3 カザンに褒美を与えるはずはない
先日のワイバーンの襲撃の報告を行うため、
再び王都へと赴いた。
すぐさま王城での謁見が行われる。
「よくやった、アルミナ侯爵、
余はそなたのような忠臣を持てて嬉しく思う。」
「はは、陛下よりそのような言葉を賜り、
恐悦至極。」
「して、どのように討伐したのだ?
あれほどとなると、多数の犠牲が生まれたことだろう。
どうか犠牲になったものへの供養を。」
「いえ、犠牲という犠牲は特には。」
「なんと!
それはまことか?
そなたたちにはそれほどの力が?」
「いえ、私、家臣含めもし次回あの規模で襲撃があったのなら、撃退も危ういでしょう。」
「ならば誰が?」
「我が息子カザンの力によるものです。」
「…。」
王は無言になり、父と目を合わせる。
数秒後に、
こちらに視線を送ってくるが、
嘲笑によって掻き消された。
「どうやらアルミナ侯爵にはユーモアがあるようだ。」
なあ、といった様子で周りに視線を送る。
無能にできるわけがない、
無能などが生まれて狂ってしまっただの、
よほど子供が可愛いと見えるなど、
聞こえるほどの小声で貶してくる。
王が手を挙げる。
「アルミナ侯爵、
そなたたちの力により、我が国の平和が保たれた。
よって、そなたの一家を公爵に格上げする。
その他の褒美は後日うかがうとしよう。」
この結果は喜ぶべきことのはずだ。
しかし、父の顔色は優れない。
俯いた先には、苦虫を噛み潰したような顔が浮かんでいる。
「済まない。」
こう、帰り際に一言言われた。
―
……しかし、どうやら父よりも母のほうの怒りが凄まじいようだ。
「ふむふむ、なるほどなるほど。うふふふ♪」
母はイスから立ち上がると、優雅にゆっくりと歩みを進めていく。
「ど、どこに行くのだ、アマンダ!」
「うふふ、いえね、少し魔術の練習に出掛けようと思いまして♪」
「……ど、どこに?」
「うふふふ。」
母はただ笑うのみで、答えはない。
カザンは母に向かって駆け出し、飛びつく。
「お母様、僕、お母様と一緒にいれなくて寂しかったです。だから一緒にいてください。」
カザンが上目遣いでアマンダの谷間から顔を見せる。
ズキューンッ!
瞬間、アマンダの胸は撃ち抜かれたような感覚に陥った。
えっ?なにこれ?なんなの……この気持ち……。
それはアマンダにとって初めての感覚だった。
心臓がキュンキュンして、頬が紅潮する。
そして、先ほどまでの黒い微笑みではなく、自然と穏やかな微笑みに変わってしまうほどに他のことなどどうでもいいと思えた。
カザンは今まで自分でできることはほぼ全て自分でして、親に甘えるようなことはなかったのだ。
娘のシルキーは時折甘えてくるが、息子に甘えられることはあまりにも耽美で、中毒になるほどのそれだと気がついた…気がついてしまった。
アマンダは行かないでと抱きしめてくるカザンを引き離すと、額にチュッとして、席に戻る。
「???」
よくわからないが、危機は去ったのだろう。
自身も席に戻ろうとイスに座ろうとすると、アマンダが声を掛けてきた。
「なにをしているのです、カザン。」
「?イスに座ろうと思いまして…。」
「なにを言っているのです?あなたの席はここでしょ?」
指し示された場所……そこはアマンダの膝の上。
「「……。」」
無言で視線を交わすカザンとその父。
父が首で行けと指示を出すので、仕方がなく、アマンダの前で抱えやすく両手を広げると、そこに落ち着いた。
「重くないですか?」
カザンがそう聞くと、アマンダは抱きしめて返事をする。
「ううん、だいじょ〜ぶ、だいじょ〜ぶ♪」
こうして、王都が焼け野原となることはなくなった。
これもまた無能の行いである。
……しかし、母アマンダはムスコンに覚醒した。