ひとり体育祭
本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます。
司会は私、中山敦が務めさせていただきます。
ではさっそく、概要の説明に移らせていただきます。
当社が提供するサービス『おひとりさま』はどんなシチュエーションでも『一人』で体験することができる画期的なサービスでございます。
普通であれば一人では体験できないようなことでも、気軽に楽しむことができるサービスです。
例えば体育祭。
中学、高校と誰もが体験する一大イベントですが、どうしてもコミュ障の方からしたら馴染みにくいと言いますか、素直に楽しむことのできないイベントですよね。
リア充共が和気あいあいとしているなか、一人ぼっちでぽつんと応援席に座り、したくもない応援をしながら終わるのを待つだけの冗長なあの時間。
まさに地獄だったかと思います。
しかし、本サービスである『おひとりさま』をご利用いただければ、こういった悩みからは解放されるのです。
具体的にどうなるかと言いますと。
VRシステムによって再現されたリアルな体育祭の世界を、たった一人で楽しむことができるのです。
例えば騎馬戦。
VRで主人公となった利用者はチートで無双できます。
誰とも騎馬を組まず、連続エネルギー弾で雑魚モブを一掃。
たった一人で完全勝利できます。
また棒倒しでは嵐を呼んだり、雷を落としたりして、他のモブを虐殺できます。
誰もあなたには敵いません。
最強です。
もちろん、女性向けのサービスもございます。
浮気した彼氏に三下り半を突きつけて、本当の恋人とリレーなどで直接対決させ、徹底的に打ち負かして『ざまぁ』できます。
恋敵に対しても元カレを没落させることで恥をかかせた上で、孤立させてボロボロにすることで、それはもう最高でクールな『ざまぁ』を体験できることでしょう。
体育祭や文化祭などのイベントに嫌な記憶がある方は、是非とも当社の『おひとりさま』をご利用ください。
きっと満足のいく――
俺はVRのゴーグルを外す。
ふむ……こんな感じか。
かなりテキトーな内容だったがテンプレとしてはまぁまぁだろう。
内容なんてどうでもいいのだ。
とりあえずイメージをつかむには手っ取り早くていい。
新入社員である俺にとっての晴れ舞台。
重役の前に立つと緊張する。
何事も練習が大切なのだ。
さて……次は自分が司会者になってみよう。
俺は再びゴーグルを装着してスイッチを入れた。