149.新しい住人が来た(2)
「ほら、ティアナも挨拶しな」
私が考えていると、ディルが妹のティアナを紹介しようとした。ディルの後ろに隠れているティアナは恥ずかしそうに前に出てくる。
「あの……ティアナです、七歳です」
「妹は恥ずかしがり屋なんだ。よし、良く言えたぞ、偉いぞ」
ティアナは頭を撫でられると嬉しそうな顔をした。でも、すぐにディルの後ろに隠れてしまう。もう少しお話がしたかったんだけどな……
「ごめんな、見ての通りあんまり人前に出ることが苦手なんだ」
「へー、そういう子がいるんだな」
「クレハみたいになんでも飛び出さないみたいですよ」
「ウチはちゃんと自制出来ているぞ」
うーん、ティアナが気になるから話してみたいんだけど。そう思っていると、ティアナと目が合った。すると、ティアナはハッとした顔をして恥ずかしそうに顔を伏せる。
これは、話しかけるのも大変そうだ。何か話題を出せればいいんだけど……そうだ!
「私、魔法が使えるんだよね」
「魔法? それは本当か?」
「うん、見てみる?」
「みたい、みたい! ティアナ、良かったな魔法だぞ!」
「……本当?」
魔法と聞いたティアナがディルの後ろから少し出てきた。どうやら、魔法に興味があるみたいだ。
「ティアナは魔法使いに憧れているんだ。大きくなったら魔法使いになりたいっていうくらいにな」
「へー、そうなんだ」
「目標を持つことはいいことなんだぞ」
「魔法使いですか、なれるといいですね」
魔法使いの卵の称号を持っていて、魔法使いに興味がある。これはもう運命だね。
「お姉ちゃん、魔法見せてくれる?」
「もちろん、いいよ」
私は片手を前に出すと、弱めの魔法を発動させる。
「まずは火魔法」
「わっ、火が出た」
「次は水魔法」
「水が出てる、魔法って凄い」
火魔法や水魔法を使うと、ティアナが目を輝かせながら見てくれた。これで少しは距離が縮まったかな?
「ウチも魔法が使えるぞ。身体強化の魔法!」
すると、今度はクレハが魔法を披露する。身体強化の魔法を唱えると、高くジャンプして見せた。それを見ていたティアナは目を輝かせながら拍手をする。
「私も魔法が使えますよ、聖なる壁!」
イリスは聖なる壁を披露した。透明な壁が目の前に出来て、はじめは不思議そうな顔をしていたティアナだったけど、その壁に手を当てて驚いていた。
「すごい、魔法って色んなことができるんだ」
控えめだったティアナが魔法の魅力に虜になっているみたいだった。もうディルの後ろに隠れなくてもいいのかな? と、思っていたら今度は恥ずかしそうにもじもじしている。
「お姉ちゃんたち凄いなぁ。私も魔法が使いたいな」
「でも、ティアナは魔法使えなかっただろう?」
「うん……魔法を唱えても何も起こらなかった」
へー、ティアナは魔法が使えるようになりたいんだ。鑑定で見た時には、取得魔法は何もなかった。だから、称号があっても魔法が扱えなかったんだ。この称号は魔法が生えてくるような称号ではないのかな?
