165.農家の子供との交流(4)
一番大きな男の子が取り仕切ると、子供たちは一斉に手を上げた。
「森、森に行きたい!」
「ごっこ遊びがしたいな!」
「大人たちをからかいに行こうぜ!」
「虫取りがいいなー!」
「魔法、魔法がみたい!」
はい、はい! と、次々とやりたいことを言ってきた。なるほど、こうやってみんなの意見を聞くんだね。じゃあ、これからどうするんだろう?
「よし、分かった! 森に行く奴、ごっこ遊びをする奴、大人のところに行く奴、虫取りに行く奴、魔法をみたい奴に別れろ!」
って、そのまんまの割り振りだ。でも、子供たちは慣れたようなもので自分がやりたいと思ったところへと移動をした。クレハとイリスは少し困惑しながらも、興味があるところへと移動をする。私は……魔法のところになるよね。
そうやって、子供たちが自分たちが興味のあるところへ移動が終わった。
「じゃあ、このメンバーで遊ぶこと。村の外には出ないように気をつけろよ。魔物が出そうなところには絶対に近づくなよ」
「はーい」
「じゃあ、行こうぜ!」
「私たちはこっちよ」
男の子の一声で子供たちは動き始めた。バラバラに散らばっていくのを見て、あることに気が付いた。
「クレハ、イリス。遊びが終わったらどうする? ここに集合するか、それぞれ家に帰るか、どっちがいい?」
「じゃあ、ここに集合して一緒に帰ろうぜ」
「そのほうがいいですね、賛成です」
「じゃあ、遊びが終わったらここに集合ね」
クレハは森へ行くチーム、イリスはごっこ遊びをするチームに別れていった。散らばっていく子供が多い中、魔法をみたいと思った子供たちはここに居残っている。その中にはティアナも残っていた。
「じゃあ、どこに移動する?」
「うーん……ねぇ、魔法ってどこで出せるの?」
この場に残った子たちが話しかけてきた。魔法を出せる場所かー。
「邪魔なものがないところがいいな」
「それだったら、あっちに行こう。あっちだと畑もないし、広い場所になるから」
二人の子供が先頭を行き、その後を私が追う。ティアナは恥ずかしそうに私の後ろに隠れながら進んでいった。そのティアナが話しかけてくる。
「お姉ちゃんがいて良かった」
「いつもはどうしていたの?」
「お兄ちゃんについていってたの……まだ恥ずかしいから」
「そっか、なら今日は大丈夫そうだね」
あまり知っていない子供がいるからか、ティアナは恥ずかしそうだ。なんとか、その子たちとも仲良くなっていて欲しいけれど、一日じゃ無理かな?
考えながら歩いていると、畑も家もない草が生えた平地にやってきた。
「ここなんか丁度いいんじゃないかしら」
「うん、いいと思う。えーっと……名前なんだっけ?」
「私の名前はノアだよ、十一歳になる。この子はティアナで七歳だよ」
「私はタリアよ、十歳になるわ」
「僕はルイ、九歳だよ」
十歳のタリアはくすんだ金髪をハーフアップにしていて、九歳のルイは緑色の短い髪をしている。ティアナは茶色い長い髪をしているし、私は水色のセミロング髪だ。別々の髪色が揃うと、目の前が賑やかだ。
「山菜採りをした時に見せてくれた魔法がどうしても忘れられなかったの」
「僕も、あんな魔法があったなんて全然知らなかったよ。魔法っていえば火を出したり、水を出したりするものとばかり思っていたから」
「魔動力っていう魔法なんだよね。特別に覚えた魔法なんだ」
「特別な魔法なのね! そんな魔法が使えるなんて凄いわ!」
「僕たちとそんなに年齢が変わらないのに、魔法が使えるだけでも凄いよ。君もその魔法に興味があるの?」
「……うん」
タリアとルイはとても楽しそうに魔法のことを喋ってくれた。時々、ティアナにも話しかけてくれるから助かる。ティアナは魔法の話になると、警戒が緩むからどんどん魔法の話をしよう。
「じゃあ、早速魔法を見せてくれない?」
「魔法もいいけれど、その魔動力っていう魔法でまた空を飛んでみたい」
「わ、私も……飛んでみたいな」
