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幼児に転生し三歳になった誕生日、ゴリゴリに軍団を指揮する事になった話。  作者: 怒筆丸 暇乙政
リラティヴィステットラント介入戦争
75/82

75.

 話し合いの直前、鳴りを潜めていたシスターメルが我に無言で紙を渡してきた。それにはこう書かれていた。


“我々は彼らを支援する”と。


 シスターメルが例のハンドサインを我にした。我は頷いて紙を返し、シスターメルはその紙を蠟燭の炎で静かに燃やした……。我は申し子と言われながらも、まだ正式な手続きを踏んでなった構成員ではない。だが、それに書かれていた何てこと無い文字の奥に潜む力を、これでもかと感じずには居られなかった……。


 我には、次々と背負うモノが増えてゆく……。


 オークの信仰、混沌のアーティファクト、家族の面影、乱世からの解放、帝国の隠し事と思惑。そして第十軍の面倒に地下組織の陰謀……。我のキャパはそろそろ限界なのではないか……?


 我は増える溜息に思い悩み、抱っこ係ミナーヴァへ抱っこを要求した。我を抱えた彼女は我慢できずに我をモフしだく。う、うわぁ……。


 しかし今の所、我の癒しはこれしかない……。


 街の中心にある市役所みたいな所の会議室で、リラティヴィステットラント解放戦線の面々はこれでもかと我々に握手をして歓迎してきた。そして我等は、緊張感のある笑顔で並べられた椅子に座った。水代わりの葡萄酒が注がれる。しかし酒のつまみはない。それがこの空間を一層真面目にさせていた。


「馳走が無くて申し訳ありませんが、貴族連合がすぐそこにいる為ご理解いただきたい」

「問題ない」

「しかしファルマ様。我々は必ず貴方様が援軍として戻ると信じておりました!」

「それが帝国の意思である。エラグラウム帝国ティトゥス皇帝陛下は我等第十軍の一時撤退の折りに、その訳を聞くと早く戻って助けよとお叱りあそばされた」

「これは心強い!」


 解放戦線の面々は勇気づけられた笑顔になった。我は確信をもって言う。


「噂には聞いている。どうやら貴方方はその身の振り方について決心した様だな?」

「ええ! ファルマ様に言われて我々は目が覚めた様に話し合い散々考えました。不幸な事件も何度か起きましたが、それでもひと月以上も激論を交わし続けました」

「うむ。それで?」

「それで我々の出した結論は、“独裁者に依らない民衆による民衆の為の政治”を目指す事にしました」

「つまり、民主主義を目指す訳だな?」

「ええ。しかし、その、言いたい事は分かります……。貴帝国様方は皆貴族様に御座います。それを否定して起こす国を作ろうとして居る訳ですから、これは面白く無いかも知れません……」


 するとルキウス卿が声高々と言い放った。


「──そんな事は無いっ! 貴族であれ民衆であれ、目指す所は本来一緒のはずだ! しかし昨今の貴族はその責務をついぞ忘れ、私利私欲の保身に走っては既得権益にしがみ付くシラミみたいに成り果ててしまっている! それは伯爵の身分である俺の目から見ても余りある事態だ!」

「こ、これはっ!」


 解放戦線の面々は目を丸くした。ローニおじさんは我の分の葡萄酒も一気飲みして合いの手を入れる。


「良く言ったルキウス! いいぞ! ハッハッハ!」

(因みにルキウスは、俺の親戚だ)


 余計な事を言うでないとウィザードフレグルがローニおじさんのうなじを掴んでは引っ込める。すると解放戦線の内、貴族らしい恰好をした者が言う。


「私も同感だ。私も貴族ではあるが、キャッツェガング王の暴政にはうんざりした。私の親族も何人か既に犠牲となっている。確かに、中央集権すれば改革は進めやすいし政治は動く。だがしかし、そのリスクは計り知れないと、キャッツェガング王がその脆弱性を証明した。だから、私は貴族であっても民衆による民衆の為の政治に賛成してここへ馳せ参じた次第である!」


 解放戦線から拍手が巻き起こる。


 我から言わせれば独裁政治も民主政治も一長一短である。独裁政治は動きやすいが、民主政治は無難である。だが独裁政治は独裁者が無能だと国が一気に傾き、民主主義は愚衆政治となると国は身動き取れずにジリ貧開始である。そうやって数多の国が栄枯盛衰を繰り返して今の世界が形作られているのだ。


 正直我はどっちでも良かった。


 重要なのは当事者が強く意識して、健全に国と言うコミュニティーを良い方向へ絶えず運営努力する事が肝要なのである。ルキウス卿がそこを理解してくれていて我は頗る安堵した。我は解放戦線の面々に言う。


「では、我等帝国軍第十軍は、予定通りあなた方リラティヴィステット解放戦線を支援させていただくが、それで宜しいか?」

「──是非!」


 だろうよ。彼らは我等の戦力を是が非でもほしいはずだ。だが我は忠告する。


「しかし、無用な争いは禍根を残す。必要とあっても殺人は恨みを呼んで次なる悲劇を生み出す。故に我は“戦わずして勝”を目指したい。これに同意できるか?」

「それは我等でも願う所。ですので、外の貴族連合とは仲は悪くとも、未だ口論にとどめている由に御座います」

「──ただしだ、“戦わずして勝”は、必ずしも上手くいくとは限らないのも現実。恐らくは何度かデカい戦いをしなくてはならない事もあるだろう。その時我は、本気で敵を殺しに行くだろう。あなた方はそうやって殺した家族に恨まれる心の準備も整っているか?」

「そ、それは……」


 解放戦線の面々は少し黙る。しかし参加している貴族は言った。


「──やらなければ、未来の私がやらなかった私を恨むだろう! やって恨まれると、どの道恨まれるのならば、私はやって恨まれたい。ただ座して後悔しながら後ろ指を指されるのだけは御免被る!」

「お、おおそうだ! そうだそうだ!」


 ん~……。どうも解放戦線はこの貴族に牽引されている感じがするな。初代大統領か総理大臣はこいつで決まりかもしれない。


「では、我が第十軍は貴国を支援させていただく」


 リラティヴィステット解放戦線は拍手して歓喜した。すぐさま外に集まって様子を伺っていた兵士と民衆にも伝わって殆どがそれに歓喜し、今度はせっせと自分の出来る事に精を出し始めて街は賑わった。


 すると今度はその異変に気付いたのか、場外で包囲と言うにはやややる気のない緩い包囲を敷く貴族連合が動き出した。そして交渉団を城門前まで派遣してくる。解放戦線が言うには、これでもう十度目であるらしい。貴族連合は相当に戦闘を避けたいようだ。賢明である。


 解放戦線はせっかくなので我に意見を求めた。我は言った。


「──話し合おう。今は我等が居る。進展があるかもしれない」

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