162.農家の子供との交流(1)
この村に来て一年が経とうとしている。一年前はその日生きるのに精一杯だったけど、働き始めて少しずつ生活が豊かになった。食べる物、着る物、住む所……他にも色々と充実していった。
少しずつ充実していったけれど、まだ私たちに足りないものがある。それは友達の存在だ。働く上での知り合いは沢山いるけれど、働くこと以外での知り合いはほどんどいない。
今まで働くことを精一杯頑張ってきたから、そこまで交流を持つ余裕がなかった。だけど、今は違う。仕事も生活も順調で困ったことはほとんどない。生活にゆとりができてきた。
それに夏になれば、砂糖とマジックバッグを売ったお金が手に入るから、生活は今よりもグッと楽になるだろう。もう、私たちは必死に働かなくても済むようになる。
だから、働くこと以外での知り合いを増やそうと思った。それが友達の存在だ。私たちに足りないゆとりは友達を作って、一緒に遊ぶことだ。そうしたら、きっと今より楽しい毎日を送れると思う。
「というわけで、一年も経つのにこの村に友達が全然いないことは問題だと思うの。だから、友達を作りに行こう」
宿屋の食堂で朝食を食べながら友達作りの相談をする。
「そうですね、今までの私たちは生活を向上させようと頑張ってきました。だから、働いてばかりでろくに友達を作る機会はなかったです」
「ノアは畑仕事、ウチらは魔物討伐ばかりだったからなー。友達と言えるのはいないな」
「流石に友達が私たち三人だけっていうのは寂しいと思うの。だから、この春からは積極的に交流を持ちにいこう」
「子供たちってどこに集まっているんでしょうか? それに農家の子だと、家の手伝いもありますよね」
「だったら、みんな好きに遊べていないのか?」
農家の子たちはどんな生活をしているのか分からない。遊ぶ時もどうやって遊んでいるかは分からないから、どうやって輪に加わったらいいのかも分からない。
さて、どうするべきか。
「農家の子たちと遊びたいの?」
その時、話を聞いていたミレお姉さんが近づいてきた。
「うん、そうなの。私たちって働いていたばかりで、この村の子供と仲良くなくて友達がいないんだ」
「そうよね、三人は畑仕事に魔物討伐を忙しかったもの、友達を作る暇はなかったわね」
「今なら余裕ができたし、農家の子たちと交流を持とうと思ったんだ。でも、どうやって交流を持とうかなって思って」
「それなら簡単よ。農家の子たちは週に何回か、仕事を休んで集まって遊んでいるみたいなの。その時に一緒に遊べばいいんじゃないかしら」
なるほど、そんな日があるのか。まぁ、農家の子だからって毎日仕事だけで終わらせるのは酷な話だよね。私たちが一緒に遊びたい場合はそのお休みの日に交流できればいいんだ。
「まずはいつお休みの日か聞き出したらいいんじゃないかしら。そうしたら、一緒に遊べる日も分かるわよ」
「そうだね、ちょっと聞いてみるよ。教えてくれてありがとう」
「どういたしまして。友達がいっぱいできると良いわね」
情報を教えてくれたミレお姉さんはそう言って去って行った。すると、近くで話を聞いていた冒険者たちが話しかけてくる。
「三人ともずっと働いていたもんなぁ。この機会に沢山友達ができるといいな」
「はい、この間一緒に山菜採りをして楽しかったので、楽しみです」
「そうか、もうそういう機会があったのか。それなら、あとは一緒に遊ぶだけだな」
「でも、ウチらが遊んでも大丈夫なのかな? 魔物討伐しなかったら、魔物が減らないだろう?」
「はっはっはっ、そんなことを気にしているのか。確かに倒す魔物の数は減るが、それくらいどうってことはない。その分、俺らが倒してやるから気にするな」
ほとんど毎日魔物討伐をしていたから、急に休むとなると心配になっちゃったみたいだ。でも、その心配を冒険者が晴らしてくれた。自信満々に自分たちが倒すと宣言すると、二人の表情が明るくなる。
「じゃあ、私たちは少し遊んでも大丈夫だっていうことでしょうか」
「おう、もちろんだ。子供は遊ぶのも仕事だからな、しっかり遊んでくるんだぞ」
「それに二人はかなりの数の魔物を倒しているだろう。この村に貢献できているし、少しくらい魔物討伐を休んでも大丈夫さ」
「へへへ、そうか。それを聞いて安心したぞ」
「っていうか、子供のくせに働きすぎだってーの。少しは子供らしくしろ」
冒険者たちに温かい言葉をかけられた二人は安心したような顔をした。二人は冒険者に認められているみたいだし、安心して魔物討伐を休めるみたいだ。
「お前らが頑張ったお陰で、俺らは美味い飯が食える。魔物の数は減って、村は平和になる。ホント、お前らがここに来なかったら今頃どうしていたか、考えたくもないぜ」
「一年前は食べものがなくて本当に辛かった。久しぶりに食べたパンの味、今でも覚えているぜ」
「この村に貢献したお前たちが休んでも、文句を言う奴はいねぇよ。もし、いたとしたら俺たちがそいつらに説教してやるぜ」
冒険者の頼もしい言葉を受けて、私たちの心は決まった。
「そう言ってもらえると嬉しいです。私たち、ちょっと遊んできます」
「大勢で遊ぶなんて、孤児院ぶりぐらいだぞ」
「心置きなく遊べるね」
今まで精一杯頑張ってきたお陰だろう、誰も文句は言わなかった。
「じゃあ、いつ子供たちが集まっているのか聞いてくるね」
「はい、よろしくお願いします」
「ノア、頼んだぞ」
とりあえず、今日はいつも通りだ。二人は魔物討伐をして、私は小麦の生産。それが終わったら、農家の所へ行って子供たちのコンタクトをとろう。そしたら、遊ぶ日が分かるはずだ。
◇
二人は魔物討伐に行き、私は家畜の世話をした後に畑仕事をする。今日も分身魔法を使い、早く仕事を終わらせることができた。いつものように作物所に小麦を売りに行く。その時、コルクさんに今回のことを相談する。
「農家の子供たちと遊ぶか、いいんじゃないか? ただ、小麦の量が減ってしまうのは辛いがな」
「他の町からの小麦の買い付けは多いの?」
「そうだな、去年のことがあると大変だから、どの町も備蓄を多くしているみたいだ。だから、いつでも小麦を作れるウチから買い付けに来る商人はいるな」
「そっか……なら、小麦を作る量を増やす? 今後はこういった休みを取ると思うから、ちょっとは小麦の量が減ってしまうから」
「できるのか? でも、そうすると負担が多くないか?」
「分身魔法で分身を増やすから問題ないよ」
小麦が不作だったから去年はどこも散々な目にあってきた。だから、そうならないためにも各町で小麦の備蓄が進んでいるみたい。そうなると、村に残る小麦の量が減ってしまう。
しかも、この村には植物魔法を使える私がいる。その事は各町が知っているから、在庫があるところにどんどん買い付けがされていく。売れるのはいいけれど、村から小麦が無くなる事態は避けたいところだ。
私の分身魔法を使えば、他の農家の力を借りずに小麦の生産が可能になった。今までは畑のスペースを制限していたけれど、働き手が自由自在に増やせるのであれば畑をもっと拡張してもいいだろう。
「ノアに無理がない範囲で小麦の量を増やしてもらえると助かる」
「うん、分かった。村に在庫ができるように小麦の生産を増やすね」
畑を拡張して小麦の増産をすることに決まった。これで安心して遊ぶことができる。私は作物所を後にして、農家のある方向へと歩き出した。




