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助っ人

助っ人

 動画撮影が決まってすぐに楓は鼻歌混じりにカメラや照明の設置を始めた。

伊織も【祝い酒】で何度もセッティングをしたことがあるので手伝おうと思い立ったが、まだ【カロン】の撮影方法やつかっている機材を把握していないので、伊織は伸ばした手をそのまま引っ込める。


「伊織さん、この照明かなり重いからちょっと手伝ってもらっていいですか?」


持っている楓がスッポリ背比べが出来るほど大きいサイズの照明を抱えながら伊織に声をかける。


「...!どこに運べばいいんですか?」


「伊織さんから見て左の角にお願いします」


「わかりました!」



 せわしなく機材の設置に勤しむこと30分。すべての機材をセッティングし終えた二人は軽くお茶休憩を楽しんでいた。


「それにしても、こんなに沢山の機材を使うんですね...」


「さすがに毎回じゃないんですよ?私たちは普段ゲームしかしてないので、こんなに機材を出すことはまずないですよ...というか、やりたくないです」


「...確かに毎回これだとしんどいですもんね」


 そんな会話をしているとインターホンと思われるベルが鳴る。栗栖のような人間が働いている家だからなのか、そのインターホンも心なしか高級な音に聞こえる。


「ちょっと出迎えてきますので申し訳ないんですが、少し待っていてください」


「いえ、全然気にしないでください!」


 楓が軽く会釈をして部屋を出て数分後、楓は後ろに一人引き連れて戻って来た。


「戻りました」


「あ、おかえりなさいです...ってその人」


「タッグイベントの時に一度会ったことがあると思いますが、彼女はみのり。【カロン】のメンバーです」


「ん。よろしく」


 軽く手を上げるような挨拶をした黒髪ショートの彼女はみのり。普段からオーバーサイズの服をよく着ており、冬になると一番上まで閉めて口元を隠す。その風貌とゲームの腕から、フクロウと呼ばれて親しまれている。


「成瀬伊織です。タッグイベントでもお会いしましたね」


「ん。覚えてる。キレたをれっとから助けてくれた。あの時はありがとう」


「いえ、《《元》》マネージャーとして当然の事です。僕の方こそ、ちゃんと止める事ができなくてごめんなさい」


「ん。過ぎたことは気にしない。恩には礼で返すのが当たり前」


そういう時みのりは袖で隠れた手を出して伊織の手を握る。


「伊織さんとみのりが仲良くなれて良かったです!」


結果に大満足と言わんばかりの表情で二人の仲を喜ぶ。


「その前にサクラ」


「どうかしました?」


「伊織《この子》どうしたの?」


伊織を体の前で抱き止めるみのりは警戒するようにサクラを見た。

 身長的に伊織の肩から顔を覗かせている彼女は、さながら電柱に隠れる探偵だ。


「この前話した引き抜きの件ですよ!」


「成程、誘拐したと」


「違います!」


「違わないよ。伊織、私のそばから離れないでね」


肝心の伊織は耳を赤くしているのだが、みのりはそのまま抱き止める力を強くする。


「ちゃんと伊織さんの確認を取った上で」


「誘拐したんだね」


「違いますって!」


 そんな問答を続ける事10分、にんまりとした笑みを浮かべるみのりとは対照的に両手足を着き、肩で息をする楓。彼女らの攻防は終わらなかった。


「ん。これ以上揶揄うのはやめとく。可哀想だし」


「私は...誘拐...してません」


「知ってる」


「ふぇ?」


今日一の笑顔を浮かべながら宣言するみのりに今日一のほうけた表情を晒す。


「全部栗栖から聞いた」


「もぉおお!」


「いい?サクラはこうやって扱うんだよ。覚えておこうね」


「え?あ、はい」


突然話しかけられたことに驚きつつ相槌を打つ。


「そこは返事しなくてもいいんですよ!」


心なしか目の潤いが増したサクラがズイと伊織に詰め寄る。


「え、ええっと、ごめんなさい?」


「あ、いえ、別に伊織さんが悪いわけじゃなくてですね」


みのりと同じ感覚で詰めてしまっていたことに気付き、直ぐに離れる。


「ん。関係ない人を巻き込むのは良くない」


「貴女が原因でしょうがぁあ!」



 ややあって、ようやく動画についての話し合いが進んだ。

 一度始まってしまえば後は早いもので、15分程で大まかな構成を纏め上げてしまった。


「今更ですけど、本当に僕が映って大丈夫なんでしょうか?」


「何を言ってるんですか!大丈夫に決まってます!」


「ん。断言する」


「そうなんですか?」


腕を組みながら頷く二人を伊織は少し不思議そうに見る。


「まず、動画タイトルが“新人マネージャーと見る!カロンルームツアー!(サクラ編)”ですし」


「一人で写るのが不安だろうから私が着いてる。大丈夫」


袖でほとんど隠れてしまっているがサムズアップして見せるみのり。


「それに、マネージャー視点っていうのも少し欲しいですしね」


配信者や、リスナーが見ている以外の視点と言うのは過去にやった配信者を例にしてみると、需要がない訳ではない。むしろ物によっては通常よりも多く数字を出しているほどの期待値のあるコンテンツだ。


「別に無理に喋らなくていいですし、本気で嫌なら今すぐやめますよ?」


「ん。サクラは知らないけど私は鬼じゃない」


「私も鬼じゃありませんけど!?」


言い合う二人を背に伊織は考えを巡らせる。


 それから数秒から数十秒ほど間を開けてから伊織は前に進んだ。


「やり...たいです」


少し緊張した面立ちでそう言い切った。


伊織がそういうと、二人は今日1番の笑顔を浮かべる。


「ん。そう言うと思った」


「REC準備出来ました。それじゃあ、始めますね」


 サクラの手によって押されたRECボタン。

【祝い酒】としてではなく【カロン】としての伊織が始まったのだ。


読んでいただきありがとうございます!



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