74.
話を聞く限りその魔女は脅威ではない。
むしろ軍事利用できそうな魔女である。“軍事利用”と言う発想が出てしまっている時点で我も、しょうもないエゴ軍人な訳だが、もしその魔女が第十軍に居たら、水源の確保が超楽になるのではと思ってしまったのである。
しかし、そんな魔女が貴族連合に居る事に何故難色を示すのか? 我はウィザードフレグルに問う。
「その教え子が貴族連合に居る事の、何が問題なのか?」
「いや、少し感慨深いと思っただけでの……。才能のある子じゃった。だが、少しアホでの。空に浮かぶ雨雲を綿飴にして食おうと試みた結果、魔術封印機構の複雑な作用によってあの子は、雨女になってしまったのだ……」
皆は笑った。ルキウス卿は胸を撫で下ろした。しかしルキウス卿は一体魔女と何かあったのだろうか? いずれ折を見て聞いてみよう。
「呪いか……。因みに仲間に出来そうか?」
我はそう質問しておいてなんだが、これ以上キャラが増えると名前を覚えるのが大変で面倒かもとも思った。が、水源の確保はいつだって重要課題である。水源を確保出来れば、呪われし荒野でも贅沢にパスタを茹でて食う事だって出来るのだ。しかしウィザーフレグルは頬をかく。
「仲間に? うぅ~む。不可能では無さそうだが、あの子は自身に課せられた呪いを解こうと躍起になって学園を休学しておっての……多分それに関する何らかの目的があって貴族連合に組していると、儂は思うのだが……」
父カラドクーは澄まし顔で鋭く言い放つ。
「我々の目的は混沌のアーティファクトの無力化、サンプルの確保、もしくは破壊だ。リラティヴィステットラントのお姫様が願う自由を与えて、混沌のアーティファクトの疑いが強い物と接触せねばならない。また、ファルマの目的はこの国へ軍事介入してその安定を確保する事だ。帝国の思惑は色々あるだろが、その目的を忘れてはならない。もしその魔女が敵とあるのならば、何であれ、無力化するのみである」
ウィザードフレグルが呆れて溜息する。そこにルキウス卿がいい加減にと質問する。
「なぁ? そもそも混沌のアーティファクトとは何だ? 俺にもわかる様に話してほしいのだが……」
「──かくかくしかじかでの」
ウィザードフレグルが答え、ルキウス卿は驚いた。
「そ、それは……! そんなのがあったのか。ならば早急に何とかしないといけないじゃないか! でないと、この国を救ってもまた戦乱になって意味がない! それと帝国だって危ない!」
「お主たちと儂らと、目的は色々と一致するじゃろ?」
「なるほど……。世界の情勢も鑑みるに、あり得ると俺は思えてしまう。領民に責任のある一領主、もしくは一個人としても、これには率先して協力すべき案件で間違いなさそうだが……。しかし何故陛下にそれを報告しない? もしくは──」
「──謁見の書類選考さえも通らないでの」
「くっ……。確かに、根拠や物証が足らない以上、眉唾と宮殿の役人に一蹴されてもやむ無しか」
「もしくは、ティトゥス皇帝陛下自身も混沌のアーティファクトと何らかの関係を持って居る可能性も捨てきれないでの」
「──ま、まさか!」
我個人的には、アッサンビル公オーティス閣下が怪しい。あの武器の取引量……。この国にも一枚嚙んでいそうでならないと我は考える。あいつは死の商人か、もしくはそれに与する黒幕なのではないかと今のところ我は考えている。まだ断定は出来ないが。
もし我が物語を転がすのならば、彼は実は味方で、崇高な目的の為、やむなくうんちゃらこうちゃら等も脳裏によぎったが、しかし今のところ胡散臭い事には変わりはない。疑って然るべきである。
ルキウス卿は我に向かって聞いてくる。
「ファルマ卿は、そんな事も背負って第十軍を指揮していたのか!?」
「──である。背負っているのはそれだけじゃないが」
「くっ……! それに比べて俺はなんて短絡的な事か……」
「比べても無意味である。疲れるだけだ。それより今自分に何が出来るかを考えた方が良いと思が、ルキウス卿はどう思う?」
「俺に出来る事……」
「現状でも我は、だいぶルキウス卿に助けられいるのだが」
「ファルマ卿は、有難い事をよくもシレッと言ってくれる!」
ルキウス卿は少し笑顔になった。皆も同様だった。そして行軍は続く。
とまれ、今は兎に角長方形の街へ辿り着き、“また来る”の約束を果たしてリラティヴィステットラントの彼らと共にこの国を救うべく起たなければならない。そんな彼らが貴族連合と口論していると言うのならば、戦わずして勝の機は十分あると我は考える。しかし予断は許さない。
ありとあらゆる事を想定しつつ十分に警戒し、ウィザードフレグルの風だけでなく、我は大事を取って偵察兵を頻繁に繰り出す。国境は既に過ぎている。戦闘はあったが、ここからあそこまでは数日とそう遠くは無い。
そして辿り着く長方形の街。偵察の話通り北側は包囲されていない。我等はそんな長方形の街に歓迎されながら難なく入場を果たす。街には王家の旗は既に無く、代わりに新しい旗が掲げられて、民間の雰囲気もガラッと変わって活気づいていた。
──リラティヴィステットラント解放戦線。
彼らは自身をそう名付け、その代表格数人が早急に我等と話し合いの場を設けてきた……。