163.農家の子供との交流(2)
農家の家が立ち並ぶ場所に行くと、農家の人たちは畑に出ていた。畑を耕し、種を蒔き、水を撒いている。そんな長閑な光景の中に農家の子供たちはいた。
親と一緒になって、農作業のお手伝いをしているみたいだった。やっぱり農家の子は農作業の手伝いをしているものなんだな。一緒に遊べる時間があるのか、ちょっと不安になってきた。
それを見ていたところで話は進まない。私は意を決して、そこの畑へと入っていった。中に入ると、それに気づいたおじさんが私に近づいてくる。それは以前、私の農作業を手伝ってくれた人だった。
「ノアじゃないか、久しぶりだな」
「お久しぶりです。農作業はどうですか?」
「順調に進んでいるよ。今年も不作にならないといいんだがな、こればっかりはなってみないと分からない。それで、何か用でもあるのか?」
「農家の子たちが集まって遊んでいるみたいですね。今度からその中に私たちも入れてもらえないかなーっと思ったんです」
「……そうか、そうだよな。ノアは今まで畑仕事ばかりやってきたし、他の子たちは魔物討伐をしていたんだもんな。だから遊びをみんなとしていなかったな」
私が農家の子たちと遊びたいというと、おじさんはちょっと悲し気な顔をして何度も頷いた。
「村の状況は落ち着いたし、ノアたちは思う存分遊んでもいいと思う。今、息子を呼ぶな。おーい、ちょっと来い!」
おじさんが声を上げると、遠くで作業していた子供がこちらに気づいて近づいてきた。
「どうしたの、父さん」
「この子のことは分かるか?」
「えーっと、あぁ! 山菜採りの時に魔法を使ってくれた子だね!」
「ノアっていうんだ。子供三人だけで暮しているって前に言っていただろう? それがこの子なんだ」
「なるほど、そういうことだったんだね」
「それでな、この子らは働いてばかりで農家の子と遊んだことがないんだ。だから、今度の休みに一緒に遊んでくれないか?」
「もちろん、いいよ!」
良かった、農家の子の輪には入れそうだ。その男の子は私の前に行くと、手を差し出してくる。私はその手を握った。
「よろしく! 明後日にみんなで集合するんだ、その時に来る?」
「うん、行く。他にも二人いるけれど大丈夫?」
「もちろん、大丈夫! 人数が多い方が楽しいし、遊んだことのない子だからみんな大歓迎だよ。待ち合わせ場所はあそこにある家の周辺ね。あそこが一番集まりやすいんだ」
男の子が指さしたのは青い屋根の大きな家だった。とても分かりやすい位置にある、これだったら間違いなく集合できそうだ。
「そうそう、休みって言っても午前中は畑仕事をしているんだ。遊ぶのは午後からね。だから、昼食を食べたら来て」
「休みと言っても午前中は働いているんだね。分かった、昼食を食べてから行くよ」
「今は作付けが忙しいからね、午後だけなんだ。季節によっては一日中休みっていう日もあるよ」
春は農家にとって大切な時期だから忙しいらしい。それでも子供の遊べる時間を作って貰えるのはありがたいよね。私は普通の農家とはやり方が違うから、注文が入った時に忙しくなるくらいか。
「じゃあ、明後日楽しみにしているよ」
「うん、私も楽しみにしているよ」
そう言って男の子は畑仕事に戻っていった。それを見送るとおじさんと軽く話して、私も家へと戻っていった。遊ぶ時間を確保したから、しっかりと働かなくちゃね。
◇
そして、遊ぶ日の当日がやってきた。清々しい朝日に包まれながら起きると、気分は上向きだ。
「二人とも起きてー」
「……おはようございます」
「はよー」
二人を起こすと、ちょっと眠たそうに体を起こした。それから、二人と一緒に服に着替える。その頃になるとようやく頭が覚醒してきた。
「今日はとうとう遊ぶ日だな! 昼が楽しみなんだぞ!」
「そうですね。山菜採りの日はちょっとした交流でしたが、今回は違いますね」
「どんな遊びをするか楽しみだね」
おしゃべりをしながら家を出ると、温かい日差しが体を包み込む。こんな気持ちのいい日で外で遊べるなんて、とてもいい一日になりそう。三人でそのままお喋りをしながら宿屋へと向かった。
宿屋に着き、食堂の中に入るとすぐにミレお姉さんに声を掛けられる。
「おはよう。今日はとうとう遊ぶ日だね」
「はい、とても楽しみです!」
「どんな遊びをするのか楽しみなんだぞ」
「ふふ、子供らしくていいと思うわ。さぁ、腹ごしらえをしなくちゃね」
私たちが席につくと、近くにいた冒険者たちが話しかけてくる。
「よお、今日は三人で遊ぶ日なんだってな。良かったな、遊ぶ奴がいて」
「三人で遊んだことはあるけれど、他の子たちと遊ぶのは山菜採り以来だから楽しみだよ」
「山菜採りも楽しかったですが、普通の遊びじゃなかったですものね」
「今度はしっかり遊ぶことになりそうだな!」
「ははっ、子供らしくていいじゃないか。今まで沢山働いてきたんだ、ようやくこの村にきてのんびりできそうで良かったぞ」
冒険者のみんなが温かく見守ってくれて本当に嬉しい。いつも一緒に朝食を取っていた仲だけど、こんなに親しくなれるなんて思ってもみなかった。これも二人が魔物討伐を頑張ってくれているからだよね。
「はい、おまちどうさま。今日の朝食プレートよ」
ミレお姉さんが朝食をテーブルに置いてくれた。今日のメニューは温かいスープ、サラダ、燻製肉、卵焼き、パンだ。うん、今日もどれも美味しそうだ。
「「「いただきます」」」
「はい、召し上がれ」
私たちは朝食を食べ始める。どれも、美味しくてどんどん食が進んでしまう。
「今日の午前中はどうします? 少しでも農作業をしますか?」
「うーん。そうだ、折角だからお菓子を作って持っていかない?」
「お菓子?」
「そう、農家の子たちと一緒に食べるお菓子だよ」
お近づきのしるしに、という感じでお菓子を持っていったほうが馴染みやすいんじゃないかな。山菜採りの時しか遊べてないし、仲良くなるきっかけになったらいい。
「一緒にお菓子を食べる、ですか。いいんじゃないですか、一緒に食べると楽しいですし」
「それで、何を作るんだ? クッキーか?」
「クッキーもいいけど、キャラメルを作ろうと思う」
「それはどんなお菓子ですか?」
「牛乳と砂糖とバターを溶かして固めたお菓子だよ。口の中で溶かしながら食べるお菓子なんだ」
「へー、そんなお菓子があるのか」
二人ともキャラメルがどんなお菓子なのか良く分かっていないので、ぼんやりとしか想像できていないみたいだ。
「アメみたいなお菓子だよ」
「アメですか、それなら想像できます」
「美味しいよなアメ。なるほど、そんなお菓子なんだなー」
良かった、イメージができたみたいだ。キャラメルだとクッキーよりも簡単に作れるし、沢山の子供にあげることができる。一粒でも甘味を感じることができるから、ちょっとしたおやつにピッタリだ。
「じゃあ、家に帰ったらキャラメルづくりだな!」
「その前に家畜の世話をしないといけませんよ」
「牛乳も必要だから搾らないとね」
「早く食べて行こうぜ!」
キャラメルに興味を持ったのか、クレハは急いで朝食を食べ始めた。もうクレハはしょうがないな。そう思った私たちもできるだけ早く朝食を食べ進めた。




