子供ができるようなことじゃない。でも、耕す作業はなくてはならない仕事だ。
その仕事を力も体力も使うことなくできる、その凄さにすぐに気づいた。しかも、それを使ったのが七歳の女の子なんだから、驚いた衝撃は計り知れない。
「ティアナはその魔法を使ったの?」
「……うん」
「すごいね、もう使ったんだ。畑は耕せた?」
「……うん」
「お父さんの手伝いができると嬉しいわよね」
「うん」
「じゃあ、沢山褒められたんじゃない?」
「うん、褒められた!」
おどおどしていたティアナだけど、嬉しい話を振られると明るく話してくれた。これはいい傾向だ、このまま仲良くなってくれれば嬉しい。
「あの……お父さんもお母さんも、とっても喜んでくれたの。私……嬉しかった」
「畑を耕せたんだ、そうだよね」
「しかもこんなに小さな子よ、農作業の戦力になるのは凄いわ」
「うん……私も嬉しかった。全部、魔法を教えてくれたお姉ちゃんのお陰」
ティアナがこちらを向いて微笑んでくれた、可愛い。すると二人もこちらを見てくる。
「どんな風に教えたの?」
「魔力を感じるところからはじめて、魔法を発動するように教えたよ」
「それだけでできる?」
「それだけだとしても、感覚的なものだから難しいと思うよ」
「そう簡単に覚えたら苦労はしないよねー」
それにティアナは魔法使いの卵の称号があったからこそ、あんなに短期間で覚えられたんだと思う。その称号がない人だとやっぱり時間がかかるんじゃないかな。
「それでも魔法を覚えてみたいな」
「うん、僕も。さっきの地魔法もそうなんだけど、魔動力の魔法も気になる」
「わ、私も……魔動力の魔法が気になる」
「その魔法が使えるようになったら、すごく便利じゃない? ねぇ、魔法を教えてくれない?」
三人の真剣な目が向いた。これは、新しい魔法使いを作るチャンス、魔法使いの友達を増やすチャンスだ。
「もちろんいいよ。でも、そう簡単に覚えられないと思うけど、いい?」
「もちろんいいわ。どれだけ時間がかかっても魔法を覚えたいもの」
「魔法を覚えれば楽しくなりそうだ。頑張ってみるから、教えてよ」
「私も。地魔法以外の魔法、魔動力とか覚えたい」
「じゃあ、このチームは魔法をみたいから魔法を覚えたいチームに変更だね」
私の言葉に三人とも頷いた。さて、ということは魔力を感じるところから始めないとね。
「はじめは魔力を感じるところからなんだ。私の手を握って」
「こう?」
「握ったよ」
「そしたら、私が魔力を手に集めるからそれを感じ取ってね。ティアナはもうちょっと待ってて」
「うん、分かった」
二人の手が私の手を握ると魔力を手に集める。少しの魔力を集めたけれど、それだけでは二人は何も感じられなかった。なので、もっと大きな魔力を集めてみる。
「あ、なんか感じる」
「うん、感じた」
「これが魔力だよ。この魔力が二人にはあると思うんだ。まずは自分の中に眠っている魔力を呼び起こすところからだよ」
「本当にこれが僕の中にあるの? 今まで全然感じなかったよ」
「私も感じたことないわよ。本当にあるのかしら」
「集中してみて、あるかもしれないから」
そのまま手に魔力を流して感じさせる。集中していると、つんつんと腕を突かれた。ティアナが隣にいて、ちょっと困ったような顔をしている。
「何をすればいいの?」
「あー、そっかティアナは魔法が使えるんだっけ。ティアナはどうしたい?」
「魔動力、使ってみたい」
魔動力か。賢者の特性で覚えた魔法だけど、普通の魔法使いに覚えられる魔法なのかな? やってみないと分からないし、とにかくチャレンジだ。
「じゃあ、魔動力の説明をするね。魔動力は魔力の力を使って物を動かす力なんだ。そのためには魔力を外に出さないといけない」
「魔力を外に?」
「そうだな……そこにある小石を魔力で包み込んでみて」
「魔力で包み込む……うん、やってみる」
ティアナは落ちている小石を見ると、手を構えた。集中してその小石を魔力で包み込もうとしている。
