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思ってたのと違う

思ってたのと違う

「...おはようございます」


 次に伊織が目を覚ましたのは天高く太陽が昇った頃だった。

昨日、トイレと一緒に案内されたリビングに顔を出す。


「も、もう大丈夫なんですか?」


 日の高さ的に昼時だったのだろうか?食事を取っていた楓が伊織の姿を見るや否や手を止めて伊織の元へ駆け寄った。


「へ?だ、大丈夫ってどういうことですか?」


「伊織さん、おはようございます。よく眠られていたようで良かったです」


 リビングに来て数分しか経っていないのに栗栖は伊織の分の食事を運んできた。


「つかぬことを聞きますが、今日が何日かご存知でしょうか?」


「え?10月23日ですよね?」


 昨日書いた入院関係の書類に書かれていた日付が10月22日だったことを思い出し、そのまま答える。


「伊織さん、今日は10月24日ですよ」


「え!?」


 楓に言われ、慌ててスマホを確認してみるとそこにはしっかりと"Oct 24"表示されていた。


「余程お疲れだったんですね。一応ノックはしたのですが、応答がなかったので失礼ながら入室させていただいた所、それはもうぐっすりとお眠りになられていましたよ」


「...あぅ」


 今まで他人に寝顔を見られたことはあったが、こんな暖かい目を向けられた事がなかったので、気恥ずかしさが勝ってしまい、伊織は俯き顔を少し紅潮させる。


「栗栖さん、流石にそれはう...いただけませんね」


「ええ、今思えば配慮に欠けていました。伊織さん、申し訳ございません」


「あ、いえ、全然大丈夫です!」


 伊織ら三人はそのまま談笑しながら昼食を楽しんだ。

 外での打ち合わせみたいに腹の探り合いは全くなく、本音で笑いながら人と食事をするのが久しぶりだったことは本人も気づいていない。


◇◇◇


「さてと、そろそろ一昨日のお話の続きをするとしましょうか」


 昼食はすっかり食べ終え、食後の紅茶を楽しみながらの雑談は幕を閉じ、【カロン】の話へと移り変わった。


「まずは念のためカロンについて話しますね」


そう前置きを置いて楓ことサクラが率いる【カロン】についてまとめ始めた。


カロンはメンバー全員女性配信者で構成されている。

 メンバーは、リーダーのサクラ、みのり、ゆず、なぎさ、ことねの五人。


 各々で活動スタイルが異なり、動画主軸のメンバーもいれば、主に配信をするメンバーもいる。他の事務所とは違い、配信者に課されるルールも所謂一般常識や業界の常識とほぼ一緒なため、メンバー全員がゆるゆると活動している。


「と言っても、ピンでの活動とグループでの活動を比較したら8対2くらいでグループになりますけどね」


小さく頬を掻きながら「仲の良い友達と毎日ゲームをするのとまったく同じ感覚です」と付け加える。


「じゃあ、僕は何をすればいいんでしょうか?」


聞いている限り、あまりマネージャーを必要としていないような感覚を覚えた伊織は新たに自分を雇い入れることに疑問を投げた。


「うちのメンバーって全員合わせても五人なんですよ。三人でやれるゲームは多いんですが、五人でやれるゲームって案外少ないんですよね」


確かにメンバー全員で対決するような企画を立てても、3on3にはならないので必然的に2on2になってしまう。

 つまり、一人溢れてしまうのだ。チームで戦うゲームは星の数程あるが、以外にも五人チームで戦うゲームというのは少ないのが現実だ。


(...なんで今その話したんだろう?)


「ピンと来てなさそうなので言ってしまいますと、伊織さんには【カロン】に入っていただきたいんです」


ここまで言われれば流石の伊織でも察しがついたようで目を丸くさせる。


「え!?だって僕はマネージャーですよ?元ですけど」


完璧に裏側として雇われる気満々だった伊織はここ一番の驚きを見せた。


「ええ、もちろん知っていますよ!なので私たちと《《一緒》》に活動して欲しいんです!」


 楓の言い分だと、『他のチームではコーチも一緒に活動している所もあるので、それと似たようなもの』との事らしいが、勿論それだけで納得出来るはずは無い。


「僕、今まで配信なんてやったことないんですよ?」


「もちろんそこも考慮して、動画をメインにしている私のマネージャーになって貰います」


「第一に僕、男ですよ!?」


「別に私たちは一度も“女性限定”なんて名乗った事ありませんし、伊織さんは可愛らしいので大丈夫です」


(た、たしかに、同級生の中では身長低いし声も高い方だけど...)


「そ、そういうことではなくて...」


驚きと困惑が入り混じった表情で言葉を紡ぐ一方で、楓は屁理屈の様な正論で伊織を引き入れようとする。


「なら、こうしましょう!」


しばらく平行線だった話し合いの中、何か名案が浮かんだ様で楓は手をポンと叩いた。


「動画を撮りましょう!視聴者の方が受け入れてくれるか分からないのも事実ですし、両方の意味で試してみましょう!」


「ええ!?」


撮られる側になる事への耐性と自信が無い伊織は、なんとか回避しようとするも、楓の見事な会話術で動画撮影に挑むこととなった。


 想定と違った仕事に戸惑いながらも【カロン(ここ)】での初仕事に胸を高鳴らせる伊織だった。


読んでいただきありがとうございます!



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