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幼児に転生し三歳になった誕生日、ゴリゴリに軍団を指揮する事になった話。  作者: 怒筆丸 暇乙政
秘密の金柑(人間世界の陰り)
56/82

56.

 呪われし荒野へ流罪。


 人間世界の持つ呪われし荒野のイメージは地獄そのものである。そこへ流罪は死罪より厳しいと思う者もいるかもしれない。


 この沙汰に、リラティヴィステットの群衆は、王への怒りも然る事ながら、賊への恨みにも言及していった。縛られた賊の群衆へ向かって怒りと物をぶつけだしたのだ。そして各々思いの丈を叫ぶ。


「何が殺せだ!? 偉そうに!」

「王はスーパースターだと!? クズが!」

「お前たちのした事は犬畜生以下だ!」

「俺は聞いた事あるぞ! 王のクソが許されるなら、俺達のクソも許されるから好き放題やっていいんだってな! つまり盗まれたから、盗んでいいとか言ってるのと変わらん! これは馬鹿の発想だ!」

「何が王に妻子を寝取られただ! だからって罪も無い人を寝取って殺していい法なんかね~んだよ!」

「殺すだけじゃ惜しい! 呪われし荒野は大賛成だ! 死ぬより酷い地獄を味わえ!」


 大炎上中……。


 扇動ってのは成功すると凄まじい。諸刃の剣だ。決して察すべからず……。


 群衆はとにかく怒り猛り、賊共の心は誹謗中傷に怒り悲しみ蝕まれているのが目で見て分かる。彼らは罪を感じる事を通り越して、自暴自棄になり、死を望むかもしれない。群衆は、そんな彼らに地獄を望んでいる。だが、我の目的は違った。彼らの移送先は呪われし荒野でも、王ゴッズフィストの所なのだ。


 罪人も黙るオークの世界。賊共のした罪はもう取り返しがつかない。どんなに心を入れ替えても、その業は決して消える事はなく背負って行かなければならない。もはや彼らの居場所は人間世界にはない。だが、こういった罪人と言うか、度し難い荒くれ者はやはり、元々人間扱いされない奴らの世界、つまりオークの世界で運用するのが望ましいだろう。


 結局我は何がしたいのか?


 まず、リラティヴィステットの人々に自立心と主体性を持たせたい。次いで、賊のした“理不尽な目に会ったから、自分達も関係ない人を理不尽な目に会わせて良い”と言う事はとんでもない罪だと強く意識して世に同調圧力させ、治安や民度の改善を我は図りたい。


 例えばリラティヴィステットの群衆は賊をこっぴどく言ってしまった手前、もう同じ事はそうそう出来まい。そうやって世論を誘導して身勝手な暴動を少しでも意識の上から抑止させ、今後の治安を改善する布石を敷くのだ。


 また、現状を放棄、意気消沈して泣き寝入りするんじゃなくて、主体的に鼓舞して戦意高揚させ、状況打開の努力を自ら決心して行動させる。


 指を咥えて馬鹿に独裁させ、酷い目に会って自暴自棄になり平和を滅茶苦茶にする。こんな馬鹿な事はあるか? しかし長年続いた絶対的王権による独裁政治は、国民を自律神経失調症に至らしめてしまった。


 この国を救うには多少荒療法となっても、まずここから治療して行かねばならないのだ。


 次に、賊に関しては、単純にその労力が欲しかった。二千人近くの労力が手に入ったのだからこれを使わない手は無い。王ゴッズフィストの所は労働力は幾らあっても良い。


 北の親玉は最後の最後で罪の意識が芽生え、自身の処刑を要求した。それに、彼らが暴れた原因はキャッツェガング王の暴政が原因でもある。これによって雀の涙ほどの情状酌量の余地が産まれ、賊共の処刑は免れた。


 だが何度も言うが、賊共はこれまでにとんでもなく取り返しのつかない事をしてきてしまった。もし彼らが横暴な権力から善良な者を守る為とか、そういった義賊的な信念によってそれ相応の行動をしていたのなら、罪を放免して第十軍への吸収か、母エミリアの所へ送ることも考えた。だが、そうではなくてとても残念である……。


