1 カザンに剣が使えるはずがない
剣を振るい、
ゴブリンの首を落とす。
火属性魔術を使い、
遠距離にいるゴブリンメイジを焼き尽くす。
後方に回復魔術を行使し、
怪我人の治癒をする。
これ、全て無能の行いである
―
カザン・アルミナは絶望していた。
五歳になり、
教会でスキル鑑定が行われた。
鑑定結果がこちらだ。
スキル 該当なし
周りの者たちが嘲笑を浮かべ、
こちらを見ている。
「やあ、やあ、アルミナ侯爵、ご子息はいかがでしたかな?
ああ、私の息子?
ヒルならば、【剣術A】に【魔術A】でした。
おそらく天童と呼ばれる貴方様の息子には及びませんでしょうがな。」
聞かれてもいないことを言って、大笑いで去っていく上級貴族。
ヒソヒソと、でもしっかりと聞こえる声で馬鹿にする下級貴族。
居心地の悪さは感じたことがないくらいのものだった。
父と母に連れられ、急ぎ足でその場を後にした。
数日もの間、呆然としていた僕に父はこう言った。
「カザン、剣をやってみないか?確か約束しただろう?」
最初の一振り、二振りは確かに素人丸出しで、
才能はからっきしに思えただろう。
父と母もどこか穏やかに見ていた。
父が手直しをしようと近づいた時、
それは起こった。
「なるほど、だいたい分かった。」
「カザン、剣はこうやって…っ?!」
僕の剣から放たれた斬撃は近くにあった大岩を真っ二つに切り裂いていた。
「は?」「はい?」
驚きの声を上げる二人。
「なるほど、剣ってこうやって振るうんですね♪」
しかし、見事な断面そして威力だ。
無能と言われる俺にこれだけのことができるのだから、
剣術スキルをもつ人だったら、どうなってしまうのだろう。
父に同じことをやってもらうよう頼む。
しかし、それは叶わなかった。
ああ、そういうことですね。
破壊したり、人を傷つける力はむやみに使ってはいけない、
父はよく貴族としてのあり方をそう聞かせてくれた。
どこかに剣術スキル持ちはいないかな?
数日のち、
母に声をかけられた。
魔術の練習をしようと。
最近は剣の練習ばかりをしていたせいで、
庭がボロボロになったので近くの平原に行こうと。
魔術にも興味があったし、
母のことが大好きだった僕は久々の一緒のお出かけにワクワクしていた。
「カザンは剣、どれくらいできるようになったのかな?」
斬撃を飛ばして以来、
僕の剣を見ていなかったらしく興味からの質問のようだ。
僕は自慢をするように、母に言う。
「僕はね、もう少しで【最期の一撃】が撃てそうかな?」
すると母はピタリと固まった。
そして聞く。
「それはなにかな?」
「えっとね、初代勇者様が魔王を「うん、わかった。」…?」
母はどこか冷めた目で外を見ていた。
「【最期の一撃】はお屋敷では打っちゃ駄目よ。」