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幼児に転生し三歳になった誕生日、ゴリゴリに軍団を指揮する事になった話。  作者: 怒筆丸 暇乙政
リラティヴィステットラント介入戦争
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76.

 よし。ここで一つまとめて思案しよう。


 貴族連合はなぜ力の行使を避けたいのか?


 それは自領にも、反乱しそうな民衆が沢山いるからだろう。独裁者、つまりイコール貴族と捉えている昨今の民衆は、キャッツェガング王のみならず、今までの貴族による専横に恨みを持って今まで支配されてきている。


 その為、ここで貴族連合が民衆の希望である民主主義を目指すココを理由なく攻め滅ぼしたら、国全体の民衆の怒りによる革命機運は決定的となってしまう。と、彼らは恐れているのではないか?


 かと言って、ココを早く何とかせねば、どの道民衆による革命機運は決定的となる事は間違いないだろう。だから貴族連合は、どうにか交渉で穏便に済ませたいのだと我は考える。


 民衆が一致団結して大反乱を起こされると、貴族の持つ既得権益は崩壊する。


 殆どが力や信仰を使って逆らえば酷い目に会うと半ば脅迫して従えてきた民衆である。ここで横暴をして決定的に民衆をガチギレさせたら、既得権益を下支えして来たその物である搾取する民衆を貴族連合は失ってしまうのだ。しかもそれを民衆に悟られてはならないと、貴族連合は慎重になるはずである。


 悟られると、その弱みに付け込まれて立場が不利になる。貴族連合は搾取する民衆にストライキされてはならないと考えるはずだ。


 中には本気で善政し、民衆に慕われる本物の貴族も居るだろう。しかし残念ながらこの国ではそれは少数派である様だ。貴族連合はそんな中どう発言し、交渉の場を有利に進めるようとするのか見ものである。


 対して我等側はどうだろう?


 貴族は基本強大な軍事力を有しており、本気を出されると大量の血が流される事は必至である。それを恐れて民衆は、今まで搾取されるを仕方ないとして来たのである。だが今は我等帝国軍第十軍が居る。民衆側は強気に出て貴族連合に大きな妥協を強いるだろう。場合によっては貴族連合に勝る暴力でそれを制圧しかねない。


 しかしそれをしたらどうなるだろうか?


 貴族連合はおろか既得権益者は皆、穏便な交渉を止めてしまい、本気で殺しに来るはずである。しかも矛先は解放戦線だけでなく、領内で反乱した民衆に留まらずに平和的な人家にまで及んで虐殺が起きかねない。無論、我が第十軍にも本気で矛先を向けて来るだろう。


 そうなったら我等第十軍は、リラティヴィステットラントの主力貴族の殆どを同時に相手せねばならなくなるのだ。流石の我でも、恐らく数万、十数万に及ぶ貴族連合本気の正規軍は相手に出来ない。


 だが同時にこうも考える……。


 貴族連合が民衆を大虐殺したら、長期的な勝機は完全に我等に傾くだろう。何故なら、貴族連合を本気で潰して良い動機、革命の大義名分は完全となるからだ。世論は完全に犠牲者側を正義とし、貴族連合を討つべき魔王軍と取り扱うだろう……。


 しかしどの道、そうなったら第十軍は大きな戦闘を連戦して大きな犠牲を払う事になる……。それはどうにか避けたい。


 兵は詭道である。


 ここは嘘でもいい。出来れば我等第十軍は両者を上手く言いくるめて本気を出させずに、どうにか話し合いである程度決着させ、敵総力を同時に相手せずに各個撃破できる様に誘導せねばならない。


 我は、色々と想定の幅を広げてゆく。そして


──我は交渉団の暗殺を警戒した。


 主戦論者、憎しみ、もしくは何らかの外圧……。可能性は幾らでもある。それが交渉団を公に暗殺して全面衝突を誘発させる可能性もあり得ると、我は第十軍兵士に警戒を厳にするよう秘密裏に言い渡した。


 ルキウス卿もウィザードフレグルもローニおじさんも、まかさと冷や汗をかいた。父カラドクーは街の一番高い教会塔の鐘の脇に身を置いて街を見渡し警戒した。


 我はシスターメルに問う。


「まさか、やらないよな?」

「指示は御座いません。すべてファルマ様の考えに合わせるように、との事」

「本当なら良いのだが……」

「であれば、起きるかもしれない暗殺を必ずや未遂にして見せましょう」

「頼む」


 シスターメルは既にこの街に潜伏しているのだろう協力者を駆使してか、警戒レベルをかなり引き上げてくれた。


 そして貴族連合から派遣された交渉団が、遂に街を守る城門を通過した。しかしどうにも怪しい。交渉は会議室でやるものと思っていたが、何故か街中央の広間に特設しだす解放戦線。ルキウス卿は少し焦って問う。


「何故ここなんだ?」


 解放戦線の代表の一人が回答する。


「我々は民衆による民衆の為の政治を目指しています。裏取引があってはなりません。政治の透明性を確保する為にも、皆の前で話し合う必要があるのです」

「それは……しかし暗殺の可能性もある。ここでは見晴らしが良すぎて危険だ」

「危険は承知に御座います。しかしだからこそ貴族連合が、何か仕掛けて来ても良いように皆に見張ってもらって見届けてもらうので御座います」

「だからこそ意味を持つ暗殺だった場合どうする?」

「だからこそ意味を持つ? ──お言葉ですがこの処置は、我等民衆の総意で御座います。今更そう言われましても、私一人がどうにか出来る事では御座いませんよ。それにもう十度目です。暗殺があるなら既に行われているのではありませんか?」

「いや、しかし……」

「ならば、皆に話し合いの場の変更を同意させている間、貴族連合の方々をお待たせしますか?」

「出来るならそうするべきだ!」

「しかし、先方はそうはお考えでない様子……」


 チッ……。間に合わない。貴族連合の交渉団はズカズカと、案内人の努力を無下にして、いつも交渉して来た広間に入って来てしまった。そしてドカッと太々(ふてぶて)しく着座した。


 鎧の豪華さ、傲慢な態度、従う従者の数……。交渉団はまんま、上級貴族の面々であった……。

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