 大罪を犯した賊共は殺しはしない。だが、王ゴッズフィストの所で()()()()してもらおう。


 では此れをもって、お白洲の沙汰はお開きである。


 北の親玉は再度縛られ、罪の意識に意気消沈する賊共は武装監視付き野外キャンプへと押し込まれた。元々北の賊共が持っていた兵糧を此れにあてがう。そして怒り猛る群衆は、これからは自分達でこの国を何とかせねばならないと、その場を解散した。そして一部の群衆は、我や第十軍に感謝の意を伝えてきた。


 そうだ。母エミリアで思い出した。撤退ついでに、来た時に見た大量の難民を拾って新設伯爵領ミュースへご招待するのはどうか? ド田舎の開発……。金はあっても、どうせ人足は深刻的に不足しているだろう。


 すると今度は、十分自活するまでの食料や種、家畜や道具、建築資材が必要になるだろう。ならば撤退ついでに軍資金及びミュース伯爵領のツケで兵糧同様、買いまくって移送してしまおう。もし、資金が足りなくなりそうであるならば、王ゴッズフィストの隠し金山を利用すればよい。


 我はそんな事を思いながら、すっからかんの輜重をルキウス卿と眺める。


 キャッツェガング王は勝手に我等の兵糧を解放してしまった。それは実に腹が立った。が、だからと言って我は泣き寝入りはしない。撤退せねばとあるのなら、その撤退を最大限利用して今後を有利に進めてしまおう。


 凶は転じて吉となる。ピンチは最大のチャンスである。


 我が軍はそうして罪人を伴って、撤退の準備に入る。だが、我はこの街の住人と守る兵士に約束した。


「我等はやむなく一時撤退するが、我等帝国軍第十軍は必ず戻る。それまで、自分達で何が出来るか考え試して、この街を全力で守って欲しい」


 すると、リラティヴィステットのリーダー候補達は目を輝かせて我に言った。


「──必ず!」


 我等は撤退を開始した。


 やれやれ、せっかく初戦を勝ったのに、悔しくも即撤退になってしまった。それは、キャッツェガング王のせいでもあるが、その前に我のせいである。やはり兵站で悩むのが戦争である。


 三国志で曹操を攻めた袁紹は、兵糧を焼かれて負けた。ロシアを攻めたナポレオンやドイツは焦土作戦をされて負けた。太平洋戦争の日本はシーレーンをアメリカに破壊され負けた。ウクライナを攻めたロシアは、的確に輸送網を攻撃され、また、自らレーションを横流しした上に、大義名分を失って世界に干されて自滅した。全部兵站、戦略失敗の例である。


 さらに言うならば、有名な諸葛孔明と司馬仲達の戦いは、その話の半分近くは兵站合戦である。いかに自分の兵站を確保し、いかに敵の兵站を破壊もしくは奪うかであった。


 つまり、我は初めて敗北したのだ。戦術で勝って、戦略に負けたのだ。


 輜重隊を使って軍事物資を集中運用するのは効率面では優位だが、今回の様な何かあった時に一気に失いやすい。我は対策を考えねばならない。物資輸送の分散が手っ取り早そうだ。輜重隊の運用はそのままに、更に兵士一人一人にランドセルを背負わせ各々で兵糧や物資を管理させて見よう。


 ランドセルは、元々は軍用の背嚢なのである。ナポレオンはロシアでは兵站で負けたが、それ以外はこの背嚢で兵站の分散効率化を図って成功している。行軍スピードも上がったらしいし、訓練にもなったようだ。


 兵士は、四六時中戦闘している訳ではない。その殆どが行軍か駐屯であり、その背の空いたリソースを物資輸送に割くのである。そうする事により、今回の様な輜重を失う事態になっても、ある程度は物資全体の被害を抑えられるだろう。

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