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幼児に転生し三歳になった誕生日、ゴリゴリに軍団を指揮する事になった話。  作者: 怒筆丸 暇乙政
リラティヴィステットラント介入戦争
73/82

73.

 翌朝、第十軍は食料のたっぷり詰まった背嚢を背負って行軍する。兵站充実の為に背負わせた背嚢。その重さは三十キロにまでに及ぶ。


 兵士達は最初、重い荷物を背負わされたと評判は悪かったが、キャッツェガング王によって兵糧を枯渇寸前にまで追いやられた事を飯の都度に思い出すと、彼らはなんとかそれを我慢していた。しかし背嚢を置いていざ戦闘して見たら、体の軽い事軽い事。まるで飛ぶ術を学んだ小鳥の様に戦えたと、我の意図しない所でその評判が逆転した。


 成長は、人に成功体験をもたらし、学ぶ事の良さを教える。


 今となっては“死にたくなければ重い背嚢を背負え”と、ぶー垂れる奴に言っている。それはまるで、義務教育の時に学ぶ事の大事さを知らずにぶー垂れていたが、いざ大人になって見たらその大切さを思い知ったアレと似ていた……。


 今の第十軍はもはや、誰かに褒められる為に行動していない。重い背嚢を背負い行軍すれば、戦闘と言う死線をより優位に乗り越えれると、その成長を楽しむまでに至っている。


 兵は神速を貴ぶ。しかし我はすべき事を着実にこなしながらも、()()()()()()()行軍させる。前世の父は、“ゆっくり”と言いながら“急げ”と、仲間に求めていたと言った事があった。今ならそれがわかる。


 一見矛盾し理不尽な要求だが、創業を強く生き残る為には、人の出来る事の限界を超えて行動しなければならないのだ。


 ゆっくりなパンチでは確実でも弱い。だが大振りでも躱される。急いでも無駄に体力を浪費して当たらなければ意味は無い。数多のフェイントとスウェーに心理的なやり取りの中、限られた訓練と実践から、如何にゆっくりでありながらも急いで確実に重いパンチを当てれるかを身に付けなければならないのだ。故に、日頃の基本的な訓練は欠かせない。重い背嚢はその一翼を担ってくれている。


 兵士一人一人の事を考えれば、ぶー垂れる兵士にも我慢して、怒らずに黙って重い背嚢を背負わせる。


──そう、抱っこ係ミナーヴァに甘えまくって楽をする我は思った。


 おいっ! ダメじゃん!


 ローニおじさんはそんな感じで我を見た。我は言い訳を言う。


「だって、まだ四歳だよ?」

「おっ? いや俺も抱っこされてーなって思っただけだぞ? 急にどーした?」


 そうだったか……。余計なこと言ってしまった……。


 抱っこ係ミナーヴァはローニおじさんの視線を嫌いながら我をモフしだいた。


「い、いや……そんなに嫌わなくても……」


 ローニおじさんはガッカリし、ルキウス卿はそれを笑った。イケメンの笑いに、ローニおじさんは少し不機嫌になってまた酒を飲んだ。するとウィザードフレグルの肩に小鳥が止まってチチチッとする。ウィザードフレグルは小鳥に頷くと我に言った。


「お主の救った長方形の街がまた包囲されているそうだ」

「またか。相手は?」

「相手は、この前のとはまた別の貴族連合らしい」

「ほう」

「まだ大きな戦闘は起きていない様だが、激しい口論が続いているようだでの」

「急がねば。だがゆっくりと……」


 ルキウス卿がウィザードフレグルに言う。


「その小鳥、本当に羨ましいな。偵察兵に危険な思いをさせずに済む」

「断片的ではあるがの。カラスは賢いが、それゆえに情報を出し渋る。小鳥は噂好きだが気まぐれだ。猛禽類は気高過ぎて気難しく、渡り鳥は世間に興味がない。これを飼い慣らし情報を得るのは骨が折れるでの……」

「それでも魅力的だ。俺も学べるか?」

「学ぶ、か……。やって見なければ分からないが……。それに魔術は出来る事がかなり制限されておるし、才能がモノを言う世界でもあっての。多くの学生が夢を失い絶望の中去っていった……」

「しかし、試してみる価値はあるはずだ」

「お主に、人生の大半を魔術に費やす時間はあるか?」

「それは……厳しい、な……」


 ウィザードフレグルはやはりと、年季の入った顎鬚を撫でた。


 魔術か……。


 きっと我にはその才能が有るに決まっていると、根拠のない自信を持ちつつも、前世の科学が至った“人類を容易に滅亡させ得る力”に戦々恐々であった事も思い出す。


 実際どうであるかは知らないが、魔術はその為に殆どが封印されているのではないか? とか思いつつも、それを封印できる技術に、素直にスゲーなとかも思ってしまった。封印出来れば、IAEA国際原子力機関もだいぶ楽になるだろう。


 するとウィザードフレグルの表情が少し曇る。我は尋ねる。


「何かあったか?」

「いや、それがの……どうやら貴族連合側にも魔術師、と言うより魔女がおる様だ」


「──魔女!?」


 ルキウス卿がびっくりする。まぁここはファンタジー異世界である。魔女が居ても可笑しくないと我は落ち着いていた。しかしどんな魔女か? 絶世の美女でありながら途轍もない悪女で、素っ裸で男を誘惑してはその生き血を啜ってケタケタ笑う感じだろうか? ウィザードフレグルは言う。


「儂の教え子だでの」


 教え子かよ。我は尋ねる。


「どんな魔女か?」

「一言でいえば、雨女……かのぅ?」

「雨女? 脅威か? 大雨を降らせて洪水を引き起こすとかか?」


 ルキウス卿の顔から血の気が引く。おや? 珍しくルキウス卿が臆するな……。ウィザードフレグルは続ける。


「いや、自分の所だけピンポイントで()()()()雨が降り続けるだけの子での……」


 ……は?

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