魔法使いになれる素質があるからと言って、初めから魔法が扱えるわけではないんだ。ということは、習えば魔法が扱えるってことになるよね。
「良かったら、私が魔法を教えようか?」
そう伝えると、ティアナと目が合った。でも、それは一瞬だけですぐに顔を伏せられる。
「ありがとう。でも、恥ずかしがり屋のティアナにはちょっと難しいと思う。ほら、慣れた人じゃないと中々心を開かないからな」
ディルがいうように、魔法を教えるためにはティアナと仲良くなる必要がありそうだ。魔法使いの仲間が増えるのは嬉しいし、ティアナと友達になりたいんだけどな。
「ティアナ、魔法を教えてくれるっていうけれど、どうする?」
「……恥ずかしい」
「でも、魔法に憧れてたんだろう? 教えてくれるっていうんだから、教えてもらえばいいじゃないか」
「……ううん、いい。自分で魔法を使えるようになる」
「ティアナ……」
どうやらディアナは恥ずかしがり屋は筋金入りみたいだ。お兄ちゃんの話を聞いても、うんとは言わない。まぁ、突然出会ったばっかりの人に言われたら、なんか嫌だよね。
「折角言ってくれたのにすまないな。きっと馴染めば、大丈夫なんだろうけど」
「ううん、いいよ。性急に物事を進めちゃったし、気にしないで」
「ティアナもいいけど、俺とも仲良くしてくれよな。大体は父さんや母さんの手伝いをしていると思うけれど、それ以外で遊ぶ奴が欲しかったんだ」
「ウチはいいぞ! っていっても、ウチも魔物討伐でいないことが多いからなぁ」
「休みの日とか合えば、一緒に遊べますよ」
「だったら、お互いの休みを合わせて一緒に遊ぼうぜ!」
ティアナも気になるけれど、ディルとは仲良くなりたい。お互いに忙しい身だけど、暇な時間を利用して一緒に遊ぶこともできそうだ。いずれまとまったお金が入ってくるし、仕事の量はセーブしても大丈夫かも。
「じゃあ、違う奴とも話してくるな。ティアナも一緒に行くか?」
「……ううん、いい。お母さんと一緒にいる」
「そうか……まぁ、その内ティアナにも友達が出来るよな。じゃあな」
「うん、またね」
ディルはティアナの手を引っ張って、両親の元に帰っていった。
「私たちはどうする?」
「他にも新しく移住した子がいますし、挨拶でもしましょうか」
「そういえば、あんまり子供と交流してこなかったしな、今から友達をいっぱい作っておこうぜ」
「いいね、この機会に仲良くなっておこうか」
なんだかんだで忙しくて、この村の子供たちとも交流してこなかった。だけど、これからは時間が出来ると思うし、交流を深めても問題ないだろう。
私たちは新しい住人の子供と話す輪の中に入って、交流を深めていった。
◇
結局、その日は一日中子供たちと一緒にいた。この日ばかりは村の子供たちは畑仕事を免除されて、新しく来た子と一緒になって村で遊んだ。
もちろん、その輪に私たちも入れてもらい一緒に遊んだ。私は転生者だから、一緒に遊ぶよりは子供を見守っている立ち位置にいた。でも、結局クレハとイリスに手を引かれて遊ぶ輪に入れられたんだけどね。
子供たちで遊ぶ輪にはディルの姿もいて、すぐに他の子どもと打ち解けた様子だった。でも、そこにティアナはいなかった。ディルに聞いてみると、お母さんと一緒にいると言っていた。
恥ずかしがり屋なのか、すぐには打ち解けられない。魔法使いの卵の称号が気になるから、仲良くなりたいんだけど……そう簡単にはいかないってことか。
私以外にも魔法が扱える子が増えれば、楽しいことになると思ったんだけどな。魔法のことで話ができるのはイリスとエルモさんくらいしかいなかったから、他にも増えると嬉しい。
「うーん、どうやってティアナと仲良くなるか」
「ずっと何を考えているんだろうと思ったんですか、ティアナのことだったんですね」
「ティアナ、みんなと一緒にいなかったなー。一緒に遊びたかったから、残念だったんだぞ」
「まだ村にきてそんなに時間が経ってないし、慣れないと大変だよね」
誰も知らない村に来たんだから、いきなり仲良くなるのは無理なのかもしれない。少しずつ友好を深めて、仲良くなれたらいいな。そしたら、一緒に魔法で遊ぶことだって出来るかもしれない。
「よし、ティアナともっと仲良くなるために頑張ろう」
「私は他の子ともっと仲良くなりたいです」
「ウチは全員と仲良くなりたいぞ」
村にきてそろそろ一年が経つ。今までは忙しくて中々交流が持てなかったけど、余裕が出てきた今なら時間は沢山ある。少しずつ交流を深めて、この村での生活を充実したものにしよう。




