164.農家の子供との交流(3)
朝食を食べ家に戻ってきた私たちは、まず家畜の世話をした。小屋を掃除して、水と餌を与えて、卵を回収して、牛乳を搾る。それらが終わると今度は放牧した。春の温かな日差しの中、みんな気持ちよさそうにしている。
「のんびりしているみんなを見ると癒されますねー」
「そうだなぁ。魔物討伐なんて、こんなにゆっくりできないもんなー」
「気持ちよさそうな姿を見ていると、こっちも気持ちよくなるよね」
モー、と鳴くモモ。コッコッコッ、と鳴く鶏たち。のどなか空気が流れる中、ボーッとしながらそれらを眺める。しばらく眺めてのんびりとした空気を味わうとようやく動き出す。
「さて、じゃあキャラメルづくりでもしようか」
「そうですね。どんなお菓子ができるのか楽しみです」
「アメのようなお菓子だろう? どんな甘いお菓子なんだろう」
「それは作ってからのお楽しみ」
お喋りしながら家の中に入ると、洗浄魔法をかけて体を綺麗にする。これで小屋を掃除した汚れもとれただろう。
背負っていたリュックの中から牛乳を入れた瓶をキッチンカウンターに置く。その牛乳に錬金術の魔法の殺菌をかけると、目に見えない菌がなくなった。これで牛乳が使える。
次に竈に薪を使って火を点けて、フライパンを温める。必要な材料や道具を持ってきたら、キャラメルづくりの開始だ
「じゃあ、キャラメルを作っていくよ。フライパンに牛乳、砂糖、バターを入れて煮詰めていく」
「へー、後は何をするんですか?」
「あとは焦げないように混ぜていくだけだよ」
「そんなんでいいのか? クッキーづくりの時とは大違いだぞ」
「簡単で美味しいお菓子だよ」
二人が守る中でぐつぐつと煮えていく材料をかき混ぜる。しばらく熱を加えていくと、材料が煮詰まっていきもったりとしてきた。
「この状態になったら、いつもパンを焼く鉄板に流し入れて、冷やして固めるよ」
「えっ、もう終わりなんですか?」
「本当にできたのかー?」
いつも料理に時間をかけていたから、少ない時間と手間でできたことに二人とも半信半疑だ。冷却の魔法を使ってキャラメルを冷やし固めると、鉄板から取り出してまな板の上に乗せる。
大きな四角いキャラメルを今度は包丁で一口サイズに切っていく。丁度いい大きさに切り終わると、指先で摘まめるくらいの大きさになった。キャラメルの完成だ。
「はい、これがキャラメルだよ。食べてみて」
二人に食べるように促すと、キャラメルを摘まんで良く見た後に口の中に放り込んだ。しばらく、口の中で転がしていくと、二人の表情が明るくなった。
「甘いですね!」
「アメとは違う甘さだぞ!」
「なんていうんでしょう、濃厚な甘さが口に広がって幸せです」
「この甘さは初体験だぞ!」
キャラメルを食べた二人は美味しそうに口の中でキャラメルを転がした。私も一口食べる。すると、牛乳とバターの濃厚な味に砂糖の甘味が加わった独特の甘さが口の中に広がる。
「うん、美味しい。上手にできているね」
「アメとは違う美味しさですね」
「ウチ、アメよりこっちのほうが濃厚で好きなんだぞ」
「気に入ってくれて嬉しいよ。じゃあ、この量じゃすぐに無くなっちゃうから、あと二回くらい作ろうか」
まだ作るというと二人は顔を見合わせて、ちょっともじもじしながら口を開いた。
「あの……家にも常備しませんか?」
「魔物討伐をする時とか持っていきたいんだぞ」
本当にキャラメルの味を気に入ったみたいだ。
「もちろん、いいよ。キャラメル入りの瓶でも作ろうか。そうしたら、いつでも好きな量を持っていけるよ」
「キャラメル入りの瓶……いい響きです」
「その瓶を抱えて眠ってみたいぞ」
「じゃあ、沢山作ろうか」
「次、私がやってみたいです」
「ウチも、ウチもやってみたいぞ!」
三人で交代してキャラメルを作ることになった。お喋りをしながらするお菓子作りはとても楽しい。午前中はキャラメル作りに夢中になった。
◇
キャラメル作りをした後、一緒に昼食を作って早めに食べた。それに遅く帰ってきても良いように夕食を作っておき、時間停止をしてテーブルの上に置いておいた。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
「おう!」
お昼丁度に私たちは家を出た。目的の青い屋根の家までは距離があるから、少し早めに出た形だ。普段、お昼に村の中を歩かないので新鮮な気持ちになる。
「山菜採りで出会った子もくるんでしょうか?」
「どうだろうねぇ。農家の子たち、全員集まるのかな?」
「集まったらいいんだぞ。またあいつらと遊びたいぞ」
農家の子たちが集まるのは知っているけれど、どれだけの子が集まるかは分からない。見知った顔がいると嬉しいんだけど、どうかなぁ?
話ながら進んでいくと、農家の家が立ち並ぶ場所にやってきた。今は休憩時間なのか、畑には人は見当たらない。そのまま進んでいくと、青い屋根の家が見えてきた。
良く見ると、その近くには子供たちが集まっているみたいだ。良かった、この時間で間違いないみたいだ。私たちは駆け出していくと、向こうもこちらに気が付き、集まってきた。
「あ、山菜採りで見た子だ!」
「狼の獣人の子もいるぞ!」
「魔法使いの子だー!」
近くまで来ると、物珍しい私たちは一斉に囲まれた。
「遊ぶ日に来るのは初めてじゃない?」
「どうして、今まで来なかったの?」
「なぁ、三人だけで住んでいるのって本当か?」
いっぺんに話しかけられ、どれに答えていいのか分からなくなる。二人も困惑しているみたいだ。
「そんなに話しかけられたら答えられないよー!」
「あ、ごめん!」
「そうだよねー」
「みんな、順番ずつに喋るんだー」
声を上げると、みんな分かってくれたみたいで喋るのを止めてくれた。とりあえず、これで落ち着いて喋ることができそうだ。
「子供はこれで全員集まったの?」
「いいや、まだ来るはずだけど……ほら、きた!」
「あっちからも来たよー」
「向こうからも来た!」
丁度集合する時間だったのか、続々と他の子供が集まってくる。山菜採りで見知った子ばかりで、初めてみる子はいなかった。あの山菜採りにはほとんどの子供が参加していたんだね。なんだか、ホッとしちゃった。
「あ、お姉ちゃん!」
聞きなれた声がして振り向くと、そこにはディルの後ろに隠れているティアナがいた。
「ティアナも来てたんだ」
「お姉ちゃんも、嬉しい」
「ノアもいたのか。ここに来るのは初めてじゃないか?」
「うん。今日集まるって聞いて、初めてきたの」
この村の新しい住人になったディルとティアナも、子供の集まりに参加していたみたいだ。まぁ、農家の子だから子供が集まっている情報も早く知ったのだろう。
でも、こんな集まりにティアナも参加しているなんて驚いた。本人はまだ馴染めていないけれど、これから交流を深めていくときっと仲良しの子ができるはずだ。
「あ、山菜採りに来てた子だ!」
「ここに来るの初めてじゃない?」
今来た子たちも私たちの姿を見て興味津々だ。ざわざわと賑やかになると、一番大きな男の子が仕切り出した。
「よし、これで全員集まったな! じゃあ、何で遊ぶか相談するぞ!」
どうやら、みんなで相談して決めるらしい。どんな遊びになるのか楽しみだ。