「いいね、やりましょう。ということで、よろしくね」
「分かったよ」
後ろに隠れていたティアナを二人の隣に並べると、手を前に構える。そして、魔動力を発動させ三人の体を浮かせた。
「わっ、すごい浮いた!」
「もっと、高くできる?」
「もちろん」
「わー、高い!」
「動きも欲しいわ」
「分かったよ」
「すごい……」
魔動力を使って三人を縦横無尽に飛ばした。高くまで上げたり、左右に動かしたり、とにかく色んな動きをしまくった。三人はとても楽しそうに宙を泳ぐ。
しばらく三人を宙で泳がせると、三人は満足して地面に戻ってきた。
「わっ、なんか変な感じ」
「フワフワするね」
「ちょっと変」
「そりゃあ、しばらく宙に泳いでいたからね」
「でも、楽しい!」
「うん!」
「うん」
立っていると不思議な感じがした三人はその場に座り込んだ。私も一緒に座り込んで、話をする。
「魔動力、どうだった?」
「とても良かったわ! まだ泳いでいたいくらいよ」
「思っていた魔法とは違うから、どんな力なのか気になったよ」
「凄い魔法」
三人ともご満悦だ。珍しい魔法だけど、受け入れられて本当に良かった。怖いってなったら、やり辛くなるからね。
「他にどんな魔法が使えるの?」
「うーん、そうだなぁ」
使える魔法を全部言ってもいいけれど、あんまり言い触らされたくないからなぁ。子供は純粋だから、凄いものを見ると素直に話しちゃうからね。
「火も使えるし、水も使えるよ。魔法で魔物を倒したこともあるしね」
「魔物を倒せるの、凄いじゃない!」
「冒険者みたいなこともやってるのは凄いなー」
「お姉ちゃんって強いの?」
「うーん、強いかどうかは分かんないや。あまり戦ったことがないからね。あの二人なら強いと思うよ」
「一緒に来てた子たちね。あの子たちも魔物討伐をするのねー」
「僕たち農家は魔物討伐ができないのに、君たちができるのは凄いね。魔法のお陰?」
私たちは魔物討伐をできるのは、魔法が使えるからだろう。クレハは身体強化、イリスは聖魔法、私は色んな魔法。それらを活用するから、活躍できている。
「魔法って凄いんだよ。魔物討伐もできるし、農作業にも使える。使い方次第でどんな役にも立つんだ」
「へっ、魔法って農作業にも役に立つの?」
「そんなの知らないわ」
「あ、地魔法」
「君、何か知っているの?」
二人は不思議そうな顔をしてティアナを見た。ティアナは少し恥ずかしそうにすると、ぽつりと喋り出す。
「えっとね……地魔法を使って畑を耕せるの」
「魔法で畑を耕せるの?」
「そんなことができる?」
「うん、できるよ。ティアナ、やって見せて」
「う、うん……」
「えっ、この子が魔法を?」
二人が驚いてティアナを見ると、ティアナは恥ずかしそうに俯いた。やっぱり、恥ずかしくなって自分の魔法を見せるのは早かったかな?
「どうする、私がやろうか?」
「……ううん、私がやる」
おっ、引っ込まなかった。ティアナはしっかりとした目をして、やる気を漲らせて拳を作る。そして、地面に手を付けると深呼吸をした。
「えいっ」
ティアナが地魔法を発動させると、固い地面がぼこぼこと動き出してその場が耕された。
「えっ、地面が勝手に動いて……」
「これは……柔らかい」
二人は驚いて耕された地面を触った。固かった地面が一瞬で柔らかい地面になったことに、目を丸くした。
「すごい、本当に耕されている」
「畑と全然違わないよ、これ」
「一瞬でこんなことができるなんて、魔法って凄いね!」
「それもそうだけど、こんなに小さな子が魔法を使えるのが凄いわよ」
褒められたティアナは照れ臭そうに俯いた。魔法を見た二人はテンションが上がり、お喋りが止まらない。
「この魔法使えるわ!」
「うん、僕らにとっては凄い魔法だ! 使ってみたい!」
「いいわね、それ!」
魔法を見たい、ということで集まったのに、今度は魔法を使ってみたいに変わりそうな気配がした。これはひょっとして、魔法使いを増やすチャンス?