「あー、ダメ! 自分の中の魔力を見つけられない!」
「僕もだ、見つかんない! 本当にあるのかな?」
「ねぇ、魔力って私にもちゃんとあるの?」
「僕にはないの?」
ティアナに集中していると、タリアとルイが手を離して疲れたように草むらの上に横たわった。やっぱり、魔法使いの適性がないと魔力を感じること自体難しいらしい。
本当にこの子たちには魔力がないのかな? 私は二人を鑑定した。それぞれの能力の数値を見ていくと、魔力の欄にはちゃんと数字が描かれている。うん、魔力はあるみたいだ。
「二人ともちゃんと魔力はあるよ」
「どうして分かるの?」
「今、そういうのが分かるスキルを使ったから」
「へー、そんなスキルがあるんだ。って、ノアは魔法だけじゃなくてスキルも使えるんだ。凄いね!」
二人は体を起き上がらせた、その調子で頑張って欲しい。そうだ、作ってきたキャラメルを渡してもっとやる気を出してもらおう。
リュックの中からキャラメルの入った瓶を取り出して、みんなに一つずつ配った。
「これは何?」
「キャラメルっていうお菓子だよ。口の中に入れて舐めてみて」
「どれどれ……ん!」
「あまーい!」
三人がキャラメルを口の中に入れると、パアッと表情を明るくした。うんうん、どうやら気に入ってくれたみたいだね。
「何これ、美味しい! こんなの食べたの初めて!」
「甘くて、濃厚で……くせになりそうだ!」
「美味しい」
「これを食べて、頑張ってみようよ」
「うん、頑張ろう!」
「そうね、やる気が出てきたわ」
「私も頑張る!」
キャラメル効果でみんなのやる気が上昇した。この調子で魔力を感じ取れるといいな。
◇
「もう、ダメー!」
「疲れたー!」
夕暮れが迫ってきた時、とうとう二人の集中力が切れた。隣を見てみると、ティアナも疲れたような表情になっている。
「ティアナは魔力で小石を包み込めた?」
「ううん、できなかった。魔力を外に出して、包み込むのが難しい」
「そっか、難しいかー」
ティアナも上手く魔力を動かせなかったみたいだ。以前は簡単にできたのに、今回はできなくてしょんぼりしている。
「まぁまぁ、魔動力は特別な魔法だから、地魔法よりも難しいんだよ。だから、練習をいっぱいしないと覚えられないんだ」
「そっか、難しい魔法なんだね。私、諦めない。空を飛びたいもん」
しょんぼりしていたティアナだけど、その目はやる気に満ちていた。落ち込んだままじゃなくて良かった、これなら練習は続けられるね。
「ティアナのやる気はすごいなー。僕も負けてられない」
「私だって負けていられないわ。絶対に自分の中に魔力を引き出してやるんだから」
「そうそう、その調子。今日はもう帰る時間だから、この辺までにしようか」
「そうだね、もう帰る時間だ。ねぇ、家でも今の練習してもいいかな?」
「私も、私もやりたいわ!」
「あの……私も」
帰る時間が目前に迫っていても、三人のやる気は衰えない。うん、いい傾向だ。
「家でもやってもいいよ。タリアとルイは自分の魔力を感じること、ティアナは小石を魔力で包み込むことだね」
「ルイ、どっちが早く魔力を感じることができるか勝負よ!」
「望む所さ。僕は負けないよ。ティアナも勝負だ!」
「えっ、私も? ……うん」
三人で勝負か、面白ことになったな。誰が最初に達成するのか楽しみだ。すると、タリアとルイは立ち上がった。
「じゃあ、帰るね。次は三日後に集まる予定よ」
「ノアも三日後に来れる?」
「うん、大丈夫だよ」
「そう、なら良かった! じゃーねー!」
「バイバイ!」
タリアとルイはそれだけをいうと、走って家に帰っていった。残された私たちもゆっくりと立ち上がる。
「ティアナはどうする?」
「さっきのお家の所でお兄ちゃんを待つの」
「そう、私と一緒だね。それじゃあ、行こうか」
「うん」
手を差し伸べると、握ってくれる。二人で手を繋いで、青い屋根の家まで歩いていった。なんだかんだで、楽しい一日だったな。これからもこんな風にのんびりと遊べたら素敵だろう。




