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人が集まれば手は止まる

更新遅くなり申し訳ございません!

 一方その頃、伊織ら一行は前回撮影したルームツアーの動画を編集するさ作業を行っていた。


「ポップアップ系の素材はそこのファイルの中で....エフェクトのプリセットはここにある物を....」


 一つのテーブルを伊織、楓、みのりの三人で囲んでPCに向き合う。普段はこんなことをしないのだが、伊織に【カロン】流の編集を教えるには効率が良いということで、ノートパソコンのファンの三重奏を奏でることになった。


 一昔前ならいざ知らず、昨今のノートパソコンの性能は素晴らしく、動作が重くなるゲームや、長時間の動画編集を難なくこなしてくれる。ただ唯一の問題点としては冷却用のファンが中々の音量で回っていることくらいだろう。


「ん、上出来。伊織は呑み込みが早くて助かる」


「全然大したことないんです、【祝い酒】の方で使っていた編集ソフトと同じだったので勝手を知っていただけですよ」


時折プリセットを教えるために顔を出す楓とは逆に、みのりは自分の作業そっちのけで伊織の手元をじっと見つめる。


「祝い酒の方でも編集をやられていましたものね」


「あのダメダメオッサンズの面倒を一人で見ながら編集もやってたの?」


余り表情を動かすことのないみのりが珍しく目を丸くした。

一方昔を懐かしむように頷く楓は謎に自慢げとも言える表情を浮かべている。


「そんなに上手くはないですけどね」


「前々から気になっていましたけど、伊織さんって【祝い酒】で何をやっていたんですか?」


 一口にマネージャーと言っても業務は多岐に渡る。例えば、案件を取ってきたり、担当のスケジュール管理、打ち合わせ準備等々。今挙げたものでさえざっくりとした組み分けなので、実際はもっと沢山の手順を踏んで仕事を行っている。


「僕の場合ですと、スポンサーさんとの打ち合わせ、コラボ等の話し合い、動画のカメラマン、スケジュール管理、メンバーの動画編集ぐらいですかね?」


パっと思い出せるだけですけどと付け加える伊織の声は驚きのあまり小さく口が開いている二人には届いていないだろう。


「そ、それって本当ですか?」


表情には表れていないが、二人して目が若干丸くなる。

 この二人が驚くのも無理は無く、伊織が行っていた仕事量はとても一人で行う量ではないのだ。それこそメンバーとほぼ同数のマネージャーが必要と言っても良いかも知れない。


「と言ってもカメラマンはすぐにクビになりましたけどね。ほら、僕って身長低いので上からの絵が録れなくて」


小さく笑いながら止まっていた手を動かし、再びタイプ音を奏で始める。


「わわっ」


しかし、それも左から伸びて来た手によってタイプ音は三度止まる。


「ん、ちょっと一旦休憩」


無理やり手を止められたことに少し驚くが、伊織はしっかりと二人に向き直った。


「そう言えば話を戻しますけど、本当に良かったんですか?」


伊織と同じようにパソコンから向き直った楓は、少し不安そうに眉を下げながら聞いてきた。


「何がですか?」


「名前もそうですけど、カメラに映っちゃったじゃないですか」


伊織は少し思考した後、言われて思い出したかのように「あ~」と頷く。


「伊織に許可取ってなかったの?」


みのりは自然な動作で伊織を引き寄せて楓を訝しむように楓を見る。


「少々テンションが昂っていたというか....なんというか、撮り終わった後に言うのもなんですが、もし嫌だったりするのなら全然撮り直しするので!」


「別に大丈夫ですよ?」


思考する間もなく伊織は答えた。


「いいの?」


「僕【祝い酒】で声出したことないですし、名前に関してもあまり見ない名前ですし、それなりに作り物みたいですから」


後半になるにつれて伊織の顔には影がおり始めていることを視覚的に見ずらいはずのみのりでもわかった。


「それ以上はダメ」


抱きとめていた腕をさらに強く引き寄せて言った。


「いい?本当はあまりして欲しくはないけど、百歩譲って自分を卑下にするのはいい。けど、名前まで否定しちゃだめだよ」


自身の胸に伊織の頭を置き、優しく撫でる。「伊織のご両親が優しくていい人だったことは知ってる。そんな人たちがくれた名前なんだから」と付け加えるその声音は、普段クールでストイックなみのりからは考えられないほどに癒しを纏ってきた。


「ありがとう....ございます」


微かに震えた小さな声で伊織は返す。


「いいですか?伊織さんは自分が思っている以上に凄いんです。私たちが関わる前のことは残念ながら知りませんけど、少なくとも2年以上はあの【祝い酒】(ふざけた空間)に居たにも関わらず、こんなにも綺麗な人で居続けた。それに加えて膨大な仕事量に潰れず何とかコントロールし続けた。あなたが編集しているそのデータ、まだ半分ほどしかできていませんけど、私たちなら一時間かかるのにあなたは慣れない編集にも関わらず四十分で出来ているんですよ?そんな《《伊織君》》を無能という【祝い酒】は見る目が本当に無いですよね」


 いきなり褒められ始めた伊織は嬉しいやら恥ずかしいやらで表情をころころと変えながら「え?え?」と困惑を口にする。


「ん。節穴じゃなくて両目に眼帯レベル」


少しわかりづらい例えをするもニュアンスは伝わったようで、伊織は楓とみのりを見るために動く二つの瞳に合わせて小さく顔も動かす。その様子が二人にどう映ったのかはわからないが、柔和な笑みを浮かべている時点で少しは察しが付くだろう。


 しかし、編集の話から二転三転して褒められ始めていることに動転している伊織にそんな余裕などなかったとここに記録しておこう。



読んでいただきありがとうございます!



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